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【特集】

経営者人材育成

後継者不在率が過去最低の 53.9%、内部昇格による事業承継が初のトップ(35.5%)となった今、「経営者人材」の確保・育成に不安を抱える企業は多い。 戦略的な意思決定に基づいて時代に即した事業を展開できる、経営視点を持った人材の育成メソッドを提言する。
メソッド2024.04.01

ビジョン実現に向けた幹部人材育成:名倉 克明

ビジョン実現に向けた幹部人材育成:名倉 克明

 

ビジョンや経営計画に人材育成計画を組み込む

 

目まぐるしく外部環境が変化している現代において、短期課題に注力してしまうと中長期視点が薄れ、目の前の競争環境を勝ち抜くことに終始してしまう。しかし、企業の経営活動には、そのフィールドである社会への貢献、社会の持続性に寄与することが同時に求められる。

 

したがって、近未来的な予測ではなく、「社会性と経済性の両面を重視して、社会と企業の両方で持続可能な状態を目指す経営モデル」を目指すことが、自社の発展につながっていく。そして、社会課題の解決を実現するための事業戦略・経営戦略・組織モデル、収益モデルをつくり上げ、社会と企業の持続性が共存した状態をつくるためのサステナブル戦略をデザインし、具現化することこそが、中長期的な発展に結び付く。先行きが見通しにくい時代だからこそ、長期ビジョンを描き、そのビジョン実現に向けてバックキャストで立案した中期経営計画と、新たなビジョンロードマップをつくり上げていく必要がある。

 

この時に忘れてはならないのが、人材計画である。人的資本が注目されている昨今は、人材を「コスト」ではなく、「投資によって生産性を高められる資本」と捉える動きが活発化している。経営者人材および経営幹部、中堅社員、若手社員など、自社に適した階層別の計画を、ビジョンから逆算した中期経営計画に盛り込まなければいけない。社長にしかできない仕事には「次の社長をつくる」ことが含まれるが、複数の経営者人材や経営幹部人材も継続的に輩出していかなければならない時代となっている。

 

 

人材ポートフォリオという考え方

 

人的資本経営の考え方の普及と並行して、人事KPI(重要業績評価指標)や人材ポートフォリオという考え方も広く普及した。大企業に比べて人的リソースが限られる中堅・中小企業においても、社員一人一人がどのような能力や専門スキルを身に付けるべきなのか、在るべき人材像を明確化することが重要な要素となっている。

 

「組織は戦略に従う」(アルフレッド・D・チャンドラー Jr.)という考えに基づいて考察すると、ビジョン→中期経営計画→事業戦略→経営戦略(組織・人材)となり、経営戦略の中に人材ポートフォリオが含まれる。事業戦略を推進するために必要な人材や不足しているスキルを洗い出すことで、内部調達(育成や人事異動などの配置転換)なのか、もしくは外部調達(採用やM&Aなど)なのか判断できる。

 

この時、中期経営計画に盛り込まれていないケースが多いのが、経営者人材・経営幹部人材である。経営者人材・経営幹部と管理職が同じ「管理職」というくくりに含まれてしまうことが多いためである。事業ポートフォリオと同様、人材ポートフォリオを設計し、その中に経営者人材・経営幹部人材を明記することが重要となる。

 

タナベコンサルティングでは、経営者を育成する際、後継者(経営者人材)だけでなく、後継者を支える幹部人材や、グループ企業の事業責任者、将来的に後継者になる可能性のある人材など、階層別の育成計画を提案している。承継を進める上で、経営者人材を次から次へと輩出する仕組み(経営システム)の構築が重要であるからだ。本稿では特に経営幹部人材の育成に焦点を当て、育成方法や輩出ステップについて述べる。

 

 

組織別で見る幹部育成

 

事業成長と同様に組織デザインは進化していかなければならないが、組織デザインに応じて幹部人材を輩出する難易度は変わってくる。

 

❶ 機能別組織×幹部育成
機能別組織の特長として、必要な機能や役割が明確化されるため専門性が高まることが挙げられる。しかし、部門間のセクショナリズムが発生したり、業績責任が曖昧になったりすることが多いため、経営幹部は育成しやすい傾向にあるが、経営者人材を輩出することは難しくなる。この場合、経営者人材候補の社員に外部研修などを含めて、社内育成プログラムや仕組みを構築する必要がある。

 

❷ 事業部組織×幹部育成
事業部組織の特長として、事業部ごとの業績責任が明確になることで、事業部長の業績意識が醸成されることがある。そのため機能別組織と比較すると、事業部収益を高めていく必要があるため、経営者人材を輩出することができ、また同様に部門長も実務の中で育成することができる。

 

❸ ホールディング経営組織×幹部育成
「数多くの社長を生み出す組織」をコンセプトにする企業も多いのが、ホールディング経営組織である。事業会社の責任者は社長であり、ホールディングカンパニーから業務執行責任と権限を移譲される。また、ホールディング経営組織は、ホールディングカンパニーと事業会社の両社で、経営者人材と経営幹部人材の育成が実施可能となる。

 

ホールディングカンパニーはグループ経営の頭脳となり、経営企画やグループ戦略に特化することが多い。そのため、グループ全体最適の視点で経営資源の再配分や戦略の立案・推進に関わることになり、経営の知識・経験・能力を養うことができる。

 

一方、事業会社は現場で顧客ニーズを的確に捉え、外部環境の変化にスピーディーに対応しつつ、収益を確保・向上していく必要があるため、事業に強い経営者人材を育てることができる。経営が失敗してしまうリスクはあるが、事業会社の範囲にとどめることができるので、グループ全体のリスクは軽減される。

 

 

幹部人材輩出のステップ

 

❶ 経営者・経営幹部の人材像を描く
第1ボタンとして在るべき人材像を明確にし、必要なスキル・能力を明文化する。ポイントは、“今”を基準に考えるのではなく、ビジョンや成長戦略を基に設計することである。

 

❷ 候補者の人選基準の策定
社内から選抜する際の基準を策定する。幹部育成には中長期間が必要となる。定年前に登用できるのかなども検討しなければいけない。中途採用も手段の一つではあるものの、不確実性が高いため除外して検討すべきである。

 

❸ 中長期育成計画の立案
在るべき人材像と人選基準が明確化したところで、計画を策定する。研修(OJTとOFF-JT)を通じた育成を行い、モニタリングしていかなければいけない。社内でいかに社長の権限を委譲し、着実に実行できるかが重要となる。

 

経営者・人事部門のためのHR情報サイト タナベコンサルティング

 

 

 

ビジョン実現に向けた幹部人材育成:名倉 克明

 

Profile
名倉 克明Katuaki Nagura
タナベコンサルティング ストラテジー&ドメイン ゼネラルマネジャー
教育業界で統括業務、事業戦略の立案・推進担当役員を経て、タナベコンサルティングに入社。中長期経営ビジョン策定・組織開発・人材育成を強みとし、経営計画の立案と推進を支援する。多くのクライアントの業績を改善してきた経験を持つ。
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