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【特集】

経営者人材育成

後継者不在率が過去最低の 53.9%、内部昇格による事業承継が初のトップ(35.5%)となった今、「経営者人材」の確保・育成に不安を抱える企業は多い。 戦略的な意思決定に基づいて時代に即した事業を展開できる、経営視点を持った人材の育成メソッドを提言する。
メソッド2024.04.01

リーダーシップアカデミーによる経営者人材の育成:藤田 奈緒、川口 弥蘭

企業内大学(アカデミー)は経営システムの1つ

 

タナベコンサルティングは、全国177校の企業内大学(アカデミー)の設立支援を行ってきた。アカデミーとは、「社員のためのオリジナル学習システム」を指す。自社の理念や方針の浸透と、人材ビジョンの体現に向けて社員を育成する仕組みであり、経営システムの1つとして位置付けられた学びのプラットフォームだ。

 

アカデミーには、入社歴の浅い社員のインプットを目的としたカリキュラムから、管理職がマネジメント力の向上を目的に受講するカリキュラムまで、多岐にわたって整備する必要があるが、どこから着手すべきかについては、企業の課題やニーズに合わせて優先度を決定する。アカデミーの特性を区分すると、大きく次の2つに分けられる。

 

❶ プロフェッショナルアカデミー
早期戦力化、技術・ノウハウ承継、業務の平準化、マニュアル化を目的としており、現場の専門人材(プロ)を養成する。

 

❷ リーダーシップアカデミー
経営者・リーダー育成、理念・ビジョン浸透、グローバル人材育成を目的としており、会社の戦略推進を担う人材を養成する。

 

プロフェッショナルアカデミーは、実務者のプロを育成するシステムであるのに対して、リーダーシップアカデミーは、次世代を担い、組織をけん引する人材の育成に重点を置いている。本稿では、リーダーシップアカデミーの構築ステップやポイントについて解説する。

 

リーダーシップアカデミー構築のステップとポイント

 

先行きが不透明な経営環境において求められるリーダーとは、「リーダーシップを発揮し、戦略を推進していく経営者としての能力を備えている人材」である。

 

リーダーは、戦略推進に必要な知識・スキルを、環境変化に合わせて常にアップデートし、連続的に成長していくことが不可欠である。そのための育成システムがリーダーシップアカデミーだ。リーダーシップアカデミーは、次のステップで構築を進める。

 

ステップ1 : リーダー人材(経営者人材)の定義付け

社内における経営者人材とは具体的にどのような人材なのか。リーダーシップアカデミーを卒業したときに、どのような人材になってほしいかを明確にする。

 

ステップ2 : 身に付けるべき知識・スキル・経験の棚卸し

学ぶ目的(Why)を軸とし、学ぶ内容(What)を、どのタイミング(When)で、どのように(How)、誰が(Who)教えるのかを検討する。

 

ステップ3 : 卒業要件(成果指標)の設定

講座(研修)ごとに卒業要件(成果を測る仕組み)を設ける。

 

まずは、「自社の事業戦略を推進できる人材はどのような特徴を持っているのか」「ビジョンを体現する人材はどのような知識・スキルを有しているのか」を明確にし、「リーダー人材、経営者人材とは何か」を定義することが、経営者人材育成の第1ボタンである。

 

定義を明確にすることで、卒業要件も見えてくる。指標として用いられやすいのは、学んだ内容の理解度を測るテストやリポートが多いが、学びを実務に生かすよう促進するためには、営業成績やMBO(目標管理制度)にひも付く内容など、実務における結果で測ることが理想だ。

 

また、人材育成の基本として、受講者本人が学ぶ目的を理解して主体的に学ぶための仕組みが必要不可欠である。そのためにも、受講者本人がリーダーシップアカデミー卒業後のキャリアビジョンを描ける環境を整備していただきたい。仕組みとしては、次の例が挙げられる。

 

❶ リーダーシップアカデミーの卒業を昇格要件として位置付ける
特に、管理職への昇格タイミングで実施することで、学んだマネジメントスキルを実務で即アウトプットすることが可能である。処遇にもひも付くため、受講者のモチベーション向上につながる。

 

❷ リーダーシップアカデミーの受講を職種転換や部署変更に立候補できる条件の1つとして位置付ける
「○○のカリキュラムを受講すると、○○部への異動申請を提出できる」という仕組みを設けることで、社員の興味や挑戦したいことを主体的に発信できる環境を構築。自律的な人材の育成や組織の活性化を促す。

 

 

在るべき姿を具体化しカリキュラムを設計

 

リーダーシップアカデミーの構築事例を紹介する。クライアントのA社では、「経営者人材を100人育てる」をビジョンに掲げ、パートナー社員(上級管理職者)と執行役員を対象に、経営者人材を育成している。前述のリーダーシップアカデミー構築ステップに基づき、約2年かけて構築を進め、2022年に開校した。コンセプト・スキル体系・カリキュラムは、【図表】の通りである。

 

【図表】A社リーダーシップアカデミーのコンセプト・体系・カリキュラム
A社リーダーシップアカデミーのコンセプト・体系・カリキュラム
出所:タナベコンサルティング作成

 

パートナー社員が自社の在るべき姿となるように、約1年かけて必要なスキルをスピリッツ・ストラクチャー・アクションの切り口で具体化し、カリキュラム内容を設計している。

 

研修は各回、事前準備・宿題、当日の講義、実習という流れで行う。事前準備を行うことで、当日の学びを最大化し、討議もオンラインとオフラインを組み合わせることで、移動や研修時間の短縮による生産性の向上と体験(実践)を実現して、学習効果の向上を狙っている。

 

顧客のニーズや働き方が多様化・複雑化する経営環境において、企業には事業戦略の推進だけでなく、的確かつ迅速な対応が求められる。

 

経営者人材の育成は、企業にとってもはや目をそらすことができない経営課題となっている。この機会にぜひ、リーダーシップアカデミーの構築を見据え、まずは社内における経営者人材の定義から始めていただきたい。

 

経営者・人事部門のためのHR情報サイト タナベコンサルティング

 

 

 

リーダーシップアカデミーによる経営者人材の育成:藤田 奈緒、川口 弥蘭

 

藤田 奈緒 (ふじた なお)
タナベコンサルティング HR ゼネラルパートナー
2018年、タナベコンサルティング入社。人事制度や教育制度の構築支援、セミナー講師・運営など、人材育成の現場に幅広く携わる。階層別・テーマ別の教育カリキュラム策定から企業内講師育成・研修運用までを支援し、中堅・中小企業の人材育成内製化を実現した経験を多数持つ。人材育成研究会のサブリーダーを務め、「業績に直結する教育の効果的な運用」を研究中。

 

 

リーダーシップアカデミーによる経営者人材の育成:藤田 奈緒、川口 弥蘭

 

Profile
川口 弥蘭Miran Kawaguchi
タナベコンサルティング HR
「クライアントに寄り添い、課題を根本的に解決する」をモットーに、クライアント企業の理念・ビジョン・企業風土・採用競争力・制度設計・グループ人事まで、人事・教育制度の構築支援、事業戦略に基づくブランディング構築など幅広いコンサルティングに携わる。また、「企業の成長・ビジョン実現とともに、社員がイキイキと働くための人材育成」を研究している。
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