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【研究リポート】

CX / 顧客体験価値

CX(カスタマーエクスペリエンス:顧客体験価値)とは、顧客が感じる「おいしい」「うれしい」「興味深い」といった感情的な価値を含めた評価を得て、自社の市場優位性を高める考え方である。FCCフォーラム「CX」のセッションでは、BtoBビジネスとBtoCビジネスそれぞれにおいてCXを提供するための戦略について、タナベコンサルティングが基本講義を行い、先進企業の事例を紹介。ゲスト3社の講演・対談からは、CXによって付加価値を高め、顧客創造とLTV(顧客生涯価値)向上を実現した取り組みと、その実践ポイントを学んだ。
研究リポート2022.10.03

ファンをつくり、顧客満足を最大化するCX戦略:森田 裕介、松岡 彩、森重 裕彰、庄田 順一

 

製品とサービスの融合によるCXの提供

 

 

タナベコンサルティング
ストラテジー&ドメイン大阪本部 本部長代理
森田 裕介(もりた ゆうすけ)
大手アパレルSPA企業を経て、2012年入社。2019年より、ドメインコンサルティング大阪本部本部長代理兼ライフスタイルビジネス研究会リーダーに就任。ライフスタイル産業の発展を使命とし、アパレル分野をはじめとする対消費者ビジネスの事業戦略構築、新規事業開発を得意とする。理論だけでなく、現場の意見に基づく戦略構築から実行まで、顧客と一体になった実践的なコンサルティング展開で、多くのクライアントから高い評価を得ている。

 

製品・サービス領域においてCX(顧客体験価値)を高める目的は「付加価値の向上」に他なりません。顧客の業績向上の期待値を高めるプロセスは、「製品・サービス提供を通じたUX(ユーザー体験価値)向上」「魅力ある製品・サービスを創造するケイパビリティー(企業、組織全体の強み)の向上」「コアコンピタンスを軸に顧客の課題を解決する唯一無二の製品・サービスの創造」です。

 

リアルとデジタルを融合させるインダストリー4.0※1とデジタルツイン※2革命を背景に、ものづくり産業はサービス化へのシフトが進んでいます。日本のものづくり産業の復活には、技術力や熟練工、現場ノウハウといった暗黙知をデジタル技術で磨き上げ、新たな体験価値(機能価値・知識価値・感情価値)へ転換させるサービスの実現が求められます。

 

建設機械メーカーのコマツ(東京都港区)は、機械の作動状況を見える化した遠隔監査システム「KOMTRAX」を自社製品に標準搭載し、顧客に「故障予知を実現する」という体験価値を提供した結果、膨大な修理部品の在庫削減につながりました。体験価値の創造は、従来は想定していなかった同業種や異業種の新規顧客獲得も可能にします。

 

コア技術ごとのソリューション展開と提供すべき体験価値は【図表】の通りです。顧客からサービス提供の対価を支払ってもらうための仕組み形成と、その推進を俊敏に実現するケイパビリティーの実装がポイントになります。

 

 

【図表】デジタル技術の融合による体験価値の創造

出所:タナベコンサルティング作成

 

 

※1…ITを駆使し、製造業を中心にさまざまな変革を促そうとする概念。「第4次産業革命」とも訳される
※2…物理空間から取得した情報をもとに、デジタル空間に物理空間のコピーを再現する技術

 

 

 

「リアル×デジタル」を駆使した付加価値の向上

 

 

タナベコンサルティング
執行役員 クリエイティブ&デザイン東京本部 本部長
松岡 彩(まつおか あや)
外資系ラグジュアリーブランド、化粧品業界、飲料・食品業界、教育出版業界、出版業界、コーヒーショップ、ペットショップなど多岐にわたる大手企業のセールスプロモーション支援に従事。デザインの付加価値でブランドイメージを最大化するべく、ストーリーに沿ったプレミアム、ツール制作を得意とし、企業の売上促進や顧客ファンづくりに貢献している。

 

