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【特集】

建設業の「働き方改革」

人材不足の中、 時間外労働の上限規制の適用開始が 2024年4月1日に迫る建設業。 労働環境の改善や生産性の向上など、 抜本的な「働き方改革」が待ったなしの状況だ。 業界全体の喫緊の課題に向き合う 実践経営のヒントを提言する。
2023.12.01

異なる機能の施設を隣接させ働き方を変える町づくり:オガール

次世代にたすきを渡し町づくりは続く

 

オガールプロジェクトによる各施設の建設や誘致には、町民の働き方を大きく変える工夫が施されている。そのうちの1つに、民営保育園と病児保育付き小児科を隣接させるという試みがある。

 

「どこの地方も同じだと思いますが、経済的な理由から子育て世代は夫婦共働きが当たり前です。しかし、小さな子どもが急に発熱したり、インフルエンザなどの病気になったりした時は、会社を早退して保育園に子どもを迎えに行き、病院に連れて行かなければなりません。

 

そんなとき、家族に代わって一時的に子どもを看護・保育してくれる病児保育付き小児科があれば、親は安心して終業時間まで働くことができます」(岡崎氏)

 

現在、オガールプロジェクトで新たに誕生した施設で働く人は約300名に上る。その多くは30~40歳代の働き盛りの世代である。保育園と小児科クリニックの隣接のように、子育て世代の働き方をサポートする工夫により、紫波町の転入者数は、毎年100人ほど増加している。オガールプロジェクトの目標だった「日本一住みたい町にする」に一歩ずつ近付いていると言えよう。

 

また、オガールは従業員のための集合住宅を建設している。断熱効果を高め、夏は涼しく冬は暖かい年間暖房負荷効率を高めた高性能集合住宅だ。従業員はここに住むことで、快適で経済的にも負担が少ない生活を送ることができる。

 

この集合住宅には、もう1つ大きな狙いがある。仕事以外のコミュニケーションの場としての活用である。居住希望者同士が協議し、間取りやデザインを企画・建築して造るコーポラティブハウスなのだ。

 

「人生を豊かにするために重要なのは暮らしです。良い暮らしをするための手段として仕事があるわけですから、まず従業員の暮らしが充実していなければ、良い仕事は望めません。
また、若い人が離職するのは、仕事の不満よりも生活に不安や不満があるケースが多い。特に規模の小さい企業の場合、新卒入社は1名ということも珍しくない。そうすると孤独になって離職するケースが多くなってしまいます。そこで、集合住宅に住むことで、入居者同士のコミュニケーションを促して孤独にならない環境をつくりました。

 

つまり、仕事をつくれば人が来るのではなく、まずは働く人の生活する環境を整える。それが町づくりとともに働く環境を整備する際の重要なポイントです」(岡崎氏)

 

現在はオガールの従業員専用の集合住宅だが、将来的には地域の中小企業の従業員が入居できる集合住宅の建設も視野に入れる。実現すれば、地方の中小企業の採用促進や新卒社員の定着にも大きな効果が見込めそうだ。

 

2009年にスタートしたオガールプロジェクトは、予算も人材も足りないという厳しい状況からの船出で、その後のテナント誘致でも地道な営業活動をしながら歩みを止めなかった。その結果、総務省の「令和元年度ふるさとづくり大賞 個人表彰(総務大臣表彰)」を受賞。オガールプロジェクトによる町づくりの成果を知るために、人口減少や働き手不足という課題を抱える全国の地方自治体などから視察者が絶えない存在になった。

 

しかし、岡崎氏はオガールプロジェクトを地域再生の「成功例」とは捉えていない。

 

「町づくりに成功もゴールもありません。確かに現在、紫波町は子育て世代の方が転入して活気が出ています。しかし、現在30~40歳代の働き盛りの世代も、いずれは年を重ねて高齢者になるわけです。つまり、町を取り巻く環境は常に変化し、課題も変わります。

 

その時に何よりも大切なのは、課題を見つけて解決策を考え、実践できる人材です。そういう問題意識が高く、実行力のある人材を育てていかないと町は廃れていく。ですから次代を担う人材を育て、たすきを渡していくことが私の使命です。そういった意味でも、永遠にゴールがないのが町づくりです」(岡崎氏)

 

コロナ禍によって人々の働き方は大きく変わった。地方へ転居して豊かな自然の中で子育てをしながらテレワークをする、あるいは観光しながら働く「ワーケーション」といった働き方も登場している。まさに暮らしを優先した働き方が定着しつつある今、地域再生をかけた町づくりにも、豊かで生き生きとした「暮らしづくり」と働き方が問われている

 

紫波中央小児科は病児保育室を併設。病気で登園・登校できない子を預かる(上)。日本初のバレーボール専用コートであるオガールアリーナ(中央)。紫波町図書館では企画展や「夜のとしょかん」などオリジナルイベントを開催する(下)

 

PROFILE

  • (株)オガール
  • 所在地 : 岩手県紫波郡紫波町紫波中央駅前2-3-12
  • 創業 : 2013年
  • 代表者 : 代表取締役 岡崎 正信

 

 

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