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【特集】

グローバル戦略

内需縮小、グローバリズムの進展、DE&I(Diversity:多様性、Equity:公平性、Inclusion:包括性)の浸透などを背景に、日本企業が海外マーケットに挑む必然性は高まり続けている。ESG(環境・社会・ガバナンス)、DX、クロスボーダーM&Aといった課題が山積し、海外戦略のかじ取りが難しい局面に立たされる今、日本企業はいかに戦うべきか。成長戦略のポイントを解説する。
メソッド2022.12.01

グローバル戦略概論:村上 幸一

 

ビジネスにおけるグローバル戦略必然の背景

 

日本の企業がグローバル化に挑む必然性が高まり続けている。その要因は主に3つ挙げられる。

 

1つ目は、少子高齢化の加速による内需縮小だ。未来は不確実性に満ちた予測困難なものだが、人口が減少し続ける日本の市場縮小は、残念ながら確かな未来である。つまり、既存のマーケットにおいて、既存の事業のみで企業を成長させるのは次第に困難になる。

 

2つ目は、グローバリズムの進展である。飛行機や大型船など、モビリティーの進化によって国境を越える人と物の移動の日常化から始まり、ISO(国際標準化機構)やIEC(国際電気標準会議)などの国際規格の増加、さまざまな自由貿易協定、欧州統合によって誕生した統一通貨ユーロ、さらには黎明期の仮想通貨の普及など、国境を越える多種多様な施策が一般化してきている。国境を越える究極のイノベーションは情報技術であり、日進月歩で進化する。この技術によってグローバル化は一気に進んだ。

 

3つ目は、ダイバーシティー&インクルージョンという価値観の浸透である。異なる国や地域の特性を多様性として認め、相互に発展していくメンタリティーが高まり、それを積極的に取り込んでいるところの活性化と成長は、あらゆる分野で立証されている。

 

内需縮小という1つ目の背景から、企業にとっての成長戦略は大きく3つの壁の打破に要約される。すなわち、「業種の壁」「業界の壁」「市場の壁」である。業種・業界の壁の打破は多角化戦略という定石であるのに対し、市場の壁はエリアの壁であり、エリア拡大の延長線上に海外マーケットがあることとなる。

 

グローバリズムという2つ目の背景から読み取るべきは、自社がグローバル戦略を意図していなくても、海外の企業が日本にごく自然に参入してくるということである。少子化による人口減少というネガティブな未来は日本に限ったことではなく、一部を除く先進国全ての悩みだ。

 

あらゆるものが統一化・標準化されていく世界において、日本を含む海外進出は非常にオーソドックスな成長戦略である。そもそも現在の世界各国のスタートアップ企業の中には、最初から自国だけではなく、世界をターゲットとして創業している“ボーン・グローバル企業”が数多く存在する。つまり、自社が海外に進出しなくても、グローバル競争の渦中に飲み込まれていく時代だ。

 

また、ダイバーシティー&インクルージョンという3つ目の背景からは、海外を含む異文化・異才との協同なくしてイノベーションは起こり得ないという現実と向き合うことを余儀なくされている。

 

 

グローバル戦略の3つの本質

 

グローバル戦略のアプローチは多様に存在するが、その本質は3つに要約される。すなわち、【図表1】の「アービトラージ戦略」「レプリケーション戦略」「インテグレーション戦略」である。

 

 

【図表1】グローバル戦略の3つの本質

グローバル戦略の3つの本質

出所:タナベコンサルティング作成

 

 

アービトラージは日本語で「裁定取引」と訳され、金利差や価格差に着目して利潤獲得を狙う取引であり、一般的に金融業界で使用される言葉である。グローバル戦略の文脈においては、各国間の価値の相違に着目し、その相違から発生する利潤を付加価値として追求する戦略となる。古くはインドで栽培された香辛料をヨーロッパで、中国で栽培された茶を日本で販売するようなビジネス形態であり、現代の金融業や貿易商社のアービトラージ戦略につながっている。

 

レプリケーションは「模倣」「複製」という意味であり、外国の先進性や類似性に着目し、本国の状況にカスタマイズしながらそのビジネスを転用・利活用する戦略だ。前述の例で分かりやすく説明すると、価値の高い中国の茶を日本で栽培することである。これによって価値の差が薄れ、アービトラージ戦略は効力を失う。

 

マクロでみると、島国である日本は、明治時代の殖産興業から戦後の復興、現代のITビジネスまで、欧米からのレプリケーション戦略を高次元で活用してきたと言える。先進地域のビジネスモデルや製品・サービスを戦略に取り込むことは、未来の経営の先取りという意味で「タイムマシン経営」とも称される。これらの例え通り、アービトラージとレプリケーションは相互作用することもあれば、二律背反となることもある。

 

インテグレーションは「統合化」であり、本国発のビジネスモデルや製品を各国の状況の相違や類似など関係なく、統合・統一することで強力に展開していく戦略である。これは強力なブランドがあってこそ可能な戦略であり、アップルやマイクロソフト、ベンツやトヨタ自動車、ルイ・ヴィトンなどがイメージしやすいであろう。

 

他方、ネスレやコカ・コーラ、P&G(プロクター・アンド・ギャンブル)など食品や生活用品を扱う企業は、強力なブランドを有しながらも、現地の文化や生活習慣に適合しなければならないため、インテグレーションとレプリケーションを併用する必要がある。

 

つまり、アービトラージ、レプリケーション、インテグレーションという3つの本質的戦略は、常に独立した排他的なものではなく、業界や状況によって、互いに交わり補完し合いながら適合・進化していくものである。

 

 

 

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Profile
村上 幸一Koichi Murakami
タナベコンサルティング 執行役員 ストラテジー&ドメイン東京本部 本部長。ベンチャーキャピタルの投資先スタートアップ企業において、豪州現地法人の設立からマネジメントまで、また米国大学発ベンチャー企業の日本市場調査、開拓および事業性評価など主に海外ベースの案件を多数経験。タナベ経営(現タナベコンサルティング)入社後もその豊富な経験を生かし、中国生産現地法人の再建支援、ASEANエリアのサプライヤー開拓戦略立案、多国籍で展開する専門商社の経営アドバイザー、M&Aにおける海外事業のビジネスDD(デューデリジェンス)の統括など多種多様な実績を有する。
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