製品・サービスそのものの差別化が難しい時代になり、企業はDXによる業務効率化と製品・サービスの付加価値向上に取り組まなくてはなりません。高付加価値化の実現に向け、製品・サービスのUX(ユーザー体験価値)を高め、「質」を向上させる必要があります。

 

まず、「UXデザインのプロセスを組み上げる」ことが重要です。UXデザインとは、製品やサービス、システムなどの利用を通じてユーザーが得る全ての体験を設計することです。

 

ユーザーは商品を所有することよりも、商品を通して得られる“体験”に価値を感じ、重視する傾向があります。基本的なUXデザインが「ユーザーニーズの調査」→「ユーザーニーズの分析」→「プロトタイプの作成」→「評価(ユーザー検証)」というプロセスの中で、「リアル×デジタル」を駆使したユーザーとの密接なコミュニケーションによって「顧客体験の創出」を図ることがポイントになります。

 

「企業ケイパビリティー(企業、組織全体の強み)の向上」も重要な取り組みです。企業ケイパビリティーには、①オーディナリーケイパビリティー(現在の経営資源を効率的に活用し、利益を最大化する能力)と、②ダイナミックケイパビリティー(時代や環境の変化に応じて企業が取るべき行動を変革し続ける能力)があります。変化の激しい時代においては、①だけでは他社に手法を模倣されて競争力を失う可能性があるので、②も身につけて改善・変革を当たり前と捉える組織づくりを推進すべきです。

 

さらに、ユーザーに寄り添って共感を生み、課題解決につなげる「唯一無二のサービス」を開発することも必要です。そのために、コアコンピタンス(競合他社がまねできない、ビジネスをする上で核となる圧倒的な能力)を理解し、デザイン経営につなげることが重要になります。

 

このような「コアコンピタンス経営」に求められるのは、①顧客に何らかの利益をもたらす能力、②競合相手に追随されにくい能力、③複数の市場・商品を推進できる能力です。

 

特に③に関しては、UXをデザインするプロセスにおいてブランディング・マーケティングを実行することで、他社との差別化を加速し、高付加価値化することが可能になります。

 

 

 

 

BtoBマーケティングでファンづくりに挑戦する

 

 

タナベコンサルティング
中四国支社 支社長
森重 裕彰(もりしげ ひろあき)
大手自動車メーカーの生産技術担当を経て、2012年入社。2017年に尖端技術研究会を立ち上げ、シリコンバレー視察など、デジタルテクノロジーに関するビジネスへの展開について研究を深める。2022年に中四国支社長へ就任。中堅・中小企業における生産性改善、顧客価値創造を目的とした、DXビジョン構築や業務のデジタル化に向けた戦略立案から実行支援まで、戦略構築から実行支援まで一貫したサポートで成果を生み出すコンサルティングを得意とする。

 

コロナ禍に陥って2年、全企業が「リアル営業ができない」という危機に直面したと言っても過言ではありません。多くの企業はウェブ商談やメールマガジンといったデジタルへ営業活動の主体を移行しましたが、成果の観点から見てもリアル営業に置き換わったとは言えません。「組織」「ツール」「プロセス」の3領域でマーケティング(営業)のDX推進に積極果敢に取り組む必要があります。

 

DX化を前提にした、LTV(顧客生涯価値)を最大化させるBtoBマーケティングのステップは、①カスタマーサクセスによる既存顧客のリピート増大、②既存顧客をファンにする点から線へのマーケティング、③個別最適マーケティングを実現するABM(アカウント・ベースド・マーケティング)、の3つです。

 

①に関しては、組織体制と顧客データ管理を整備・構築する必要があります。営業パーソンが顧客の営業プロセスを一貫して担当するのが通常のパターンですが、この体制では営業パーソンの数が事業成長のボトルネックになりかねません。そこで、担当制は維持しつつ営業プロセスの一部を「カスタマーサクセス(内勤の営業担当)」に担わせるのが、タナベコンサルティングが導き出した最適解です。

 

カスタマーサクセスの組織を事業部内に設置し、「顧客を満足させて自社のファンに育成し、LTVを最大化する」というミッションと、クロスセル率(購入点数アップの比率)やアップセル率(単価アップの比率)といった評価指数を明確化します。

