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【特集】

リードナーチャリング

国内の人口と企業数が減少する中、BtoBにおいてもBtoCにおいても、新規顧客開拓の難易度はますます上がっていく。この状況下で重要性を増しているのが、過去にアプローチした見込み客情報(ハウスリスト)だ。自社に眠る財産であるハウスリストを活用し、見込み客を顧客へ変えていくリードナーチャリングのメソッドを提言する。
メソッド2023.02.01

オンラインとオフラインの融合でマーケティング戦略を再設計:西井 勝

 

「OMO」の推進で顧客の体験価値を創出

 

コンサルティングの現場で、クライアントから「顧客リード(見込み客情報)を獲得できても新規受注・成約につながらない」「新規受注を獲得できても2回目以降のリピートにつながらない」という相談をいただく。これは、リードナーチャリング(見込み客を中長期的に育成していくプロセス)に苦労しているクライアントが多いということだ。

 

この現状を踏まえ、本稿では、BtoC領域のリードナーチャリングについて、事例を交えながら成功へのヒントを提言する。

 

顧客ターゲットの年齢層によって多少の違いはあるものの、BtoCにおける顧客とのタッチポイントはスマートフォンが中心である。スマホを起点に、ウェブ(EC)サイト・アプリ・SNSで情報を集め、商品・サービスを購入する。

 

リアルやオフラインのマーケティング施策を否定しているわけではない。依然として、テレビ・新聞などのマスメディアの影響は大きい。また、新型コロナウイルス感染拡大の影響で、レストランに行く、買い物に出かけるなどの行動に制限が掛かることはあるものの、人間である以上リアルでの活動は生活に不可欠である。つまり、顧客ターゲットやシーンに合わせて、オンラインとオフラインの両方でマーケティングストーリーを設計し、顧客へアプローチすることが求められる。

 

マーケティング業界で近年よく耳にする「OMO」という概念をご存じだろうか。OMOとは、「Online Merges with Offline」の略称で、「オンラインとオフラインの統合・融合」を意味する。

 

これまでのマーケティング手法において、オンラインとオフラインは区別して捉えられてきた。だが、デジタル化の加速によって消費者が両方を盛んに行き来する今、それらを区別することは意味をなさなくなっている。

 

「両方を一体化することで、より次元の高い所で顧客の体験価値を創出することが可能になる」というのがOMOの趣旨である。特にBtoCのリードナーチャリングにおいては、OMOの推進が重要な鍵を握るのだ。

 

 

約5年かけてOMOを実行しリードナーチャリングを推進

 

OMOを具体的に理解いただくために、事例を1つ紹介したい。アパレルの製造小売業(SPA)を展開するA社は、約5年の歳月をかけてOMOを推進し、リードナーチャリングに成功。従来に比べ、顧客1人当たりの1年間の購入金額(LTV:顧客生涯価値)を3倍に増やした。

 

これまでA社の顧客ターゲットは60歳以上の男女で、集客プロモーションはマス広告(テレビ・新聞)に依存。販売チャネルはカタログ(50万部発行)とECサイトの併用だけであった。購入は1回限りの顧客が大半を占め、リピート顧客の獲得に苦労していた。

 

A社はOMOの推進に当たり、①顧客ターゲットを40~50歳代の男女へシフト、②新しいターゲットに合わせた新商品を開発、③デジタル(オンライン)マーケティングを実装、④従来のオフライン広告は一定量を保ちつつ、オンラインとオフラインを融合、この4つを行った。

 

注目すべきはOMOを取り入れつつリードナーチャリングに注力した点である。成功のポイントは次の3点だ。

 

❶オンライン・オフラインの融合で顧客のタッチポイントを創出

 

従来の施策では、タッチポイントの創出がオフライン主体で少なかったが、この5年でオンラインのタッチポイントを拡充。ECサイトのリニューアルや、ウェブ広告、SNS、メルマガ、ウェブ接客ツール、ブログ(アフィリエイト:成果報酬型広告)などを活用。結果は、ECサイトからの受注獲得は月平均2500件から1万件に増加。顧客との接触を絶やすことなく、A社のマインドシェアを高めている。

 

❷リードナーチャリングのステップを設けてリピーター獲得の導線を設計

 

【図表】の通り、リピーター獲得に向けて細かなステップを設けた。従来は、オフラインのマス広告からECサイトへの誘導が主流であった。顧客にとって、単調なステップの割には意思決定までのハードルが高く、購入をためらう傾向にあった。

 

 

【図表】リピーター獲得に向けた導線設計

出所:タナベコンサルティング作成

 

 

❸顧客の状況・ニーズに合わせたアプローチ

 

LINEを活用し、レコメンド機能(ユーザーに商品をお勧めする機能)により顧客の状況・ニーズに合わせた最適な商品を案内。また、割引クーポンをプレゼントし、購入を後押しした。レコメンド機能は、顧客属性、過去の購入履歴、サイトの閲覧ページなどのデータを分析し、顧客一人一人に合わせて最適にアプローチできる。「これが欲しかった」と言える商品を的確に案内することで、結果としてA社への好感度・愛着度が上がり、リピート購入、LTVの3倍増につながった。

 

 

時間がかかるからこそいち早く動き出す

 

A社のリードナーチャリング成功のポイントを3つ紹介したが、前述の通り、A社はマーケティングの戦略から仕組みまで構築し、成果を出すまでに約5年の歳月を要している。このような取り組みを行い、成果を出すまでには相応の時間・手間・コストが必要である。他社との差別化を図るためには、悠長に構えずいち早く動き出さなければならない。

 

取り組みには順序があることも忘れないでいただきたい。リードナーチャリングの成功には、マーケティング施策全体の現状認識と戦略設計が必要である。

 

まず、自社のマーケティングの現状と課題を把握する。次に、戦略とアクションプランを設計する。その際、「オンライン施策が必要だから」とやみくもにデジタルツールを実装してはならない。リードナーチャリング、OMOなどは、マーケティングを構成する一要素に過ぎないからだ。

 

マーケティング戦略全体を押さえつつ、オンライン・オフライン施策を融合した顧客の体験価値・ストーリーを設計することが重要である。ぜひ、1日も早く新しい展開へかじを切っていただきたい。

 

 

Profile
西井 勝Masaru Nishii
タナベコンサルティング ブランド&マーケティング大阪本部 部長代理。生活日用品メーカーにて法人営業を経験後、タナベコンサルティング入社。アウター・インナーブランディング戦略、コミュニケーション戦略、プロモーション戦略など立案から実行支援、クリエイティブ領域までワンストップでの提供に携わる。得意なテーマは、ブランドコンセプト策定、アウター・インナーブランディング推進。常に本質を捉え、クライアントに寄り添って課題解決することを信条としている。
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