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100年先も一番に
選ばれる会社へ、「決断」を。
【対談】

100年経営対談

注目企業のトップや有識者と、タナベコンサルティンググループの社長・若松孝彦が「100年経営」をテーマに対談。未来へ向けた企業の在るべき姿を描きます。
対談2024.04.26

常識にとらわれない挑戦でV字回復を実現する:ドムドムフードサービス 藤﨑 忍×タナベコンサルティング 若松 孝彦

 

1970年の創業から54年を迎えるドムドムハンバーガーが再成長に挑んでいる。最盛期の400店から一時は27店舗まで縮小し、“絶滅危惧種”とささやかれた日本発祥のハンバーガーチェーンを再生に導いたのは、39歳まで専業主婦だった異例の経歴を持つドムドムフードサービス代表取締役社長の藤﨑忍氏だ。「人への思いこそ、ビジネスにおいて最も重要」と語る藤﨑氏に、成熟市場でも選ばれる会社へのヒントを伺った。

 

 


専業主婦からアパレルショップの店長に転身

 

若松 今回の対談場所のイオンスタイル赤羽店は、ドムドムハンバーガーが提案する新しいスタイルの店舗ですね。赤を基調にしたドムドムらしい素敵な店舗です。

ドムドムハンバーガーは日本発のハンバーガーチェーンとして、かつては400店舗を展開されていました。それが2021年には27店舗まで縮小。赤字が常態化する中、火中の栗を拾った藤﨑社長は業績をV字回復させました。その手腕がメディアなどでも高く評価されていますが、意外なことに藤﨑社長は39歳まで就業のご経験がなかったのですね。

藤﨑 ありがとうございます。短大卒業後すぐに結婚し、専業主婦として地方政治家だった夫を支えていました。夫は墨田区議会議員を4期務めた後、都議会選挙に挑戦しましたが落選。さらに、心筋梗塞で倒れてしまい、私は生活費などを工面するため、東京・渋谷の「SHIBUYA109」にあったアパレルショップの店長として働くことになりました。39歳で就業経験も何のスキルもないのに、とてもありがたかったです。

若松 SHIBUYA109は、言わずと知れた「ギャル文化」の聖地です。地方政治家だったご主人を支える専業主婦だったわけですから、思い切った転身というか、全てがカルチャーショックだったとお察しします。

藤﨑 私は小学校から短大まで私立の一貫校に通っていましたし、地方政治家の家で育ち、地方政治家に嫁いだので、非常に限られた環境で生きてきたことに気付かされました。SHIBUYA109で働くうちに、多面的に物事を見ることやこだわらない大切さを学びましたし、そこで出会った人たちは良い人ばかりで、リスペクトする部分がたくさんありました。ギャル文化の知識はもちろん、ファッションやヘアメイクに対して彼女たちは非常に貪欲。自分を表現することへの一生懸命さや、カルチャーに真摯(しんし)に向き合う姿勢は素晴らしいと思います。

 

 


当たり前を積み重ね5年で年商を2倍に

 

若松 藤﨑社長はビジネスに素直というか、正直に向き合ったのでしょうね。何よりも成果を出すことにまっすぐだった。それが異なるカルチャーを受け入れる柔軟さにつながったのだと思います。その店の年商は5年で2倍になったのですよね。

 

藤﨑 はい。入社した年に1億円だった年商は毎年順調に伸び、5年目には1億9000万円になりました。私の場合、未経験の業界であったことが、かえって良かったのだと思います。

 

お客さまにとって居心地の良い空間にするために何ができるかを自分なりに考えて、まずは店の掃除をして店内に積まれた段ボール箱を処分したり、カーテンが汚れていたら華やかな色合いの布を買ってきてミシンで縫って付け替えたり。それが終わったら、次はどのラックがいくら売れているかを把握する。1日見ていれば分かりますから、坪効率を算出し、売れる物と売れない物を見極めて商品ラインアップを変えていく。わずか10坪の店でしたが、お客さまの反応をどう見るかなど学びは大きかったです。

 

若松 就業経験やアパレルでのご経験がなかった分、業界の常識や感性にとらわれるのではなく、顧客に真摯に向き合う経営者感覚があったからこそ、現場改善に取り組めたのかもしれませんね。

 

藤﨑 それはあると思います。例えば、時間帯ごとの売り上げを把握するため、1時間ごとにレジ精算をして手作業で計算していました。本当ならレジのキーを押すだけで出てくるのに、使い方が分からなかったのです(笑)。

 

「売り上げを上げるにはどうすれば良いか?」「人件費率を下げるには?」「1時間当たりの売り上げを上げるには?」といったことばかり毎日考えながら、目の前のことに1つずつ取り組みました。数字を目標にしていたわけではありませんが、結果として売り上げは2億円近くになりました。

 

若松 今の経営スタイルにも通じる原体験のように思います。大切なポイントは、業績を改善したことですね。昨日より今日が良くなるように努める。先週よりも今週、昨年よりも今年が良くなるよう改善を積み重ねてこられた結果です。改善というよりも、「目の前のお客さまに喜んでいいただくために何をすべきか」という非常に大切かつシンプルな商売思考のように感じます。

 


失業して居酒屋を開店、スカウトされドムドムの商品開発に参画

 

若松 SHIBUYA109でのご経験後に開店された飲食店も人気店にされたそうですね。どのような経緯で飲食店経営を始められたのでしょうか。

 

