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【特集】

企業価値向上

人的資本など、非財務関連の情報を投資の指標に使う動きが広がっている。しかし、それだけで企業を評価することは難しく、強い財務基盤が必要であることに変わりはない。最適な意思決定と実行の仕組みを構築し、財務・非財務の両面で自社の企業価値を高めるメソッドを提言する。
メソッド2023.05.01

ファイナンス思考でグループ経営を推進:浜岡 裕明

コーポレートファイナンスから見るグループ経営の課題

 

コーポレートファイナンスとは、企業価値の最大化を目的に、資金調達、事業投資を通じて調達元に資金を還元するための活動である。関わる領域は、資金調達の在り方に始まり、企業価値を高めるための戦略投資や事業企画、管理会計や内部統制ほかガバナンスの要素等、非常に広い。

 

事業会社が複数あるグループ企業においては、コーポレートファイナンスの視点を取り入れることが重要である。しかし、ファイナンス思考でグループ経営を推進している企業は少ないのが現状だ。

 

ファイナンス思考を取り入れていない企業は、総じて「分社型マネジメント」にとどまっているケースが多い。コンサルティングを通じて多くのグループ企業を見てきた中で、分社型マネジメントの企業には3つの特徴がある。

 

1つ目は、財務部門において日々の取引を記録し、情報を提供するだけの状況が挙げられる。グループ企業の集計業務、状況・実績報告が主業務になっているケースである。特に、システム化が遅れている企業は財務部が集計係になっている場合が多い。

 

2つ目は、部分視点の資源配分である。グループ経営は、一貫したグループ理念のもと、グループ全体で事業ポートフォリオを組みながら企業価値を高めていかなければならない。これは、部分(各社)最適を目的とした資源配分では実現しないことを意味する。しかし、グループ全体でのファイナンス思考が弱い企業は、全体最適より部分最適が優先される。

 

3つ目は、ファイナンス思考を持った人材不足である。各種コーポレート機能に対して、人的資源の配分を補充型で進めてきた企業が多く、いざ、プラットフォームとしてコーポレート機能を強化しようとしても、人材がいないという課題が生じる。特に、事業センスが高い経営者がいる企業の場合、その傾向はより強まる。

 

タナベコンサルティングでは、このような特徴の経営手法を「分社型経営」と呼び、真のグループ経営体制へと移行するために、多くの企業で経営システムの整備を行っている。

 

グループ経営にコーポレートファイナンスの視点を取り入れる上で強化すべき機能は、事業企画やM&A、投資戦略、グループ業績管理を担う「財務企画機能」と、管理会計や業績先行管理、DXを前提とする経理業務の見える化、ビジネスプロセスの効率化、決算の開示、コーポレートガバナンスを担う「財務会計機能」の2つである。

 

グループ全体を統括するコーポレート部門内の財務部門や経営企画部門の業務分掌として【図表】の項目を推進することが、グループ企業としての価値を高めるのだ。

 

【図表】財務企画機能・財務会計機能に求められる機能

【図表】財務企画機能・財務会計機能に求められる機能

出所:タナベコンサルティング作成

 

財務企画・財務会計機能の強化でグループ経営を推進

 

財務企画機能・財務会計機能の強化にはステップがある。

 

まずは、「専任化」である。ここで重要になるのは、人材選定と、その人材と既存業務を切り離すことである。例えば、経理部門を財務部と経理部に分けたり、財務企画部という新しい組織をつくったりするなど、既存業務との住み分けを明確にする。

 

既存組織だけで強化を図ると、既存業務に引っ張られて強化したい機能業務を進めることができない。業務ごとに組織を分けて、機能を設定・強化することが重要である。

 

このステップにおいては、専任化した人材に推進力を依存させてでも、新しい機能の立ち上げを優先する。そのため、リーダーシップを発揮して機能の立ち上げを推進できる専門性を持った人材の見極めが重要である。

 

次に、「属人化した機能の組織展開」である。前述では、人に依存した経営システムの推進を重視したが、いつまでも人に依存する機能は良くない。今いる人材の育成だけではなく、機能推進を担う中途採用人材の採用・育成も進め、併せて、ルール・マニュアル・チェックリスト・スケジュール管理の徹底など、各機能を推進するためのノウハウのアップデートも進めていただきたい。

 

このステップでは、所属メンバーの自立性・主体性が試される。個人が保有するスキル・ノウハウの組織展開も忘れないでいただきたい。

 

最後に、「経営システムのアップデート」である。企業価値を高める活動に終わりはないが、自社だけでの強化には限界がある。これまでのステップでは、「認知している課題に対しての対策」が中心であったが、ここからは、「できていることをさらに高いレベルに進化させる」ことが求められる。

 

そのため、他社事例を研究している外部コンサルタントを活用するなど、自律的に目指す姿と現状との不足点をつくり、経営システムをアップデートする必要がある。

 

「間接部門」という概念をなくす

 

これまで企業の機能は、業績をつくる直接部門と、バックオフィスなどの間接部門に分かれていた。多くの企業は、直接部門の人材採用・育成には注力し、企業の稼ぐ力に資源配分を行ってきたが、間接部門に関しては、必要最低限の人員で効率を重視してきた。そのため、財務機能は戦略性を持たず、今の業務を効率良く処理することにとどまっている。

 

グループ経営にファイナンス思考を取り込むということは、「グループ経営を支えるコーポレート機能に戦略を持たせること」にほかならない。間接部門をグループ企業の成長を支える「経営支援部門」と捉え、機能強化を進めていただきたい。

 

 

ファイナンス思考でグループ経営を推進する:浜岡 裕明

 

Profile
浜岡 裕明Hiroaki Hamaoka
タナベコンサルティング コーポレートファイナンス エグゼクティブパートナー
経営者の志を受け止めるコンサルティングスタイルで、ホールディング設立支援・グループ経営システム構築・事業承継計画策定・企業再生など経営機能別コンサルティングに定評がある。組織経営体制を目指した経営システムの構築、後継者・経営幹部育成を多数経験している。ビジネス・ブレークスルー大学大学院(経営学修士)修了。
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