 

このような体制に移行し、クラウド上のCRM(顧客関係管理)やSFA(営業支援システム)を活用することによって、人や組織をまたいだ顧客軸での情報管理が可能になり、顧客の状況に応じた提案ができるようになります。

 

②に関してはウェブ上での顧客接点づくりが必要です。顧客接点が創造できれば、線、さらに面へ展開して密度の濃い顧客との関係性が構築できます。

 

③に出てくる「ABM」とは、BtoB企業において最初から顧客を絞り込み、個別企業に最適なアプローチをするマーケティング手法です。

 

顧客情報の一元管理ツール「uSonar(ユーソナー)」やMAツール「Adobe Marketo Engage(アドビマルケトエンゲージ)などを活用することでABMの導入・実践が可能になります。

 

 

 

 

顧客満足を最大化させるBtoCマーケティング

 

 

タナベコンサルティング
執行役員 ブランド&マーケティング東京本部 本部長
庄田 順一(しょうだ じゅんいち)
マーケティング戦略パートナーとして、デジタルとリアルを融合したコミュニケーションの戦略設計コンサルティングを展開。ウェブとリアルを融合した集客プロモーションコンサルティングにより顧客を創造し、売り上げ拡大を支援している。マーケティングの戦略策定から実行·運営までをトータルにサポートし、2021年より現職兼マーケティングイノベーション研究会リーダー。特にプロモーション企画とその推進マネジメントを通じた人材育成で、クライアントから高い信頼を得ている。

 

米経済学者のフィリップ・コトラー氏は、顧客満足度について「買い手の期待に対して製品の知覚パフォーマンスがどれほどであったかによって得られる、個人の喜びまたは失望の感情」と定義しています。製品のパフォーマンスが期待を上回れば、顧客満足度は高まるのです。

 

ブランドに対する強い愛着や信頼度を維持する「ロイヤルカスタマー」の育成には、全社レベルで情報を共有・活用し、TQM(総合的品質管理)を向上させることが必要になります。

 

LTV(顧客生涯価値)とは、顧客との継続的な取引による利益を指し、企業によっては1回の利益が大きい顧客よりもLTVの高い顧客の方が最終的に優良顧客となります。LTV向上を図るマーケティングのステップは次の3つです。

 

1つ目は「質の向上(カスタマーサクセスによる既存顧客のリピート増大)」。CRM(顧客関係管理)を活用し、個々の顧客情報を管理して一人一人に最適な商品(製品・サービス)の提供に努め、顧客のロイヤルティーを高めていきます。顧客との関係性において重視すべきは、従来の顧客重視から「顧客主導」へのマインドチェンジです。

 

2つ目は「仕組み化(ファンがファンを生む仕組みづくり)」。消費者が商品を購入するまでに生じる企業との接点を「タッチポイント」と言い、認知(未購入商品への注目・興味)→検討(未購入商品の検索)→行動(商品の入手)→推奨(第三者へ紹介)と進んでいく過程を「カスタマージャーニー」と言います。タッチポイントごとに消費者の温度・熱意に合わせた対応が展開できる仕組み(カスタマージャーニーマップ)づくりが必要になります。

 

3つ目は「共感(顧客コミュニケーションの個別最適化と共創プラットフォーム)」。より強いロイヤルティーを生み出すために、優良顧客を囲い込むメンバーシップ・プログラム(会員制度)などを提供して友人や家族への推奨(紹介)を促し、さらなる顧客の創出につなげることも大切です。

 

口コミで伝えられる情報は、広告宣伝よりはるかに有益で、ロイヤルティーの高い顧客は有効な情報発信者(インフルエンサー)になり得ます。

 

また、新たな顧客獲得に努める一方で、顧客の離反は避けられません。顧客の維持率と離反率の数値化や離反原因の明確化、離反率を下げるためのコスト算出、顧客の声に応じた顧客関係の改善といった顧客離反防止策を遂行する必要があります。

 

 

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