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【特集】

経営者人材育成

後継者不在率が過去最低の 53.9%、内部昇格による事業承継が初のトップ(35.5%)となった今、「経営者人材」の確保・育成に不安を抱える企業は多い。 戦略的な意思決定に基づいて時代に即した事業を展開できる、経営視点を持った人材の育成メソッドを提言する。
メソッド2024.04.01

経営者人材育成概論:森田 裕介

世界に後れを取る日本の人材育成

 

2024年、日本経済が4年間のコロナ禍を経てインフレへシフトする中、企業の競争環境は新たな局面を迎えている。一方、IMD(国際経営開発研究所)による「世界競争力ランキング」において1990年に世界1位であった日本は、その後のバブル崩壊とともにランキングを下げ、2023年には35位と過去最低を記録。それを裏付けるかのように、人材競争力を評価するIMD「世界人材ランキング」も2023年調査では43位と、諸外国に大きな差を付けられている。

 

かつて上位にいた日本が、これほどまでに世界各国と差が開いたのはなぜか。その理由は大きく3点に集約される。.4歳と32年連続で上昇し、過去最高を更新。これは、依然として後継経営者へのバトンがスムーズに渡せていない状況と考えられる。

 

❶ 雇用慣行
日本企業では課長職昇進が38.6歳、部長職昇進が44.0歳※1と昇進年齢が遅い状況にある。その差は、日本企業の多くが米国型のトーナメント競争モデルではなく、メンバーシップ型であることによる昇進構造に起因する。また海外諸国との年収比較を見ても、日本は諸外国と比べて課長職以降の年収差が大きく開いている※2。このことからも、諸外国は優秀な人材へ高い賃金を支払い、早期の役職登用も行っていることが見て取れる。

 

❷ 経営者の登用経路
日本企業の経営者は生え抜きが多く、同質性も高い。日本企業におけるCEOの内部昇格割合は97%と諸外国と比較して高く、さらに驚くべきは他企業での経験がないCEOは82%と圧倒的な差がある※3。日本企業は同族によるオーナー経営の割合が高いこともあるが、異質を拒む日本古来の慣習とも言えるだろう。

 

しかし、異質であることが経営者を輩出する本質ではない。重要なことは、経営者を輩出する仕組みが企業のケイパビリティーとして備わっているかということである。米国のP&Gは内部昇進制を採用し、経営陣・管理職を外部からヘッドハントせずに自社で育成している。具体的には、入社10年以内に5つの異なる役割を経験させる、2年半以内ごとに昇進機会を提供するなど、裁量権の大きさと昇進スピードを重視した人材育成を実施している。

 

❸ 人材育成投資
人材投資(OJT以外)の国際比較(GDP比、2010~2014年)を見ると、米国2.08、フランス1.78、ドイツ1.20、イタリア1.09、英国1.06に対し、日本は0.10にとどまるなど、諸外国と比較して大きな差があり、経年でもその差は拡大している※4。人材投資への消極的な姿勢が国際比較での人材力の低下を招いていると言える。

 

また、個人に焦点を当てても、社外学習および自己啓発を行わない日本人の割合は52.6%に上る。諸外国の全体平均は18.0%、特にフィリピン、インドネシア、マレーシア、ベトナム、インドは意欲的であり、日本人の学びの意欲は圧倒的に低い※5。人的資本経営と言われて久しいが、いまだ日本は「企業は人に投資せず、個人も学ばない」のが実態である。

 

 

経営者人材の育成こそが企業成長の鍵

 

かつて「Japan as No.1」と言われたように、1950年代から1970年代の高度経済成長期には、「日本的経営」が国際的に高く評価されていた。国内経済が右肩上がりで成長する中では、既存事業の成長の結果として、自社の事業や社内事情、業界情報に精通した社内人材が経営をけん引した。

 

しかし、内需の縮小に加え、コロナ禍以降、経営環境が短期間で大きく変化する今日においては、従前の経営体制では環境変化に柔軟に対応することができない。経済産業省「人的資本経営の実現に向けた検討会報告書~人材版伊藤レポート2.0~」では、「経営環境が急速に変化する中で、持続的に企業価値を向上させるためには、経営戦略と表裏一体で、その実現を支える人材戦略を策定し、実行することが不可欠である」と示されている。日本企業が持続的に成長するためには、それを実行に移すことができる経営者人材の育成と輩出が極めて重要なのだ。

 

現在、日本企業において経営者人材の育成が求められる背景の1つとして、コーポレートガバナンス改革が挙げられる。企業の持続的な成長と中長期的な企業価値向上を目的として、「攻めのガバナンス」と「守りのガバナンス」の双方の観点から、上場企業を中心に、各企業はコーポレートガバナンス・コードへの対応を迫られている。

 

経営者人材育成の観点で留意しなければならない事項は、社外取締役の活用、取締役会や指名委員会・報酬委員会の実効性向上、独立社外取締役の機能発揮、サクセッションプランの策定が主に該当する。また、上場企業では、取締役が備える知識や経験などを「スキルマトリクス」として社外へ開示する動きが広がっている。コーポレートガバナンス改革により社外取締役が増加する中で、その資質を見極めたいという投資家の声が強まっているからである。

 

しかし、経営者人材育成の監督状況について、「対応策を実行している」企業は約25%程度にとどまっており、「重要性を認識/議論はしているが対応策は未検討」の企業が約36%と十分に経営者人材の育成が進んでいないことが分かる。(【図表1】)

 

【図表1】経営者人材育成の監督状況
経営者人材育成の監督状況
出所:経済産業省「人的資本経営に関する調査集計結果」(2022年5月)よりタナベコンサルティング作成

 

 

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Profile
森田 裕介Yusuke Morita
タナベコンサルティング ストラテジー&ドメイン エグゼクティブパートナー
大手アパレルSPA企業を経てタナベコンサルティングへ入社。ライフスタイル産業の発展を使命とし、アパレル分野をはじめとする対消費者ビジネスの事業戦略構築、新規事業開発を得意とする。理論だけでなく、現場の意見に基づく戦略構築から実行まで、クライアントと一体となった実践的なコンサルティングにより、成果に導くとともに経営者人材を創生していくことを信条とする。
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