藤﨑 SHIBUYA109の店舗が好調になると、オーナーの親族経営の方針転換で、私は退社を余儀なくされました。しかも、専務だったので失業保険も出ません。とりあえず、東京・新橋にある居酒屋でアルバイトを始めたところ、常連さんから「自分でお店をやったら?」と声を掛けていただきました。本当はSHIBUYA109で起業したかったのですが、当時はテナントが大変な人気で出店が難しい状況だったので、まずは居酒屋を開くことにしました。アルバイトを始めて4カ月後には資金調達のために事業計画書を書いていました。

 

若松 藤﨑社長は顧客を引き付ける魅力があるのでしょう。居酒屋経営が藤﨑社長にとって初めての起業ですね。しかも前職でのご経験がある分、展開が早く決断力もあります。飲食店はすぐに軌道に乗ったのでしょうか。

 

藤﨑 家庭料理を提供する「そらき」は、4人掛けのテーブル席が3つと、カウンター6席の小さなお店でしたが、ありがたいことに半年ほどで予約しないと入れない店になりました。私は下町の地方政治家の家庭で育ちましたから、近所の方や父の支援者が我が家で夕食を一緒に取る機会も多く、子どものころから自然と母を手伝ったり、料理を作ったりしていました。私にとっては、さまざまな方と交流するのも、料理を振る舞うことも、ごく当たり前に身に付けてきたこと。ただ、料理の見栄えを良くしたり、食べやすい形状にしたりは試行錯誤しました。

 

若松 経営には、社長の背景や生き方が大きく影響します。異業種でも成功された要因として、藤﨑社長のご経験やお人柄、仕事への向き合い方が影響されているのだろうと思います。

 

藤﨑 ありがとうございます。ただ、店は順調な半面、席数の兼ね合いで予約や入店をお断りすることが多くなると、お客さまが離れてしまうのではないかと不安になりました。そこで、ちょうど隣の店舗が空いたので2店目の「SORAKI-T」を開店。ありがたいことに、新橋駅前のビルという好立地もあって、すぐに軌道に乗りました。私が次々と新しいことをするのは不安だからなのです。

 

若松 経営は、「悲観的に準備して楽観的に行動する」ことが原則です。それを体現されています。また、飲食・外食業界では立地が非常に大事です。成否の半分以上は立地戦略だと言っても過言ではありません。

 

居酒屋そらきの実績が、ドムドムフードサービスの経営陣の目に留まってスカウトされたそうですね。

 

藤﨑 正確には、ドムドムフードサービスの親会社であるレンブラントホールディングスの専務だった常連さんから、「ドムドムハンバーガーのメニュー開発を手伝ってほしい」とお声掛けいただきました。予想もしなかったことに驚きましたが、ドムドムハンバーガーは私たちの世代にはなじみがありますし、居酒屋を続けながら参加できることもあって興味を持ちました。

 


大赤字を目の当たりにし社長になって改革に着手

 

若松 藤﨑社長は、2017年7月からドムドムハンバーガーの商品開発に参画されました。この点も常識的に考えると、ハンバーガーショップのメニューですから居酒屋のメニューとは大きく異なります。

 

藤﨑 そらきの看板メニューだった厚焼きたまごをバンズに挟んだ「手作り厚焼きたまごバーガー」や、タルタルソースを監修した「エビカツバーガー」など多くの商品開発に携わりました。ただ、実際に店舗を回ってみると味や形がまちまちで、正直「もう一度食べたいとは思えないな」と感じました。それは決算にも如実に表れており、初めての決算となる2018年3月期は、予想をはるかに上回るマイナスでした。そこからはい上がっていくのに2、3年は掛かりました。

 

若松 看板商品の開発に注力されたのですね。しかも、それは今のドムドムハンバーガーのメニューにも生かされているから不思議です。そして、決算書を意識したのは、居酒屋経営をやってきた経験からきています。そこで、商品もそうですが、経営自体にも課題があると感じたのですね。商売の原則は、アパレル店舗も居酒屋もハンバーガーショップも同じですから。社長であり、経営コンサルタントである私自身も同感です。

 

藤﨑 私が店舗を視察して気付いたことをまとめたリポートが専務の目に留まり、2017年11月にドムドムフードサービスに正式に入社しました。新店舗に配属され、店長として4カ月ほど働いた後、2018年4月から東日本の店舗を担当するSV(スーパーバイザー)を任されました。

 

若松 正式に入社をされて、会社はどのような雰囲気だと感じられたのでしょうか。商品開発をサポートされていた時とは違っていましたか。

 

藤﨑 例えば、SVの会議で報告されるのは、「○○店は前年対比△パーセント、予算比□パーセント」といった数字ばかり。ただ、それらは手元の資料を確認すれば分かりますから、「意味があるのかな?」と疑問に思いました。それよりも、「こんなトラブルがありました」「この商品が好調です」といった話の方が参考になりますが、全く出てこない。取締役会の決定事項についても、SVに降りてくるだけ。立場を超えて発言できる雰囲気ではありませんでした。

 

若松 なるほど。私も経営コンサルタントとして300社以上の企業再生を支援してきたので、病状として分かります。経営陣が「現場主義の経営」から遠ざかっていたのですね。また、ある程度の規模になったので管理偏重というか、組織が少し官僚化していたのでしょう。議論やコミュニケーションが届かないのは問題です。

 

藤﨑 ですから、本当に生意気ですが、専務に「意見の言える立場にしてほしい」と直訴しました。組織を変えられる力を持たないと駄目だと考え、断られても電話をしたり、メールで改善案を送ったり。いま見返すと、改善案も一般論的で稚拙(ちせつ)な内容でしたが、熱意が受け入れられたのだと思います。そして、2018年8月に代表取締役社長に就任しました。

 

 

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