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【特集】

DXビジョンを策定・推進しよう

企業が価値を提供し続けるため必須となったDX。デジタル領域で価値発揮するビジネスモデルの再構築だけでなく、外部環境変化に対応できるシステムや組織への全社変革が求められる。「自社が何を目指すのか」というビジョンからDX戦略を策定し、実現に向けた改革テーマへ落とし込むメソッドを提言する。
メソッド2022.11.01

DXビジョンで自社最適なストーリーを描く:武政 大貴

 

DXビジョンが求められる背景

 

デジタルテクノロジーが、これまでの技術革新をはるかに上回るペースで急速に普及している。DX(デジタルトランスフォーメーション)の市場規模は、2021年の5215億米ドルから、2026年には1兆2475億米ドルへ拡大。CAGR(年平均成長率)は19.1%と見込まれている※1

 

GAFAMが世界のデジタル市場でその名を轟かせるようになったのはここ10~20年。テクノロジーの進化に伴い、デジタルディスラプション※2の可能性がないマーケットは、もはやどこにもないと言えるだろう。

 

例えば、製品やサービスを利用するユーザー(顧客)獲得期間は以前に比べて急激に短くなっている。製品・サービス別に5000万人ユーザーを獲得するまでの年月を比較すると、飛行機が68年、自動車が62年、電話は50年、電気46年。一方、YouTubeは4年、Facebookは3年、Twitterは2年と言う※3

 

あらゆる業界でディスラプションが加速する中、DXは競争力強化に不可欠な戦略と言える。一方で、既存システムの壁に阻まれることが多いのも事実だ。“デジタル部門”を設立するだけだったり、バリューチェーンからかけ離れた“デジタル商品”の開発を行っていても変革は実現できない。

 

DXを通じて何を実現したいのか。一時的な取り組みではなく、DXを軸に自社の在り方を変革し、目指すべきゴールを明確に設定するとともに、ビジネスモデル・バリューチェーン・カスタマーリレーションシップ・企業文化も含めた全社改革としてのロードマップの策定、そして、回収計画も視野に入れた蓋然性の高い投資計画の策定が今、求められている。

 

また、目指すべきゴールの設定については、政府が制定したDX認定制度においても、成功のために「まずはデジタルを前提とした経営ビジョン・DX戦略と、その推進体制作りが必要」と、その必要性に言及している。「何から取り組むか」の前に、「DXを通じて何を実現したいのか=DXビジョン」を描き、「ビジョンとオペレーションをしっかりとつなぐ」ことが重要なのである。

 

DX認定制度の概要と申請方法のポイントを見ていこう。DX認定制度とは、国が策定したDX指針を踏まえ、優良な取り組みを行う事業者を申請に基づいて認定する制度。企業にとっては、「DXを推進する際の論点整理と経営とのコミットメント」「社会的認知や信用力などブランド向上」「DXに関する施策の応募資格が得られる」といったメリットが期待される。

 

DX認定取得に向けたプロセスは【図表1】の通りだ。ポイントは、経営ビジョンに即したDX戦略の策定と推進体制の策定である。ビジョンとDX戦略の因果関係、戦略に即した組織がDX成功に不可欠であるとともに、戦略からオペレーションまでのつながりが重要であることが分かる。

 

 

【図表1】DX認定取得に向けたプロセス

DX認定取得に向けたプロセス

出所:経済産業省「DX認定制度の概要及び申請のポイントについて」を基にタナベコンサルティング作成

 

 

❶「経営ビジョン」を策定する

 

現在の自社のビジネス状況、経営環境について整理を行う。具体的には、デジタル技術の台頭による社会や自社の競争環境への影響や課題に注目、分析し、それを前提に「経営ビジョン」を検討する。さらに、経営ビジョンを実現するために必要となるビジネスモデルの方向性を検討する。その後、取締役会の承認を取り、公表する。

 

❷「DX戦略」を策定する

 

経営ビジョンに基づくビジネスモデルを実現するための戦略を検討する。戦略立案に当たっては、データ活用を考慮する。次に、戦略推進に必要となる体制・組織案について検討する。必要となる人材の確保・育成、外部組織との関係構築・協業などに関する検討を行う。ITシステム・デジタル技術活用環境の整備に向けた方策や、具体的な推進活動計画を検討し、取締役会の承認を取り、公表する。

 

❸「DX戦略推進管理体制」を策定する

 

戦略の達成度を測るためのKPI(重要業績評価指標)、推進状況を管理するための仕組みを検討し、公表する※4

 

 

4つにセグメントされるDX

 

