TCG REVIEW logo

100年先も一番に
選ばれる会社へ、「決断」を。
【特集】

DXビジョンを策定・推進しよう

企業が価値を提供し続けるため必須となったDX。デジタル領域で価値発揮するビジネスモデルの再構築だけでなく、外部環境変化に対応できるシステムや組織への全社変革が求められる。「自社が何を目指すのか」というビジョンからDX戦略を策定し、実現に向けた改革テーマへ落とし込むメソッドを提言する。
メソッド2022.11.01

DXビジョンと連動したマネジメントDXの推進:マネジメント&オペレーションズ本部

 

マネジメントDXの目的は「創造的課題」の解決

 

マネジメントDXは大きく2つに分けられる。非効率なアナログ業務のデジタル化で効率化を図る「復元的課題解決」と、将来的なDXビジョンの実現を見据えた「創造的課題解決」である。

 

復元的課題解決は、バックオフィス部門におけるDXが中心となる。本誌2022年2月号掲載の「バックオフィスDXの真価とプロセス」でも説明した通り、一般的なDXにおいては企業の競争優位性の確立が大きな目的である。

 

しかし、バックオフィスDXは、競争優位性のみに軸足を置くものではない。なぜなら間接業務のDXであるため、働き方改革や多様なワークスタイルへの対応という側面が強いからである。具体的には、次の着眼点を念頭に置くと良い。

 

❶新たな働き方へ対応するための最低条件を早急に満たす
❷定型業務・非付加価値業務の削減から始める
❸簡単に進められるところから始める

 

以上を踏まえると、バックオフィスDXとは、バックオフィス業務のデジタル化(デジタイゼーション・デジタライゼーション)がほとんどである。マネジメントDXを進める上で、これらの取り組みだけでは十分とは言いがたい。

 

マネジメントDXにおいて最も重要な要素は、2つ目の創造的課題の解決である。

 

DXビジョン実現に向けたDX戦略の策定・推進において、タナベコンサルティングでは4つのDXテーマ(ビジネスDX・マーケティングDX・マネジメントDX・HRDX)に分類、提言している。中でも、マネジメントDXは特殊な性質を持つ。それは、「変化の連続性」である。

 

DXビジョン策定に向けた将来予測は、DXによる生活様式や市場、製品・サービス、バリューチェーンの非連続的な変化を想定するケースが大半だ。一方で、それらを下支えするバリューチェーン上の支援活動(システム・データ・人材・スキルなど)は、情報の蓄積や人材教育、風土改革など連続的な変化しかできない。

 

つまり、マネジメントDXは、DXビジョンから逆算して解決すべきテーマを設定することが重要であり、初めに着手しなければならない領域なのだ。

 

 

デジタル技術の活用で自己変革力を高める

 

昨今、「ダイナミック・ケイパビリティ」という考え方が再注目されている。この考え方は、DXに必要な能力と共通する部分が多い。

 

ダイナミック・ケイパビリティとは、米カリフォルニア大学バークレー校のデイビッド・J・ティース氏が提唱した戦略経営論である。「環境や状況が激しく変化する中で、企業がその変化に対応して自己を変革する能力」(経済産業省「2020年版ものづくり白書」)であり、【図表1】の3つの能力が必要となる。

 

 

【図表1】ダイナミック・ケイパビリティに必要な3つの能力

出所:経済産業省「2020年版ものづくり白書」(2020年5月)を基にタナベコンサルティング作成

 

 

ダイナミック・ケイパビリティの考え方を、「最新の技術動向などを感知し、自社の経営戦略を調整することで組織全体を刷新する」と捉えると、DXの推進そのものと言える。デジタル技術を活用して、【図表1】の能力を向上させるという見方もできる。

 

また、経営判断などを含めたマネジメント・HR領域におけるリスク感知は、デジタル技術により飛躍的に増加した。(【図表2】)

 

【図表2】デジタル技術の活用によるリスク感知の例

出所:タナベコンサルティング作成

 

 

DXを推進する上では、「アナログ業務のデジタル化」といった手段が目的になってはならない。そのためにも、DXビジョンから逆算してマネジメントDXに戦略を落とし込むことが重要なのだ。

 

一方で、デジタル技術を活用する手段(ツール)でさえも、加速度的に進化していることに留意していただきたい。これまでに行っていたシステムツールへの投資よりも短期間で細かくPDCAを回す必要があり、アジャイル思考(変化に柔軟に対応していくのに適した思考方法)でのデジタルツールの活用が必須だ。

 

ここでのポイントは、ボトムアップで推進することである。現場レベルでのデジタルツールの活用を検討する上で、経営層などの限られたメンバーのみで情報収集を行っていては、増加し続ける情報量に追い付かないからだ。

 

さらに、全社員のデジタルリテラシーの向上と、風通しの良い組織風土の醸成も忘れてはならない。生産性向上のためのデジタルツールに関する情報収集能力は、全社員が意識的にアンテナを張れば向上するだろう。しかし、実際にそれが現場の改善につながらなければ意味がない。また、現場から改善提案がされたとしても、全社最適な意思決定ができなければ効果は弱まる。

 

このような構造は、アナログ業務の改善活動においても同様であった。付加価値向上につながる戦略的施策は経営層が検討しつつ、現場での業務効率化はボトムアップで進めてきたという企業は多いだろう。

 

社会にとってDXは“前提”になりつつある。DXが特別な取り組みであれば、DXに合わせた特別な施策が必要になるが、これまでと同様、経営層はDXを前提に市場に対する付加価値向上の戦略を検討し、現場のメンバーはデジタル活用を選択肢の1つとして生産性向上を目指すという流れが重要である。

 

それだけに、デジタルリテラシーはビジネスパーソンとしての前提スキルであり、早急に全社員の底上げに取り組むべきテーマと言える。まずは、自社の環境や状況を把握し、活用すべきツールを見極め、自己変革力を高めていただきたい。

DXビジョンを策定・推進しよう一覧へメソッド一覧へ特集一覧へ

関連記事Related article

TCG REVIEW logo