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【研究リポート】

FCC FORUM 2023

人材は今、企業価値の向上において最も重要な要素と位置付けられ、積極的に投資を行うべき対象へ変化している。新たな製品・サービスを生み出す力や、新たなビジネスモデルへの対応力は、全て人材が生み出すものであり、それが企業の競争優位性の源泉となるからだ。「投資により、人材の価値を新しく創造する」「人材の力を高めることで、企業価値を高める」をテーマに開催し、全国1700名の経営者・リーダーが視聴したタナベコンサルティング「ファーストコールカンパニーフォーラム2023」(2023年6~8月、オンデマンド開催)の講演内容をまとめた。
研究リポート2023.10.02

「終身成長」と「共創力」を育む人財戦略:旭化成

自律的なキャリア形成を支援

 

松本 CLAPを通した社員のキャリア自律や永続発展に向けた次世代人財育成、進取の文化形成に対する取り組みを教えていただきました。最後に共創力についてお聞かせください。

 

白井 共創力を高める施策を3つ紹介いたします。

 

1つ目は高度専門職制度。これは新規事業創出・事業拡大に必要な専門性を持つ人財を継続的に育成していく仕組みです。2008年から実施しており、2017年に積極的に活用できる仕組みへリニューアルしました。専門人財が会社の中にどれだけいるのかを可視化することで、専門人財に相談したり協力を依頼したりと、つながりをつくりながら新規事業創出・事業拡大を図っていきます。

 

高度専門職は「シニアフェロー」「エグゼクティブフェロー」「プリンシパルエキスパート」「リードエキスパート」「エキスパート」の5つに分かれています。例えば、プリンシパルエキスパートはその業界の第一人者といわれるぐらい専門力の高い人財。リードエキスパートはそこに次ぐ専門職であり部長相当の位置付け、エキスパートはリードエキスパートの候補者でライン課長相当の位置付けとなっています。

 

運用面では、新規事業創出・事業拡大に必要な専門領域を設定し、領域ごとに人財育成委員会を設置して候補者の選定や育成などを協議しています。専門領域は技術系に限りません。法務や経理、人事といったスタッフ部門にも設定しています。現在、295名が高度専門職として任命されていますが、2024年末に360名とするKPIを設定しています。

 

2つ目は女性活躍推進の取り組みです。D&I(ダイバーシティー&インクルージョン)の実現に向けて、具体的な課題を把握しやすい点や取り組みの結果が測定可能である点から女性に焦点を当てました。具体的には、ラインの課長以上のポストと高度専門職における女性比率について、2024年度末までに5%、2030年度末までに10%を目指すという全社KPIを掲げています。

 

中期経営計画に女性活躍推進のKPIを盛り込んで社内外に発信したことをはじめ、社長が各部門に取り組みを指示しており、さらに女性活躍推進の進捗状況が役員の処遇の一部に反映される形になっています。

 

ほかにも、役員向け講演会の企画や部門長からの発信、事業部長メンバーでの議論、ワーキンググループの結成、若手社員を含めたヒアリングの実施、社内報でのD&I特集記事の掲載など、さまざまな形で取り組みを進めております。女性に焦点を当てていますが、こうした環境が実現できれば多様な人材が働きやすい環境につながると考えています。

 

3つ目は、「CaMP(キャンプ)」というタレントマネジメントシステムについてです。正式名称は「Career Management Place」。従業員個人の職務経歴やキャリアプランを一元管理するシステムです。さまざまなシステムに点在していた職務経歴やキャリアプランをCaMPにまとめたことで、例えば閲覧許可のある事業部長層がサクセッションプランを考える際、社内にどういった人財がいるのかが分かる仕組みになっています。

 

また、保有スキルや専門性については全従業員が閲覧できるので、互いのことを知るきっかけになります。また、まだ検討段階ですが、従業員同士のつながりを推進するために検索性を持たせたいと考えています。

 

 

人財を可視化し、活用・キャリア形成につなげる

 

白井 現在の活用法としては、従業員自身が情報や職歴を確認したり、過去を振り返ったりできるほか、今後のキャリアを検討・発信することができます。今後、どのようなキャリアプランを描きたいかをきちんと書き込んでおけば、上司とのより深い対話にもつながります。上司にとっても部下とのキャリア面談や育成配置方針を記録できるため、部下のキャリア形成支援に役立てることができます。

 

松本 詳しく説明いただきありがとうございます。本対談を通して、人財価値を創造し続ける人財戦略のポイントが見えてきました。

 

1点目は、経営戦略と人財戦略を連動させ、そのモニタリング指標として人的資本KPI、あるいは人事KPIを設定していること。2点目は、100年企業に根付いた旭化成スピリットです。A-Spiritを企業DNAとして、人事部門が経営に深く関わる形で、キャリア形成を支える環境やプラットフォームを用意しています。

 

3点目は、グローバル企業らしく多様性を広げたり、つなげたりする仕組みです。HRDXのような仕組みも活用しながらエンゲージメントを高めています。

 

まさに経営戦略と人財戦略を融合させることによって、自社の業績や価値を高めていらっしゃいます。本日は誠にありがとうございました。

 

 

PROFILE

  • 旭化成㈱ 人事部 人事制度室 室長
    白井 彰(しらい あきら)氏
    1997年に旭化成に入社。工場勤労、労務、人事制度企画、海外駐在(米・欧)、事業部門のBPを経験し、現職。役割等級制度の導入、業績連動賞与導入、リハビリ勤務制度(復職支援制度)導入、諸制度の改廃等、人事制度設計について幅広い経験を有する。海外駐在では米国での駐在経験を活かし、欧州で人事業務支援体制を立ち上げる等、グローバル人事に関してもさまざまな経験を有する。

 

Interviewer

松本 宗家(まつもと むねや)
タナベコンサルティング HR ゼネラルパートナー

 

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