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【特集】

シン・ローカライゼーション

人口減少や少子高齢化、過疎化、産業空洞化などさまざまな社会課題に直面する日本の地方。各地域に特有の課題に寄り添い、地域資源を組み合わせたバリューチェーンを構築することで新しい付加価値を提供する取り組みに迫る。
メソッド2023.03.01

社会課題を事業化する「新・地方創生」:中村 敏之

 

行政と企業の戦略的パートナーシップで未来価値を創造する

 

「地域や社会の課題を解決することで成長する」。このサステナビリティー・バリュー経営モデルを推進するには、冒頭で紹介したような、行政(国・地方自治体など)と企業との戦略的パートナーシップの構築が鍵を握る。

 

従来の枠組みを超えた「構造的問題の解決」だからこそ、行政と企業の新たな役割の再構築、継続的な連携力が大きなポイントになっていくという視点である。

 

一方、行政側もそうした課題認識を深めつつあり、民間企業(出身者)の活躍の場を広げる動きも活発化してきている。例えば、財務省「令和5年度予算のポイント」を見ると、そのトレンドの一端を感じられるかもしれない。(【図表3】)

 

 

【図表3】令和5年度予算のポイント

出所:財務省「令和5年度予算のポイント」よりタナベコンサルティング作成

 

 

「歴史の転換期を前に、我が国が直面する内外の重要課題に対して道筋をつけ、未来を切り拓くための予算」と表現された本予算は、日本の重要課題を、大きく4つのカテゴリーに分類し記載されている。

 

例えば、「地方・デジタル田園都市国家構想」はそのうちの1つ。地方への交付金(地方交付税交付金)について、リーマン・ショック後で最高の金額を予算化し、自治体のデジタル化はもちろん、デジタルの活用による、観光・農林水産業の振興などの地方創生に資する取り組みを支援。また、地方のデジタル基盤の整備を推進することで、「デジタル社会の実現」の加速へ向けた取り組みを強力に後押しするという。

 

一方、「GX(グリーントランスフォーメーション)」では、カーボンニュートラル目標達成に向けた、革新的技術開発やクリーンエネルギー自動車の導入など、「GX 経済移行」というキーワードで、さまざまな技術革新や研究開発を支援する取り組みにも力を入れるという。このように、「産業の社会シフト化」視点で、企業や各種団体の果たすべき役割が一層拡大している。

 

しかし、現実には(当然、議論の分かれる政策論点もあると思うが)、こうした国の指針が、地域や社会、そして何より「社会課題解決の中核プレイヤー」である企業に確実に浸透しているとは言い難いのではないだろうか。

 

例えば、「カーボンニュートラル」というテーマに関して、商工中金のアンケート調査結果※3によると、中堅・中小企業の約7割が「(良い・悪いを含めて)何かしらの影響がある」と答える一方、なんと約8割の企業が「方策の検討が出来ていない」と回答している。

 

その主な理由として、「規制・ルールがまだ決まっていない」「対処方法や他社の取り組み事例などに関する情報が乏しい」が挙げられている。言い換えるならば、こうした取り組みを主導する「行政」とのコミュニケーション不足が主たる要因と捉えることもできるのではないかと推測される。その意味で、「社会の課題を解決する」という視点でいえば、企業と行政の関係は、残念ながら道半ばであると捉えている。

 

一方、こうした行政の動きや課題意識を積極的に捉えるサステナビリティー・バリュー経営モデルを実践する企業は確実に登場し始めている。

 

A社は、「3PL※4プラットフォームカンパニー」を標榜し、持続的成長を実現するロジスティクス(物流)企業である。同社のコア事業の1つが、非常時に安全・安心・安定した物流を提供し、物流を通したライフライン確保に貢献する「BCP物流事業」だ。

 

阪神・淡路大震災や東日本大震災、熊本地震、北海道胆振東部地震など、“地震大国”といわれる日本で、物流を通して災害支援を続けてきた同社は、その経験とノウハウを生かす取り組みとして現在、47都道府県、1718市町村との災害協定締結を目指している。

 

一方、「ローカルファースト」を掲げるB社は、土木・建設はもちろんのこと、街づくりの企画から施設の運営やサービスまで事業領域を拡大し、魅力ある「街づくり企業」として躍進する中堅建設会社である。

 

同社の重要な取り組みの1つが、公共施設の建設だけでなく、運営維持管理まで、民間の資金やノウハウを投入することで、付加価値の高いサービスを提供するPFI事業※5である。端的に言えば、「公共施設の建設だけでなく運営まで民間でやる事業」だ。

 

こうして街づくりに真摯に取り組んできた結果、大手企業連合がひしめく中、B社が中心となった地元企業主体のチームは、異例ともいわれる(前例なき)数十億を超える大型案件を落札。街を元気にする活動を通じて、地域になくてはならない存在としてB社の認知度が高まると同時に、社員のモチベーションや働く意欲が高まっているそうだ。

 

また、バイオベンチャー企業のC社は、地方自治体と包括的提携を締結。サステナブルな社会の実現のために、環境はもちろん、産業や経済の振興からシティープロモーション、スポーツ・教育・生涯学習、さらには高齢者や子育て支援まで幅広い項目でパートナーシップを構築している。C社は、いわゆる大企業ではなく、サステナビリティーを軸に事業を展開するベンチャー企業であり、そうした点にも社会のトレンドが感じられる。

 

「社会の課題を解決することで地域や社会を元気にする」。その解決には、「行政・公共サービスのさらなる進化」に加え、「行政と企業や団体、組織との連携力強化」が欠かせない。

 

社会課題を事業化するために、まずは「ターゲット2030」、あるいは「10年後の未来」へ向け、従来の常識にとらわれず、新たなフィールドを創る「サステナビリティー・バリュー経営モデル」で未来価値を創造する。そうした企業や組織が数多く生まれてほしい。

 

 

※3…商工中金「中小企業のカーボンニュートラルに関する調査(2021年7月調査)」
※4…サードパーティー・ロジスティクスの略。第三者の立場で顧客に対しロジスティクスシステムサービスを戦略的に提供する事業者のこと
※5…Private Finance Initiativeの略。民間の資金と経営能力・技術力(ノウハウ)を活用し、公共施設などの設計・建設・改修・更新や維持管理・運営を行う公共事業の手法

 

 

 

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Profile
中村 敏之Toshiyuki Nakamura
タナベコンサルティング 常務取締役 行政/公共サービス・地域創生コンサルティング担当。「次代の後継者、経営者リーダーシップ創造なくして企業なし」をコンサルティング信条とし、事業・組織特性を踏まえた、ドメイン・セクター別事業戦略の構築と実装に注力。「ビジョンマネジメント・コンサルティング(VM経営)」を通じ、100年発展モデルへチャレンジする企業・組織の戦略パートナー。著書に「『社長』を受け継ぐ」(ダイヤモンド社)。
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