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【特集】

シン・ローカライゼーション

人口減少や少子高齢化、過疎化、産業空洞化などさまざまな社会課題に直面する日本の地方。各地域に特有の課題に寄り添い、地域資源を組み合わせたバリューチェーンを構築することで新しい付加価値を提供する取り組みに迫る。
メソッド2023.03.01

地方が抱える3つの“不”をデジタルで解決する:須崎 明

 

地方(自治体)の課題は国の課題

 

今の地方(自治体)は、少子高齢化、人口減少、商店街・繁華街の衰退、地域ブランド・観光資源の不在、交通インフラの維持など多くの課題を抱えている。中でも、少子高齢化や人口減少と、それに伴う地域衰退を思い浮かべることが多いのではないだろうか。

 

これは、国や地方自治体だけで解決すべき課題ではない。各地方の企業や住民を巻き込み、連携しながら解決すべき大きな課題と言える。

 

内閣府の「令和4年版高齢社会白書」(2022年6月)の試算によると、日本の総人口は2030年に1億2000万人を、2055年には1億人を下回ると想定されている。半面、総人口に占める65歳以上人口の割合(高齢化率)は、2025年に30.0%、2030年31.2%、2035年32.8%と年々増え続けるとの予測。日本人口の約3人に1人が高齢者という時代が目前まで訪れているのだ。

 

日本のGDP(国内総生産)は、2010年に中国に次ぐ3位となって以降大きく伸びておらず、ドイツやイギリス、フランスといった欧州各国に追い抜かれる可能性がある。国際競争力という観点から考えても、対策は不可欠だ。

 

また、国際経営開発研究所(IMD)の「世界デジタル競争力ランキング2022」(2022年9月)では、63カ国中、デンマークが1位、米国が2位、スウェーデンが3位、東アジアの国・地域では韓国が8位、台湾が11位、中国が17位に位置する中、日本は29位と過去最低だった。国・地方自治体だけに頼った施策ではなく、官民連携による中長期的なデジタル化へのシフトも急務と言える。

 

 

地域の特長を生かしたデジタル活用による課題解決

 

このような現状において、内閣府を中心とする内閣官房デジタル田園都市国家構想実現会議は、日本が直面する少子高齢化や人口減少などの課題に対して、デジタルの力で地方の個性を生かしながら社会課題の解決と魅力の向上を図る「デジタル田園都市国家構想」を策定し、地方の自主的・主体的な取り組みを推進。地方が抱える「不便・不安・不利」という3つの“不”に対して、デジタルの活用で地方の個性を生かす解決・成長事例を次々と生み出している。(【図表】)

 

 

【図表】デジタル技術を活用した地方の社会課題の解決例

出所:タナベコンサルティング作成

 

 

具体的な事例として、千葉県いすみ市の事例を紹介したい。いすみ市は千葉県南東部に位置した人口約3万6000人の市で、伊勢エビや真ダコといった海産物だけでなく、コメをはじめとする農産物でも有名な都市である。

 

いすみ市は、水産資源の減少、海水温の上昇、人手不足などの社会課題に負けない持続可能な漁業の実現に向け、デジタル技術の活用により次の3つを実現しようとしている。

 

❶海産物の鮮度管理のデジタル化

 

水揚げから出荷までの保存環境を計測し、最適な鮮度管理を実現

 

❷デジタル化による「働き方改革」

 

手作業やペーパーワークを削減し、水揚げから出荷までの時間を短縮

 

❸海産物の鮮度の可視化

 

鮮度を数値化し、鮮魚の価値を明示

 

筆者が特に特徴的だと感じたのが、デジタル化による「働き方改革」だ。漁師と魚屋という利害相反する関係の間に地域商社が入ることで、両間の連携によるデジタルとアナログを掛け合わせた業務変革を実現した。これまでのアナログな業務手法に対して、地域商社が課題・現状分析、方針策定、具体的な改革までの一連を支援し、「デジタル×アナログな漁師経験」という実践的な漁業DXを実装した模範モデルである。

 

次に、宮城県仙台市の事例を紹介する。仙台市の西部に位置する中山間地では、人口減少や農業従事者の減少、有害鳥獣問題など多くの地域課題が顕在化していた。そんな中、デジタル技術の活用により次の3つに取り組み、地域住民の利便性向上を実現している。

 

❶電子回覧システムの実装

 

効果的な情報伝達、コミュニケーションの活性化

 

❷深水管理栽培

 

スマホによる水位情報の管理、負担軽減

 

❸有害鳥獣対策

 

スマホを活用した捕獲情報の受信

 

寒さから稲を守るために田んぼに深く水を入れる深水管理栽培は特長的で、スマホの活用により水田の水位管理を効率化している。日々の見回り作業が削減されただけでなく、次世代後継者の不足が懸念される農業において、仕事の効率化や魅力向上に資する取り組みであり、全国の農業従事者に広く推進すべきであろう。

 

 

リージョンコンサルティングが提供する価値

 

タナベコンサルティングは、全国に10拠点を持つリージョン(地域)コンサルティングファームとして、地域の実情に応じたコンサルティングを提供している。これまでも、地域が抱える固有の課題に対して、65年にわたって培ってきた経験に基づき、提案・解決を行ってきた実績がある。

 

また、デジタル化へのシフトや社会課題が複雑化している中、「ソリューション×リージョン」による社内横断的な組織を構築することで、多角的かつ専門的な視点に基づく経営メソッドも提供している。

 

例えば、タナベコンサルティングの東北支社では、6次産業化に取り組む事業者に対して、経営視点からの支援や、全国の拠点と連携した販路開拓・付加価値創造支援、テーマ別の研究会で蓄積されたメソッドの紹介により、次の3つを推進している。

 

❶新たな販路獲得

 

EC販売やデジタルの活用、営業力向上、地域連携

 

❷新たな価値創出

 

高付加価値商品開発、ブランディング、CX向上

 

❸持続可能な成長

 

経営体制確立、財務体質改善、人材育成・採用

 

こうした支援だけでなく、全国の地域課題を“経営”という視点を通じて改善していくことが、タナベコンサルティングのミッションである。

 

 

 

Profile
須崎 明Akira Suzaki
タナベコンサルティング 戦略総合研究所。地方公務員として、予算・決算審査、中期経営計画策定に従事後、財務省に出向。予算編成・国債発行計画の策定に取り組み、国・地方の予算編成に関する幅広い知見を有する。タナベ経営(現タナベコンサルティング)入社後は、官公庁向けコンサルティングサービスの展開に向け、商品開発や提案支援、アライアンス開拓・連携など社内プロジェクトを推進。
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