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【研究リポート】

イベント開催リポート

タナベコンサルティンググループ主催のウェビナーやフォーラムの開催リポートです。
研究リポート2023.07.12

組織構造変革フォーラム(ゲスト:サノヤスホールディングス、AMS合同会社)

 

事業戦略を推進する組織デザイン

 

2023年春、多くの企業で賃上げが実施された。労働力人口が減少する中、企業は「賃上げ=コスト増」ではなく、人材・組織への戦略的な投資と捉える必要がある。こうした経営環境を踏まえ、タナベコンサルティングは2023年5月25日、「組織構造変革フォーラム」を開催。事業戦略を推進するための組織再編、間接部門のミドルオフィス化、無形資産への投資、コーポレート機能の企画化など、組織構造を変革することで生産性を高める方法について、特別ゲスト2名およびタナベコンサルティングのコンサルタント3名による講演をリアルタイムで配信した。

※登壇者の所属・役職などは開催当時のものです。

 

 

サノヤスホールディングス:中堅企業における「ホールディングス体制」VS 「事業ポートフォリオ経営」

 

 

サノヤスホールディングス株式会社 代表取締役会長
上田 孝氏
神戸大経済卒。同年住友銀行(現三井住友銀行)入行、2005年常務執行役員大阪本店営業本部長。2009年サノヤス・ヒシノ明昌(現サノヤスホールディングス)社長、2011年サノヤスホールディングス株式会社代表取締役社長を経て、2021年より現職。兵庫県出身。

 

ホールディングス化した背景と狙い

 

産業機械などの機械メーカーであるサノヤスグループは、創業110年を迎える直前の2021年2月に祖業である造船事業を売却し、ホールディング(HD)経営に移行。「中堅企業連邦経営」を掲げてM&Aを実行し、「建設業向け」「製造業向け」「レジャー事業」の3本柱で独自の事業ポートフォリオ経営を推進している。(【図表1】)

 

【図表1】サノヤスグループの事業会社と事業内容

出所:サノヤスホールディングス講演資料

 

HD化した背景と狙いは、「2つのカエル経営」の実践にある(【図表2】)。2つのカエルとは、①基本・原点に「還る」こと、②自分を「変える」こと。企業が“変化常態化時代”を生き抜くためにはこの2つが必要との認識から、「基本・原点以外は全て変える」という思いでHD化に踏み切った。

 

【図表2】「2つのカエル経営」実践のためのHD化

出所:サノヤスホールディングス講演資料

 

HD移行前は、造船関連事業(祖業)と非造船事業(陸上・レジャー・サービス)の経営管理が不統一だったため、さまざまな課題があった。この課題を解決するため、造船・非造船ともにサノヤスのコア事業であると位置付け、各事業会社の「2つのジリツ(自立・自律)」を目指した。

 

ホールディング経営の4つのメリット

 

ホールディング経営のメリットは次の4つ。1つ目は、経営効率の向上である。HD会社が管理部門(経理・財務・総務・人事・監査ほか)と企画部門(経営戦略・事業戦略・人材戦略)を受け持つことで、事業会社は事業運営(開発・設計、製造、営業)に専念。役割分担により組織の効率化・合理化が実現し、戦略的な意思決定が素早くなった。

 

2つ目は、企業再編の迅速化である。新たに事業会社を買収する際の投下エネルギーを極小化でき、M&A戦略(グループ拡大)を推進しやすい。経営戦略も自由自在に変えることができ、既存事業の整理・売却もしやすくなる。

 

3つ目は、投資の最適化。人材投資・設備投資の柔軟性が高まる。長期的視野に立って、投資額・時期の最適化を図ることができる。また、人材面では、採用から教育まで、会社の規模を大きくすることで比較的容易になる。人事制度の一元化を行えば、事業会社間の異動も行いやすい。

 

4つ目は、事業ポートフォリオの可視化。1つの事業に依存しないので経営環境が急変してもリスク分散できる。また、各事業会社の紹介がそのまま事業ポートフォリオを表しているため、多角化経営の実態を社内外に訴求しやすい。

 

今後は、創業120周年(2031年)に向けて中期経営計画を推進し、M&A戦略も進めながら、事業ポートフォリオ経営をレベルアップしていく考えである。

 

 

ポイント解説:事業戦略推進組織としてのホールディング経営とそれを支える経営システムの強化

株式会社タナベコンサルティング
コーポレートファイナンスコンサルティング事業部
エグゼクティブパートナー 浜岡 裕明
経営者の志を受け止めるコンサルティングスタイルで、ホールディング設立支援・グループ経営システム構築・事業承継計画策定・企業再生など、機能別・症状別の課題解決コンサルティングに定評がある。また、組織経営体制構築に向けた制度設計、後継者・経営幹部育成も数多く手掛け、実績を残している。

 

サノヤスグループは、HD化の前後で8億円超の利益改善を実現した(【図表1】)。変化する顧客価値に対応する事業会社を支えるプラットフォームとしてのHD経営(【図表2】)が成功している証しである。

 

【図表1】サノヤスグループの売上高と営業利益(2021年度と2022年度の比較)

引用:タナベコンサルティング作成

 

【図表2】プラットフォームとしてのHD経営

出所:タナベコンサルティング作成

 

ホールディング経営における生産性のメリットは、①ポートフォリオ経営による事業の組み換え、差し替えがしやすいこと、②権限移譲+HDからの経営資源の供給による顧客価値と対峙した迅速かつ柔軟な経営判断ができること。逆にデメリットは、会社数が多いことによるコスト増である。だが、このデメリットは、シェアードサービスや経営システムの強化でシナジー(相乗効果)を発揮すれば解消できる。

 

グループ経営を強化していくには、グループ経営体制の導入段階に応じた経営システムの構築が必要である。

出所:タナベコンサルティング作成

 

HD会社には、グループの経営理念・MVV(ミッション・ビジョン・バリュー)に基づいた経営企画機能・ガバナンス機能・マネジメント機能を発揮しながら、各事業会社にシェアードサービスを提供することが求められる。本社の求心力でグループを束ねつつ、事業会社の遠心力で事業領域やバリューチェーンを拡大し、グループ経営を進化させていただきたい。

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