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【特集】

経営者人材育成

後継者不在率が過去最低の 53.9%、内部昇格による事業承継が初のトップ(35.5%)となった今、「経営者人材」の確保・育成に不安を抱える企業は多い。 戦略的な意思決定に基づいて時代に即した事業を展開できる、経営視点を持った人材の育成メソッドを提言する。
2024.04.01

次期経営者候補を戦略的に育成し、グループ・グローバル経営を加速:三井化学

次期経営者候補を戦略的に育成し、グループ・グローバル経営を加速:三井化学 グローバル人材部 部長 小野 真吾氏
三井化学 グローバル人材部 部長 小野 真吾氏

 

三井化学はビジネスモデル転換を伴う長期経営計画の実現に向け、人材戦略を抜本的に改革。全社戦略上で重要な経営ポジションを定め、「経営者候補」「キータレント」を体系的に育成できるメカニズムを整えて、グループ・グローバル経営を加速させている。

 

グループ・グローバルで経営計画と連動した戦略的な人材育成を

 

国内53社、海外112社のグループ&グローバル経営で、ライフ&ヘルスケア、モビリティ、ICT、ベーシック&グリーン・マテリアルズなどの各領域でソリューション事業を展開する総合化学メーカー、三井化学。同社は2016年、長期経営計画と連動する人材戦略へとかじを切った。

 

「当時の『VISION2025』(長期経営計画)が大きな転換点でした。ポイントは、グローバルな経営者育成の必要性が増したこと。そして、素材提供型から顧客起点型へビジネスモデルがシフトし、事業ポートフォリオが変化したことです。

 

複雑化する事業の経営者を、従来の延長線上で育てるのは難しい。外部環境においても、上場企業のコーポレートガバナンス・コードが策定され、後継者育成の透明化や可視化を迫られました。そこで、将来求められる経営者像を定義し、計画的に育成するメカニズムとして体系化しました」

 

そう振り返るのは、人材戦略構築をけん引してきたグローバル人材部部長の小野真吾氏だ。

 

2016年当時、長期経営計画を推進するための新たな人材マネジメントの中核として、次世代の経営者となり得るリーダー候補を戦略的に育成する「キータレントマネジメント」が始動した。この仕組みでは、「キータレント」と定義された戦略的な育成ターゲット人材(部レベル長候補)が、グループ・グローバル全体で設定した約100の「戦略重要ポジション」または「育成ポジション」に登用され、個別に育成計画が推進される。

 

特に「長期経営計画を実現する上で、極めてクリティカルなポジション」(小野氏)である戦略重要ポジションには、経営者候補に必要な2つの人材要件と5つの経験軸を満たす人材が選ばれる。

 

経営者候補に求める2つの人材要件とは、①経営ビジョンの実現に向け、当社の経営を適確、公正に執行できる知識および経験を有している、②高い見識や幅広い視野、倫理観、公正性および誠実性を有している、ということである。

 

また、5つの経験軸とは、①経営的視野(複数の事業部門でのPL責任、関係会社経営など)、②事業再構築(厳しい事業のリストラクチャリングなど)、③新事業開発(新しいビジネスモデルの立案・実行、今までとは異なる事業(市場・製品・顧客)創造経験など)、④全社横断プロジェクト(全社的問題に関わるスタッフ業務、長期計画の策定、大型M&A、アライアンスなど)、⑤海外経験(海外における会社マネジメント経験)である。

 

「新たな仕組みに対する納得と理解を深めるため、社内に向けて発信した内容は大きく3つあります。第一に、経営者候補とキータレントの選定は、グループ・グローバル共通で導入すること。第二に、(本部長推薦ではなく)部長クラスも交えた人選とし、部門としての人材育成の観点も取り入れること。第三に、個別の育成計画で、部門間の垣根を超えさまざまな経験を積み視野を広げることで、新たなポートフォリオにふさわしい経営者候補が育つこと。全社巻き込み型で経営人材を育てましょう、とメッセージを発しました」(小野氏)

 

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