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【特集】

企業価値向上

人的資本など、非財務関連の情報を投資の指標に使う動きが広がっている。しかし、それだけで企業を評価することは難しく、強い財務基盤が必要であることに変わりはない。最適な意思決定と実行の仕組みを構築し、財務・非財務の両面で自社の企業価値を高めるメソッドを提言する。
2023.05.01

「知の探索」センサーを稼働させ創業間もないスタートアップに投資:ADワークスグループ

個人の金融資産をスタートアップに流入

 

まだ事業を軌道に乗せていないスタートアップ企業の可能性を評価するには、確かな「目利き」を備えていなければならない。そのためには、自社のみならず、それぞれの領域で強みを持つ他社とのアライアンスも重要になる。そこで、2022年8月、エンジェル・トーチは「ファイナンス・アレンジメント事業」を開始し、岡三証券グループ(東京都中央区)と業務提携し、FUNDINNO(東京都品川区)への出資と、Siiibo証券(東京都中央区)への出資、資本提携を開始した。

 

ファイナンス・アレンジメント事業は、シードステージ、アーリーステージをメインターゲットにした成長資金の調達という役割を担うものだ。そのため、出資や業務提携した3社もスタートアップ支援に必要なノウハウやバックグランドを有する企業ばかりである。

 

FUNDINNOは、個人投資家が未上場企業に小口で出資できるクラウドファンディング事業(個人Equity)を立ち上げて「個人版エンジェル投資家の創出」を実現し、その分野の圧倒的なシェアを誇る。Siiibo証券は、私募社債の購入・発行・管理が行えるWebプラットフォームを提供する(個人Debt)スタートアップ企業。そして岡三証券グループはデジタル有価証券を発行する役割(STO事業)を担う。(【図表2】)

【図表2】CVC事業を母体とした「ファイナンス・アレンジメント事業」の事業イメージ

CVC事業を母体とした「ファイナンス・アレンジメント事業」の事業イメージ

出所:ADワークスグループニュースリリースより
タナベコンサルティング作成

 

「こうした布陣からも分かるように、ファイナンス・アレンジメント事業はシードステージ、アーリーステージのスタートアップ企業への資金を個人投資家から募ろうというものです。日本経済の停滞は長く続いていますが、お金がないわけではありません。2021年度のGDP(国内総生産)は約540兆円ですが、日本銀行の発表によると2022年12月時点での個人の金融資産は2023兆円(「資金循環統計(速報)(2022年第4四半期)」2023年3月17日)。つまり、日本のGDPの4倍に当たる現金を個人が所有している計算です。こんな先進国は世界中に1つも見当たりません。

 

ところが、魅力的な投資先がないために銀行やタンス預金で眠っているわけです。こうした出口を探している資金をスタートアップへと流入する導管をつくる。それがファイナンス・アレジメント事業構想の狙いであり、日本経済活性化の切り札になるスキームだと考えています」(細谷氏)

 

加えて、細谷氏はADワークスグループのCFOとして、株主に優しい増資方法といわれる「ライツ・オファリング※3」を駆使して、個人株主・投資家から累計80億円超の資金調達してきた実績を持つ。それぞれが得意とするノウハウを融合させることで、個人投資家の資金をスタートアップに流入させる仕組みづくりをスタートさせている。

 

NFTなどに注目すると同時に経営者の資質を最重要視する

 

では、ファイナンス・アレンジメント事業構想は、どのようなスタートアップへ投資を行っているのか。今後、市場拡大が見込まれる分野だが、その中でも細谷氏が注目しているのが、ブロックチェーンを基盤にしたNFT(Non-Fungible Token=非代替性トークン)やメタバースなどである。

 

例えば、NFTの活用分野としてデジタルアート※4が注目されている。デジタルアートは作品そのものの価値に加えて、誰が所有していたかが価値につながる側面がある。NFTの識別情報によって作品の所有履歴が全て分かるので、デジタルアート作品の売買などに活用されている。このように新しいビジネスの創出につながる分野への積極的な投資を進めていく予定だという。

 

「スタートアップへの投資で何よりも重要なのが経営者の情熱など事業に対する姿勢です。そこを重視しながら未来を切り開く企業を支援していきたいですね。また、最近の個人投資家の傾向としては、SDGsなどへの取り組みや社会貢献的な活動を支援する動きが活発化し、寄付型のクラウドファンディングなども活況を呈しています。企業に対する評価も人的資本経営など非財務情報を重視する傾向が強まっています。こうした社会の動きを見極めながらスタートアップの資金調達の支援をしていきたいと考えています」(細谷氏)

 

さらに、細谷氏はCVCという方法で知の探索を行うことで、多様な領域の人々の交流が生まれ、社内だけでは醸成できないダイバーシティーを獲得することができるというメリットを指摘する。

 

エンジェル・トーチを中核にしたADワークスグループの知の探索で、日本からどんなスタートアップが生まれるのか、動向に注目が集まる。

※3 市場価格よりも低い価格で、株主に対して当該上場会社の株式を購入できる新株予約権を無償で割当てる増資手段の1つ
※4 PCやタブレットなどのデジタルデバイスを使って作られたアート作品

 

ADワークスグループ 専務取締役 CFO 経営企画管掌 細谷 佳津年氏

ADワークスグループ 専務取締役 CFO 経営企画管掌 細谷 佳津年氏

 

PROFILE

  • (株)ADワークスグループ
  • 所在地:東京都千代田区内幸町2-2-3 日比谷国際ビル5F
  • 創業:1886年
  • 代表者:代表取締役社 長田中秀夫
  • 売上高:278億5600万円(連結、2022年12月期)
  • 従業員数:219名(連結、2022年12月現在)

 

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