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【特集】

リードナーチャリング

国内の人口と企業数が減少する中、BtoBにおいてもBtoCにおいても、新規顧客開拓の難易度はますます上がっていく。この状況下で重要性を増しているのが、過去にアプローチした見込み客情報(ハウスリスト)だ。自社に眠る財産であるハウスリストを活用し、見込み客を顧客へ変えていくリードナーチャリングのメソッドを提言する。
メソッド2023.02.01

顧客を理解することが真の“育成”につながる:庄田 順一

 

 

顧客を理解する上で見るべきポイント

 

では、どのような観点で顧客の理解を進めるべきか。そのためには、顧客の“行動の理由”が見えないといけない。まずは、売り上げを「客数×単価×頻度」の3要素に分解し、購買行動について考えてみよう。売り上げが伸びたとき、何が起こっているのかである。

 

もし、客数はそのままで単価や頻度が上がっていれば、商品への満足度が高まって、既存顧客のロイヤルカスタマー化が進んでいる可能性が考えられる。しかし、もしかするとキャンペーンや会員制ポイント施策などでまとめ買いを促進しただけで、満足度自体は高まっていないかもしれない。

 

前者であれば、単価と頻度はこの後も安定するが、後者であれば単価と頻度は維持できず、売り上げ増は一時的なものと判断すべきである。

 

また別のケースとして、単価と頻度は下がったものの、客数が大きく増えて売り上げが上がったケースはどうだろう。

 

この場合、新規顧客の急増は何らかの販売促進施策が奏功した結果であって、将来に発生する見込みのあった需要の前倒し(先食い)にすぎないかもしれない。満足度が低ければリピートは望めないため、今後の売り上げは落ち、再度、販売促進への投資が必要になる可能性すら出てくる。しかし、新規顧客がプロダクトを使用して強い価値を感じ、次回も購買したい気持ちを持てば、売り上げは継続的に上がっていく。

 

これらのケースはいずれも「売り上げ増」として会社へ報告される。仮に客数、単価、頻度まで報告されていても、さらにその背景にはさまざまな可能性が考えられるため、今後も継続的に売り上げが増加するのかどうかの見通しは不確かであることが理解できると思う。

 

では、継続的に売り上げを向上させて、収益性を安定させるために何を理解すべきだろうか。

 

それが、顧客の行動と、その行動を引き起こす意識への理解だ。

 

なぜ買ってもらえたのか。

 

なぜ購入頻度が上がったのか。

 

商品やサービスを実際に購入し体験して、どう感じたのか。

 

その価値はどう判断されたのか。

 

これらの答えは、全て顧客の意識に中にある。「その行動を起こす背景にある意識」と「行動した結果の意識」を理解できなければ、一時的な売り上げ増や利益増という事実があっても、実施したマーケティング施策が正しいとは限らない。「売り上げをもたらす顧客の行動」を理解するだけでは不十分なのだ。

 

 

顧客を見つめ直し、リードナーチャリング戦略を見直す

 

リードナーチャリングに必要なことは、顧客が価値として認める利益(便益)と体験を商品・サービスを通じて提供し、継続的に売り上げ(利益)を向上させることである。つまり、リードナーチャリングとは、企業が継続的な事業成長と収益性の向上を達成するために実践すべき戦略そのものだと言えよう。

 

顧客は多様であり、日々刻々と変化している。そのため、適切にセグメンテーションし、その動きに応じて、次にどのセグメント層へ投資すべきかを見極める必要がある。自社の商品・サービスを継続的に育成するため、複数のリードナーチャリング戦略を描くことが重要なのだ。

 

例えば、新規顧客化しそうなリードに、最後のひと押しとなるような魅力を訴求して受注する。もしくは離反しそうな既存顧客層に、その層が認知していない商品・サービスの魅力を訴求して離反を防ぐなどである。

 

そして、その戦略の実行が、ターゲット層の行動の変化へ狙い通りにつながったか、定期的に時系列で追って検証する。

 

この一連の「顧客の行動や意識を理解したリードナーチャリング」を実行することで、事業と組織が拡大する中でも属人的なリーダーシップに頼ることなく、また各部門で個別最適になることなく、顧客へ継続的に価値を提供していくことが可能になる。

 

私たちが理解すべきなのは、顧客の意識や多様性、変化であり、これらの理解を深めて「顧客は誰なのか」を定義し、それを共通の横串として組織全体で共有しなければならないということだ。顧客の状況を時系列で可視化し、顧客を起点とした考えでリードをマネジメントするリードナーチャリング戦略を構築し、これらを経営層と共有し、組織全体での顧客の理解とPDCAを繰り返す。それが、“顧客を本当の意味で理解したリードナーチャリング戦略”であり、自社を持続的成長に導くことができる。

 

本稿のリードナーチャリング戦略の考え方を自社組織の戦略へ落とし込み、実践することで、新たな顧客創造モデルを構築していただきたい。

 

 

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Profile
庄田 順一Junichi Shoda
タナベコンサルティング 執行役員 ブランド&マーケティング東京本部 本部長。マーケティング戦略パートナーとして、顧客に向けたデジタルとリアルを融合したコミュニケーションの戦略設計コンサルティング活動を展開。ウェブとリアルを融合した集客プロモーションコンサルティングにより顧客創造と売上げ拡大を支援している。マーケティングの戦略策定から実行・運営までのトータルサポートに加え、プロモーション企画とその推進マネジメントを通じた人材育成で、クライアントから高い信頼を得ている。
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