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【特集】

経営者人材育成

後継者不在率が過去最低の 53.9%、内部昇格による事業承継が初のトップ(35.5%)となった今、「経営者人材」の確保・育成に不安を抱える企業は多い。 戦略的な意思決定に基づいて時代に即した事業を展開できる、経営視点を持った人材の育成メソッドを提言する。
メソッド2024.04.01

経営者人材を育成するためのHRテック活用術:浜西 健太

「スキルマトリクス」の可視化

 

HRテックとは、HR(人的資源)とテクノロジーを掛け合わせた造語である。組織・人材システムに対して、先進のデジタル技術(主にAIやIoTなど)を駆使しながら人事課題を解決するソリューション全般を指す。

 

HRテックの領域は、①採用、②人材育成、③組織開発(人材ポートフォリオ)、④エンゲージメント、⑤タレントマネジメント(評価・MBO:目標管理制度)、⑥労務管理(給与・勤怠・経費)と多岐にわたるが、本稿ではタレントマネジメントに代表され、経営者人材を育成する仕組みの整備において必須となる「スキルマトリクス」と「経営者人材プール」に絞って解説する。

 

自社において、経営者人材に求めるジョブやスキルは明確になっているだろうか。昨今、上場企業を中心に、現経営陣が保有するスキルを一覧にまとめたスキルマトリクスを公表する動きが顕著である。

 

筆者は「現経営者向けのスキルマトリクス」と「経営者人材向けのスキルマトリクス」を分けて明文化することを推奨している。

 

現経営者向けのスキルマトリクスでは、取締役会を構成する経営者・役員の経営スキル(事業経営・マーケティング・ファイナンス・法務・ガバナンスなど)の保有状況の把握や、相互補完バランスをつかむことが目的となる。(【図表1】)

 

【図表1】現経営者向けのスキルマトリクスの例

出所:タナベコンサルティング作成

 

一方、経営者人材向けのスキルマトリクスでは、【図表1】で示した経営スキル(テクニカルスキル)に加え、コンセプチュアル(概念化)スキルやヒューマン(対人関係)スキルまで網羅し、落とし込むことを推奨している。(【図表2】)

 

【図表2】経営者人材向けのスキルマトリクスの例

出所:タナベコンサルティング作成

 

その理由は、経営スキルだけ高めたとしても、組織の上に立つ人としての器がなければ経営者(役員)として周りを巻き込むことはできないからだ。そのため、コンセプチュアルスキルやヒューマンスキルが必要となる。それぞれの特徴は次の通りである。

 

❶ コンセプチュアルスキル
概念化スキルとも言う。複雑な問題や課題の解決を通じて思考プロセスを鍛えることで、物事の本質を見極める力が身に付く。

 

❷ ヒューマンスキル
対人関係スキルである。人や組織(チーム)を円滑に動かし、ケイパビリティー(組織としての総合力)を引き上げる力が身に付く。

 

まずは、「自社の在るべき経営者人材」を明文化し、必要なスキルの洗い出しから始めていただきたい。次に、HR テック(タレントマネジメントなど)を活用し、求められるスキルを社員に可視化する。

 

 

経営者人材をどれだけ“プール”しているか

 

次に検討すべきは、自社の経営者人材をどれくらい確保できているか把握することである。人事用語では「タレントプール(人材の蓄え)」と言い、あらゆる職種・階層別に、どの程度の人材が蓄積されているかの把握に用いる。ここでは、経営者人材の蓄積を「経営者人材プール」と定義する。

 

近年は、年功序列で経営者(役員)候補を選抜するのではなく、年齢や勤続年数に限らず、抜てき人事を通じて人材を選抜、育成する仕組みを整える企業が増加傾向だ。この仕組みに研修管理・教育管理などのHRテックを活用することで、感覚的ではなく、再現性のある運用が可能となる。

 

筆者がコンサルティングしているA社では、現経営陣のみ参加していた経営会議に経営者人材が参加する仕組みを2021年から採用しており、経営判断のプロセス理解と、実際に自身が全責任を負って経営判断を行える環境を整えている。

 

また、経営者人材のみが参加できる役員候補者研修があり、学びを深める機会となっている。抜てき人事の対象でない人材のモチベーション維持を考慮し、これらの仕組みは毎年人材を入れ替えることを前提に運用を続けている。

 

別のコンサルティング先であるB社では、現世代ボード(現経営陣)、次世代ボード(次期経営幹部候補)、次々世代ボード(次期幹部候補)の3世代にわたるジュニアボードを学習機会として設計。HR テックを活用しながら、それぞれのメンバーの人選・アセスメント・研修管理・フォローアップ管理を仕組み化している。どちらの事例にも共通しているのは、「継続性・再現性のある運用体制を構築している」ことである。

 

全ての企業に共通して立ちはだかる命題は、「経営者が第一線で経営のかじを取り続けることはできない」ということである。

 

経営者人材の育成は、企業にとって最も重要度の高い経営テーマであり、次期社長のみならず、次世代を担う経営層(役員・経営幹部)を総称して「経営者」と捉え、計画的な育成、および育成の仕組み化・システム化まで踏み込んだ実装が重要だ。

 

経営者・人事部門のためのHR情報サイト タナベコンサルティング

 

 

 

 

Profile
浜西 健太Kenta Hamanishi
タナベコンサルティング HR エグゼクティブパートナー
「誰もが幸せに働ける会社を生涯かけて追求する」をポリシーに、組織・人事に関するプロフェッショナルとして多くのコンサルティングを展開。特に、経営者へのコーチングが高い評価を得ている。クライアントのステージに合わせた人事制度設計および組織開発を通して、エンゲージメント向上と売上倍増へと導いた経験を多く持つ。
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