DXはあくまで手段もしくは前提であり、目的ではない。目的はさらなる事業成長にほかならない。それを踏まえた上で、タナベコンサルティングではDX領域をビジネスDX、マーケティングDX、マネジメントDX、HRDXの4セグメントに整理している。(【図表2】)

 

 

【図表2】DXの4セグメント

DXの4セグメント

出所:タナベコンサルティング作成

 

 

❶ビジネスモデルDX

 

ビジネスモデルDXとは、デジタルディスラプションの考え方を軸に、「業界構造が変わり得る商品・サービス」を開発・提供すること、またはそのような商品・サービスに対応する事業戦略を策定・推進することを指す。

 

❷マーケティングDX

 

マーケティングDXとは、デジタル技術を活用しマーケティングプロセス(売れる仕組み)を変革することで競争優位性を確立することを指す。ここで注意すべきは、デジタルマーケティングとは異なるということだ。

 

デジタルマーケティングは、SNSやウェブサイトなどデジタルツールを用いたマーケティング手法である。これに対し、マーケティングDXは、開発・価格・流通・プロモーションなど広義のマーケティングプロセスをデジタル技術で変革し、競争優位性を生み出すことである。

 

❸マネジメントDX

 

マネジメントDXとは、デジタルツールを活用し、定型業務・非付加価値業務の効率化を図るとともに、付加価値へ転換可能な情報資産の蓄積と情報に基づくスピーディーな経営判断の実現を図ることを指す。

 

マネジメントDXには3つの要素がある。1つ目が、ERPシステムの導入やRPAによる自動化、そしてその導入のための業務の可視化、改善による業務効率化である。業務効率化による非付加価値業務の削減が目的となり、多くの企業はバックオフィス系の定型業務を中心に取り組んでいる領域である。

 

2つ目が、効率よく収集されERPシステムなどで一元管理された情報に基づき行われる「ダッシュボードマネジメント」である。リアルタイムに精緻な情報が収集・可視化され、その情報をもとにスピーディーな経営判断を行うことが目的となる。

 

3つ目が、収集された情報を日々の経営判断に活用するだけでなく、社内ナレッジとして蓄積するなどの「情報資産の蓄積」である。蓄積したナレッジを、新たな付加価値の創出に活用することが究極のゴールであろう。

 

❹HRDX

 

HRDXとは、人事に関わるデータの解析を通して、人材活躍に向けた仕組みの最適化を図ることを指す。デジタルツール(HRテック)を用いた採用管理や人事評価など人事業務全般の効率化を図ることとは異なる。つまり、単なる業務効率化のためではなく、得られた社員に関する情報をもとにピープルアナリティクス(分析)を行い、適正な人材配置や効果的な育成、適正人材の採用など、戦略的に人的資本管理を行うことになる。

 

DXを4つのセグメントに整理したが、忘れてはならないのは、DX実践の核とすべきは、「なぜデジタル化しなければならないのか」「デジタル化を進めて自分たちがどのようになるのか」という未来に向けた問いに答えられる「ビジョン」である。なぜなら、このビジョンが中核にあることで、全ての取り組みや行動に共通する一貫した意図が関係者に伝わり、賛同・協力を得ることができるからである。

 

ビジョンは組織の将来像や目指す姿、未踏の目標と言える。それはおおよその経営方針や、いつまでにどれだけの利益を計上するといった中長期の計画ではない。そして、このビジョンを絵空事としないためにも、ビジョンの策定はできる限り自らの企業としての強みを土台にすることが望ましい。

 

 

※1…グローバルインフォメーション「デジタルトランスフォーメーションの世界市場(~2026年)」(2021年11月)
※2…デジタルテクノロジーを駆使した新製品・サービスにより破壊的イノベーションを起こすことで、既存製品・サービスの代替となること
※3…steemit/@johnnywingston
※4…経済産業省「DX認定制度の概要及び申請のポイントについて」より抜粋・編集

 

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Profile
武政 大貴Hirotaka Takemasa
タナベコンサルティング マネジメント&オペレーションズ本部 本部長。財務省で金融機関の監督業務や法人企業統計の集計業務などを担当後、企業経営に参画したのち当社に入社。実行力ある企業(自律型組織)構築を研究テーマとして、見える化手法を活用した生産性カイカクを中心にコンサルティングを実施。生産性の改善を前提に、DXビジョン、IT構想化、ERP導入支援及びSDGs実装支援など、世の中の潮流に合わせたコンサルティングメソッドを研究開発しながら、実行力ある企業づくりにおいて高い評価を得ている。
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