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【特集】

経営者人材育成

後継者不在率が過去最低の 53.9%、内部昇格による事業承継が初のトップ(35.5%)となった今、「経営者人材」の確保・育成に不安を抱える企業は多い。 戦略的な意思決定に基づいて時代に即した事業を展開できる、経営視点を持った人材の育成メソッドを提言する。
2024.04.01

社会課題を抱える現場を体感し、新たな視点でビジネスを考える:クロスフィールズ

現地リーダーとの対話が部門長クラスの志を刺激

しかし、留職プログラムは参加者の個人的な意識変化や成長には大きな効果を発揮したが、迅速に組織を変えるまでには至らなかった。要因は、約3カ月間は現地に滞在しなければならないため、企業が多くの人員を参加させにくいこと。また、各企業からの参加者は年間で1~3名程度であるため、同じ体験をした仲間が社内に少なく、学びが伝播しづらいという側面があったのだ。

「留職プログラムを実施する中で、個人と同様に組織自体の意識変化を促す必要があるという考えに至りました。そこで、2017年に新しく開始したプログラムが『社会課題体感フィールドスタディ』です(【図表2】)。このプログラムの参加者は、部門長クラスのエグゼクティブをメインの対象としています。

また、留職プログラムは最低でも3カ月以上、現場に滞在して実施しますが、フィールドスタディは部門長クラスの方々でも参加しやすいように数日間という短期プログラムとして設計しました。さらに、参加人数の上限を30名程度にするなど、一度に多くの人が同じ体験をすることで、組織全体の意識変化が起こりやすいようにしたのです」(西川氏)

社会課題体感フィールドスタディも、留職プログラムと同様に、国内外で社会課題の現場を訪問する。コロナ禍以降はオンライン型のプログラムも実施しており、累計55社(2024年2月現在)が導入した。

プログラムは、事前セッション、本セッション、事後セッションの流れで実施。事前セッションではプログラムの趣旨と目的を共有し、訪問先が取り組む社会課題など、事前情報をインプットする。

その後の本セッションでは、社会課題を抱える現地の訪問や、現地で課題解決に挑むリーダーとの対話を行う。交流を通じて個人の中に生まれた気付きを内省したり、参加者同士で学びを共有したりする。数週間後に実施する事後セッションでは、本セッションでの気付きを「どのように本業へつなげるか」という行動宣言や本セッション後にとった具体的なアクションなどを発表する。

「企業のエグゼクティブの方々は、社会課題とビジネスの関係を考える際に、どうしても『会社組織の一員である自分』という立場を前提に考えがちです。そこで、このプログラムではその前提をいったん取り払い、一個人として社会課題に向き合うことにより、自分自身の在りたい姿を深めていきます。

社会課題をどう捉え、解決に向けてどのように取り組むかという掘り下げに加え、社会課題に取り組むリーダーらの課題解決に向けた真摯な姿勢や行動を見て、そのパッションを感じていただく。その体験が、参加者の志を揺り動かすケースが多いです」(西川氏)

同プログラムは、必ずクロスフィールズのスタッフが同行し、全体のファシリテートや場づくりを実施する。第三者が介入することで、参加者は「企業人の帽子」を脱ぎ、活発に意見交換できるというわけだ。

また、エグゼクティブとともに若手社員も参加させ、現地で立場を超えた意見交換を行う企業も少なくない。意見交換や日常の立場を超えた交流を通して、互いの理解を深めたり、対話することの重要性を再認識したりできるという。

 

社会課題やニーズを新事業創出につなげる

社会課題体感フィールドスタディには、実際にさまざまな企業が参加し、成果を上げている。

例えば、ある大手IT企業は、「自社が保有するIT技術と社会課題解決を結び付けてソリューションを提供しなければならない」と頭では理解していても、具体的なビジネスにつなげるためのポイントが見えてこないという悩みを抱えていた。そこで、突破口を見つけようとプログラムに参加。アフリカのルワンダで、モバイルマネーの技術を活用した金融サービスを展開している現地スタートアップの取り組みなどに触れた。

これを契機に参加者は「これまでは市場や顧客のニーズや課題に対してソリューションを提示するというスタンスだったが、社会課題やニーズを発見し、主体的にビジネスを創出することの重要性を感じた」という。

また、ある大手総合商社は、2017年からこのプログラムに参加し、部課長クラスの社員が現地へ赴いている。2022年には、森林など自然の資源を生かしたローカルベンチャー育成事業を支援する岡山県の企業を訪問。地域の資源を生かすためのアイデアを出し合い、地域のステークホルダー全てが協力し合って地域創生をする姿に共鳴した。

「普段のビジネスでは触れることがない社会課題の現場を体験することで、『自らのパーパスと組織の在り方を見つめ直すきっかけになった』という参加者の声を多く聞きます。また、ある企業では、社会課題体感フィールドスタディ参加者が財団法人の立ち上げをリードするなど、具体的なアクションも起こっています。

これらの事例はほんの一部ですが、社会課題体感フィールドスタディへの参加を通して、次の世代を担うエグゼクティブや若手社員の意識に変化が起こっていることを実感しています」(西川氏)

こうした実績を積み重ねながら、クロスフィールズはより長期的な視点で事業のインパクトを測っていきたいという。

「社会課題体感フィールドスタディの参加企業にご協力いただきながら、経年変化を見ていきたいと考えています。このプログラムをきっかけに、各企業でどのような変化が生まれているのか、短期的な成果だけではなく、長期的な変化についても把握していきたいと思います」(西川氏)

社会課題の現場と企業の架け橋として奔走するクロスフィールズ。留職プログラムや社会課題体感フィールドスタディ以外にも、テクノロジーを活用して社会課題の現場を疑似体験する「共感VR」など、さまざまなプログラムを提供し、事業を通して社会課題を解決できる「経営者人材」の育成を着実にサポートしている。


クロスフィールズ ディレクター 西川 理菜氏

 

 

(特非)クロスフィールズ

  • 所在地 : 東京都品川区西五反田3-8-3 町原ビル4F
  • 創業 : 2011年
  • 代表者 : 代表理事 小沼 大地
  • 収入 : 2億5562万円(うち事業収入2億2998万円、2022年6月~23年5月)
  • 従業員数 : 26名(業務委託含む、2024年2月現在)

 

 

経営者・人事部門のためのHR情報サイト タナベコンサルティング

 

 

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