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【特集】

リードナーチャリング

国内の人口と企業数が減少する中、BtoBにおいてもBtoCにおいても、新規顧客開拓の難易度はますます上がっていく。この状況下で重要性を増しているのが、過去にアプローチした見込み客情報(ハウスリスト)だ。自社に眠る財産であるハウスリストを活用し、見込み客を顧客へ変えていくリードナーチャリングのメソッドを提言する。
メソッド2023.02.01

顧客を理解することが真の“育成”につながる:庄田 順一

 

中長期の顧客コミュニケーションでいかにファンを増やせるか

 

マーケティングの基本は、提供価値を最大化するための顧客創造スキームを設計し、実行することである。場当たり的なセールス活動ではなく、リードジェネレーション(見込み客創出)→リードナーチャリング(見込み客育成)→受注→アフターフォローの遷移ロードマップ(【図表1】)の設計が必要なのである。

 

 

【図表1】リードジェネレーションから受注、リピートファン化につなげるためのロードマップ

出所:タナベコンサルティング作成

 

 

その中でリードナーチャリングとは、「獲得した見込み顧客(リード)に対し、コミュニケーションを通じて購入意欲を高め、将来的に受注につなげていく活動」を言う。

 

受注を妨げる要因には、次の3つがある。

 

❶コロナショックによる人々の価値観の変容(社会全体の判断基準、嗜好、行動の変容)
⇒顧客の意識動線・行動動線を捉える難易度が高い


❷人口減少と少子高齢化による内需の縮小
⇒既存ビジネスモデルの延長による競争力の低下


❸コモディティー化(商品価値の陳腐化)
⇒生産技術の向上などによる商品価値の同質化。商品の質や機能の差別化が難しい

 

こうした市場で生き残っていくためには、顧客・見込み客と中長期的なコミュニケーションを取り、ブランドやプロダクトを支持してくれるようにする(=「ファン化」する)ことが重要になってくる。

 

ただ、リアル営業(フィールドセールス)のみのマーケティングでは、顧客・見込み客管理が属人的になっていたり、中長期的な視点に立っていなかったりといった課題が挙げられる。この状況下で特に難しくなるのは、購買サイクルや購買検討期間が長いケースだ。顧客・見込み客がいつ買うのかが見えず、次の購買まで接触を繰り返し、時間を浪費してしまう。一方で、少し接触を控えているうちに顧客をライバルに奪われているケースもある。

 

よって、カスタマーサポート(顧客支援)やカスタマーサクセス(顧客の成功)も、デジタルを活用し効率化して、顧客とのコミュニケーションを継続することが重要である。顧客情報を一元管理すれば、決定権者、商談の履歴、プロダクトの購入時期、数量、次の購入タイミングなどを可視化できるため、複数人での対応が可能となる。これが、いわゆる「インサイドマーケティング」である。

 

リアルでのコミュニケーションはもちろん重要だが、限られた人員体制や新型コロナウイルス感染拡大防止のための接触回避などにより、その回数は減少傾向となるだろう。しかし、デジタルマーケティングであれば、対面のコミュニケーションに依存せず、メールマガジンやプッシュ通知の定期配信による有益情報の提供などによって接触回数を増やすことができる。

 

つまり、【図表1】のようにインサイドセールスとフィールドセールスを組み合わせれば、リードジェネレーション、リードナーチャリング、リードリサイクルとともに、既存顧客に対する丁寧なフォローアップも可能となり、口コミ紹介やリピート受注の増加といったLTV(Life Time Value:顧客生涯価値)向上にもつなげることができるのだ。

 

 

リードナーチャリングのタッチポイントを整理する

 

リアル×デジタルが複雑に組み合わさった今の市場環境では、リードが商品を購入するまでに、さまざまなタッチポイントで、多くの情報を得ることができる。

 

リードが商品を購入するまでに生じる企業とのタッチポイントを整理したのが次頁【図表2】である。

 

 

【図表2】商品を購入するまでに生じる企業とのタッチポイント

出所:タナベコンサルティング作成

 

 

商品知識がない層(A)、または購入したことはないが商品は知っている層(B)が、注目して興味を抱き(認知)、ネット検索やカタログ請求などを行い(検討・情報収集)、商品の購入やサービスの利用に至る(行動)。購買行動時点でのコミュニケーションアプローチの仕方によって、購買活動がストップするのか、商品・サービスを気に入ってリピートしてくれるか、エバンジェリスト(伝道者)として、周囲にも広めてくれるのか(推奨)が決まる。

 

顧客がA~Dのどの階層に位置するかによって、具体的アクションの温度は変わってくる。

 

商品購入やサービス活用の経験がある層(C)に対しても、再び前述の流れを踏むが、AやBの層に比べリピートする確率は高まる。Dの段階に入ると、もはやファンやロイヤルカスタマーといって良い。

 

このようにリードがタッチポイントのチャートを進んでいく過程を、“旅”に見立てて「カスタマージャーニー」と呼ぶ。

 

タッチポイントごとに企業側が取るべきコミュニケーションは異なり、顧客が抱く温度や熱意に合わせた対応が必要となってくる。それぞれで適切なコミュニケーションを展開することで、顧客はカスタマージャーニーの次のステップに歩みを進め、より熱心なリピーターへと変貌を遂げていくのである。

 

人々が購入に至る心理や行動についてはさまざまなパターンがあるが、さまざまなカスタマージャーニーを体系化、プロセス化してデータで効果を検証しながら改善することで、リードナーチャリングをより効率的・効果的に行うことができる。

 

 

 

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Profile
庄田 順一Junichi Shoda
タナベコンサルティング 執行役員 ブランド&マーケティング東京本部 本部長。マーケティング戦略パートナーとして、顧客に向けたデジタルとリアルを融合したコミュニケーションの戦略設計コンサルティング活動を展開。ウェブとリアルを融合した集客プロモーションコンサルティングにより顧客創造と売上げ拡大を支援している。マーケティングの戦略策定から実行・運営までのトータルサポートに加え、プロモーション企画とその推進マネジメントを通じた人材育成で、クライアントから高い信頼を得ている。
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