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【研究リポート】

FCC FORUM 2023

人材は今、企業価値の向上において最も重要な要素と位置付けられ、積極的に投資を行うべき対象へ変化している。新たな製品・サービスを生み出す力や、新たなビジネスモデルへの対応力は、全て人材が生み出すものであり、それが企業の競争優位性の源泉となるからだ。「投資により、人材の価値を新しく創造する」「人材の力を高めることで、企業価値を高める」をテーマに開催し、全国1700名の経営者・リーダーが視聴したタナベコンサルティング「ファーストコールカンパニーフォーラム2023」(2023年6~8月、オンデマンド開催)の講演内容をまとめた。
研究リポート2023.10.02

「自律型人材」の育成で“はたらく”に歓びを:リコー

 

OA機器からデジタルサービスの会社へ

 

タナベコンサルティング・細江(以降、細江) 会社概要と、長久室長の仕事内容をお聞かせください。

 

長久 コピー機やOA機器をイメージする方も多いかと思いますが、2020年に「デジタルサービスの会社に変革する」と宣言しました。これまでも、OA機器を通してお客さまの「働く」に寄り添ってきました。「はたらくを歓びに」変えるお手伝いをすること。それがリコーの使命と考えておりますが、2023年4月にスタートした第21次中期経営計画では、そうした姿勢をさらに突き詰めるため会社のビジョンやミッションを刷新しました。

 

会社全体で掲げたのが、これまで2036年ビジョンとしていた「“はたらく”に歓びを」です。創業100周年を迎える2036年を見据えて、はたらく人の想像力を支え、ワークスペースを変えるデジタルサービスの会社になることを目標に変革を進めていますが、そのような価値をお客さまにご提供するために、まずは自分たちで実践してみることが重要だと考えています。当社では「社内実践」という言葉を使っていますが、人事においてもリコーが率先して「人材」をつくること、そのための新たな人事制度の導入などに取り組んでいます。

 

 

リコー式ジョブ型人事制度

 

細江 リコーの人事制度では「自律型人材」がポイントになっています。

 

長久 2017年に人事改革が本格的に始まり、2020年からの第20次中期経営計画において「自律型人材」「デジタルサービスの会社へ」というキーワードが掲げられました。人事改革の背景として、かつては製造業ならではの画一的な考え方や、会社が社員にオーダーを出して物事を進めるところもありました。しかし、デジタルサービスの会社を目指すなら、多様な顧客ニーズに対し、自律した社員が自ら考え、スピーディーに応える姿勢が必要。それには、従来のやり方では難しいという課題感がありました。

 

「自律型人材を育成する人事制度」「デジタルサービスの会社として求める人材」「自律型人材の育成制度」について議論を重ね、導き出されたのがジョブ型人事制度です。2022年4月からリコー式ジョブ型人事制度として運用が始まっています。

 

細江 リコー式のジョブ型人事制度の特長は、どのようなところでしょうか。

 

長久 「フレキシビリティー」です。一般的なジョブ型は、1つのジョブに1つの報酬が付くイメージですが、リコー式の場合はブロードバンド(等級区分を広い幅でくくること)で見ていきます。1つのポジション(等級区分)の中で報酬に柔軟性を持たせることで、異動のフレキシビリティーを確保する制度にしました。もともと管理職は複線型人事でマネジメントとエキスパートの2コースに分かれていましたが、ブロードバンドであることでマネジメントからエキスパートや、エキスパートからマネジメントに移ることも可能になります。異動のたびに報酬が変わって手続きが煩雑になると異動が難しくなります。そうした課題を解決しているのがポイントです。

 

細江 社員の反応はいかがでしたか。

 

長久 導入には賛否がありました。ジョブ型という言葉に恐怖感を抱いた社員もいましたが、そこはコミュニケーションが大切。丁寧に話し合いを重ね、グループ会社も含めて理解を得ることができました。

 

一方、異動の自由度の高さは好評でした。技術部門に限られていたエキスパート職が管理部門も含む全部門に広がりましたし、若手の登用に関しても間口が広がっています。まだ事例はないものの、新卒入社も5年程度で管理職に昇格可能で、実際に30歳代の管理職は増えています。

 

 

人事KPIとアカデミーで自律型人材を育成

 

細江 最後に、ビジョン実現に向けた人事KPI(重要業績評価指標)と教育制度についてお聞かせください。

 

長久 人事KPIの1つにエンゲージメントスコアがあります。従来グローバルで実施していたサーベイの平均スコアをKPIとし、世の中における自社の位置を見ていましたが、第21次中期経営計画から他社との比較ではなく、自社の経年での変化率を見ています。経年で見ると着実にスコアが上がっており、数年かけて全社で取り組んできた手応えを感じています。

 

もう1つ、女性管理職比率についてはグローバルで20%、国内10%を目標に掲げ、目下注力しています。

 

教育に関しては、デジタルスキルを自律的に磨くことができる社内研修プラットフォーム「リコーデジタルアカデミー」を2022年に立ち上げました。全社員対象のデジタルナレッジ研修と、グループ各社・各組織からの選出メンバー対象の専門的能力強化研修の2層構造。基本的にはeラーニングですが、動画講義や専門の講師が講義を行うスタイルも交えながら、一人一人が自律的に学び続けることを支援しています。

 

人事制度改革においては、企業理念の「“はたらく”に歓びを」が全ての根幹になります。働く人に寄り添うリコー。それを支える自律型人材の育成に向けて人事としてもさらに注力してまいります。

 

細江 お話しから、①在るべき姿をビジョンに描き、必要な制度を導入する(経営を考え、人事を考える)、②制度の導入に際し、各方面と積極的にコミュニケーションを取る、③さまざまな変革の中で制度の深化を図る、という3つがポイントと感じました。本日はありがとうございました。

 

 

「自律型人材」の育成で“はたらく”に歓びを:リコー

PROFILE

  • ㈱リコー 人事部 人事室長 兼 タレントアクイジョン室長
    長久 良子(ながひさ りょうこ)氏
    新卒で日産自動車に入社しアフターセールス部門に配属。北米、欧州向けの補修部品・アクセサリーの販売や企画を経験後、2001年に人事部門に異動。アジアリージョン人事担当時は1年間タイ日産に赴任、アフリカ・中近東・インドリージョンで人事部長を務めた。2018年から3年間、ボルボ・カー・ジャパンにて人事総務ディレクターを務めた後、2021年にリコーに入社。本社人事部にてHRBP室長、タレントアクイジション室長を務めた後、現在は人事室長、人事総務センター長として国内リコーグループ全体を担当。

 

Interviewer

細江 一樹 タナベコンサルティング 戦略総合研究所 エグゼクティブパートナー

細江 一樹(ほそえ かずき)
タナベコンサルティング 戦略総合研究所 エグゼクティブパートナー

 

経営者・人事部門のためのHR情報サイト タナベコンサルティング

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