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【特集】

シン・ローカライゼーション

人口減少や少子高齢化、過疎化、産業空洞化などさまざまな社会課題に直面する日本の地方。各地域に特有の課題に寄り添い、地域資源を組み合わせたバリューチェーンを構築することで新しい付加価値を提供する取り組みに迫る。
メソッド2023.03.01

社会課題を事業化する「新・地方創生」:中村 敏之

 

加速する「産業活動の社会シフト化」

 

かんきつ類の収穫量日本一を誇る愛媛県。台湾、香港やEU、カナダなどへの輸出量が拡大する中、ソニーグループの1社であるソニーデザインコンサルティング(SDC)は、愛媛県庁や町役場、生産者とタッグを組み、希少価値の高い「河内晩柑」の欧州市場向けのブランド化とマーケティング支援を行っている。

 

SDCは生産者や自治体と対話を重ね、欧州市場の特性や進出の目的、欧州にふさわしいブランドアイデンティティーなど、互いに理解を深めながら事業を進めたという。「地域を元気にする」活動を、民間企業が行政と連携して行う、「社会課題解決時代」を象徴する一例と言えるのではないだろうか。

 

社会課題解決時代と表現したが、筆者は2010年代以降、企業が「社会の課題と向き合う時代」に入ったと捉えている。そもそも、時代は20年に一度大きく転換することから「事業サイクル20年」と言われる。この視点で振り返ると、1970年代は「モノの充足」の時代、1990年代は「モノとコト」の時代。そして2010年代に入ると、少子高齢化などを背景に「社会の課題と向き合う」時代が到来し、「SDGs(Sustainable Development Goals、持続可能な開発目標)」や「ESG(環境・社会・ガバナンス)経営」など、「社会性」という価値観が浸透している。(【図表1】)

 

 

【図表1】事業サイクル20年

出所:タナベコンサルティング作成

 

 

筆者はこれを「産業活動の社会シフト化の加速」と呼んでいる。一企業や事業を超えた、国や地域社会を巻き込んだ産業全体での社会性の高い、かつ組織的・連携的な活動が一層求められる時代が到来しているのだ。特にコロナ禍において、その流れは加速しているように感じられる。

 

企業は環境適応業であり、既述のような昨今の環境変化への適応が、企業経営における重要ミッションの1つになりつつある。当面のターゲットは、現在の20年サイクルの節目である「2030年」であり、残された時間はそう多くない。

 

 

あらゆる階層で価値観・意識が大きく変化

 

社会は今、大きく変わりつつある。象徴的な例を挙げると、子どものSDGsの認知度はなんと約95%に上る※1。今の子どもたちは、小学校のときからSDGsを学んでいるのだ。SDGsに対する考え方や価値観を理解していない子どもは、いまや圧倒的少数であると認識しておいた方が良いだろう。

 

働く社員の意識も大きく変わりつつある。パーソル総合研究所が20歳代正社員を対象に行った調査※2によると、仕事選びの際に重視する点として、「希望する収入が得られること」を選ぶ人が減少する一方、「社会に貢献できること」を選ぶ人は大幅に増加。「社会性を重視した働き方」という価値観が大きく台頭している。

 

こうした中、企業にも活動の変化が求められている。代表的な例が、コロナ禍の2021年6月に改訂された「コーポレートガバナンス・コード(CGC)」である。

 

改訂版では、基本方針の策定や自社の取り組み開示など「サステナビリティーをめぐる課題への取り組み」の重要性が強調されている。特に東証プライム上場企業において、気候関連情報開示タスクフォース(TCFD)、あるいはそれと同等の枠組みに基づく気候変動の影響の開示が求められるなど、「企業の社会性」への責務が増している。

 

こうした社会課題解決への取り組みは、上場企業や大企業だけでなく、あらゆる企業や組織・団体に求められる。十分にご承知のことだと思うが、たとえ、商品やサービスが良くても、社会や地域の課題解決に取り組まない、あるいは取り組めない企業や組織は、「顧客から選ばれない時代」に本格的に移行している。そう認識しておく必要が一層高まっているように思う。

 

 

現代版「三方よし」
サステナビリティー・バリュー経営モデル

 

「事業価値」と「社会価値」の両立を目指す昨今、近江商人の経営哲学「三方よし(買い手よし、売り手よし、世間よし)」が、あらためて注目を集めている。

 

この三方よしの経営を現代の経営に置き直すなら、SDGsやESG経営に代表される「地域や社会の課題を解決することで成長する経営モデル」である。

 

例えば、人口減少地域にもあえて出店し、「毎日の生活とコミュニケーションの場」として、地域になくてはならない安定経営の店舗を構築し、企業価値と圧倒的ブランド力を向上させ「選ばれ続ける」小売企業。

 

「雇用こそ最大の地域貢献」として、人材育成投資を最優先する活動を継続し、地域内はもちろん地域外からの人材採用を増加させながら、創業の地での「高品質なモノづくり」にこだわり続ける、海外売り上げが過半を超えるニッチトップグローバル企業。

 

こうした地域企業躍進の1つの重要ファクターは「地域・社会へのお役立ち」である。

 

一方、「世界一の高齢社会」という現実を真正面に受け止め、高齢者の方が「働きたいときに働ける環境をつくる」という決意で、5万社を超える登録企業や団体と連携し、50歳代以上の「働きたい」を実現する場を提供する企業もある。「日本を世界に誇れる高齢化社会にする」というミッションを掲げる同社は、創業10年にも満たない若い企業ながら、事業を確実に成長させている。

 

こうした企業に代表されるように、私たちの周りには、事業化することで解決できる社会課題がたくさんある。「現代版三方よし」の経営である。ほんの一例だが、紹介した事例を通して、私たちTCGのコンサルタントが体験し学習することで、強く感じることである。

 

筆者はこの経営モデルを、「サステナビリティー・バリュー経営モデル」と呼んでいる。(【図表2】)

 

 

【図表2】サステナビリティー・バリュー経営モデル

出所:タナベコンサルティング作成

 

 

※1…栄光ゼミナール「小中高生の家庭のSDGsに関する意識調査」(2022年10月)
※2…パーソル総合研究所「働く10,000人 成長実態調査2022 20代社員の就業意識変化に着目した分析」(2022年8月)

 

 

 

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Profile
中村 敏之Toshiyuki Nakamura
タナベコンサルティング 常務取締役 行政/公共サービス・地域創生コンサルティング担当。「次代の後継者、経営者リーダーシップ創造なくして企業なし」をコンサルティング信条とし、事業・組織特性を踏まえた、ドメイン・セクター別事業戦略の構築と実装に注力。「ビジョンマネジメント・コンサルティング(VM経営)」を通じ、100年発展モデルへチャレンジする企業・組織の戦略パートナー。著書に「『社長』を受け継ぐ」(ダイヤモンド社)。
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