ECと店舗をシームレスに連携させたオムニチャネル※戦略、DX人材の育成や適切な組織体制の整備、積極的なAI活用など、いち早くデジタル経営にシフトして得た成果に迫る。
高知県で1934年に創業したキタムラ。対面での接客が当たり前だった写真専門店で、1976年に半対面・半セルフの接客を始め、当時の常識を覆した。その新たな業態が、「買わなくても気軽に立ち寄れる」と顧客の支持を獲得。その後も「町のカメラ屋」はさまざまな進化を遂げてきた。
ビックカメラやヨドバシカメラが家電量販店として事業を拡大したのに対し、同社は「カメラ専業店」として全国に出店。その間、カメラや写真を取り巻く環境は大きく変化した。長く市場を独占していたフィルムカメラだったが、2000年に入るとデジタルカメラが瞬く間に市場の主役に躍り出たのである。さらに、2010年代には高性能なスマートフォンのカメラ機能を利用して撮影するユーザーが増加。カメラを持ち歩く人は減少し、いつからかハレの場でしか使用しない人も多くなった。
時代が移り変わる中、キタムラが大きく転換するきっかけになったのは2007年だった。本格的なEC運営に乗り出したのだ。新たな販売チャネルの責任者として白羽の矢が立ったのが、店舗スタッフとしてキャリアを積んできた代表取締役 社長執行役員の柳沢啓氏である。
「店舗スタッフが7000名いる中、EC事業は5名。少人数での船出でした。当時のEC分野は、楽天などのメガサイトが存在感を示している状況でしたので、そこにカメラ専用小売店である当社が参入しても埋没してしまうのではないかと危惧していました。
そのため、選んだ戦略は『戦わない』でした。メガサイトとも自社店舗とも競合しないという方針を掲げるとともに、簡単に買い物ができる仕組みを整えました」(柳沢氏)
方針の下、「商品を選ぶ」「個数を選ぶ」「商品を確定する」「決済する」という4クリックで買い物ができるようにし、EC利用のハードルを下げることに成功。さらに、宅配だけでなく店舗でも商品を受け取れるようにした。全国にある店舗ネットワークを生かす戦略である。店舗でのEC経由の商品受け渡しは、店舗の売り上げに計上できるよう社内調整した。
「売り上げ込みの店舗受け取りは、お客さまの利便性向上という側面に加えて、ECと店舗が競合せずに協力関係を築く意味でも不可欠だと考えていました。実店舗とECが売り上げを取り合う事態を避けたかったのです。その結果、ECは店舗の協力を得ることができ、その後の事業展開にさまざまな相乗効果を生みました」(柳沢氏)
キタムラにおけるECと店舗の連携のターニングポイントは、2012年に店舗業務へタブレット端末を導入したことである。来店客の欲しい商品が店舗にない場合や、商品選びの相談をする時に、店舗スタッフがタブレット端末を見ながらアドバイスできるようにした。
「カメラのキタムラは小さな店舗ですから、膨大な在庫を抱えられません。そのため、お客さまの求める商品が来店時に店舗にない場合もあります。そんな時、タブレット端末を用いてお客さまの要望をお聞きしながら、ECサイトで最適な商品を選べるようにしました。
在庫確認や店舗への取り寄せがスムーズにできますし、お客さまのご都合に合わせて宅配でお届けすることも可能になります。結果として、当時では珍しかったオムニチャネルを早い段階から展開していたことになります」(柳沢氏)
ECと店舗を融合させることで顧客は増え、売り上げも増加。自社ECサイトを立ち上げて本格参入した2007年に11%だったEC関与率が、店舗にタブレッドを導入した2012年には37%と3倍以上になった。
なお、2020年に新型コロナウイルスの感染が拡大し、ECを利用する消費者が増えた際は、もともとシステムが整っていたため、EC関与率は2020年に55%、2022年には60%まで増加している。ECは、キタムラを支える大きな事業の柱になったのである。