オガール 代表取締役 岡崎 正信 氏
公民連携事業「オガールプロジェクト」が発足
岩手県盛岡市と花巻市の間に位置する人口約3万3000人の紫波町が全国から注目されている。JR紫波中央駅前には官民複合施設の「オガールプラザ」をはじめ、紫波町役場、民間複合施設、フットボールセンター、バレーボール専用施設、分譲住宅、ホテルなどが隣接。生活に必要な施設が10.7ヘクタールの町有地を中心とした地域に集積し、町民が働き集うエリアとしてにぎわいを見せている。
地方創生の事例として脚光を浴びる紫波町だが、1998年に紫波町が駅前開発事業用地として28億5000万円を投じて購入したものの、町の税収が減って開発計画が頓挫。2000年ごろには降雪時の雪捨て場として使われており、「日本一高いゴミ捨て場」と揶揄されることもあったという。
そんな状況が大きく変わったのが2009年である。地元の建設会社であるオガールが中心となって、公民連携事業の「オガールプロジェクト」をスタートさせたのだ。
「当時、地方の建設業は、自治体などの公共事業を入札で受注することで成り立っていましたが、それでは将来の発展は開けないと考えていました。建設業者も新たに仕事をつくることをしなければ未来はないという思いから、町有地を活用した公民連携のオガールプロジェクトを立ち上げました」
そう振り返るのはオガールの代表取締役の岡崎正信氏だ。大学卒業後、地域振興整備公団(現・UR:都市再生機構)に勤務し、建設省(現・国土交通省)都市局都市政策課に出向するなど、都市開発の専門家として活躍。その後、紫波町の実家が営む建設会社で働き始め、地方の課題を肌身で感じていたという。
産業依存主義と決別し暮らしに重きを置いた町づくり
岡崎氏が「オガールプロジェクト」で参考にしたのは、米国のフロリダで視察したウォルト・ディズニー・カンパニーがつくったセレブレーションという町である。生活に必要な施設・コンテンツが約2万ヘクタールに集約され、住民は豊かな自然に囲まれながら安心して暮らせることで知られ、多くの人々が理想の町として挙げている。また、今でこそミクスドユース(複合利用)という、オフィスや公共施設、商業施設、住宅などの複数の機能が集積した町づくりの考え方が一般的になってきたが、セレブレーションは早くから採用していた。
「オガールプロジェクトを立案するに当たって掲げたのは、セレブレーションのように、紫波町を誰もが住みたいと思う町にすることでした。当時、紫波町は昼夜間人口比率が県内で最も低い町でした。つまり、町内で働く人が少なく、夜間人口に対して昼間人口が少なかった。こうした状況でよく取られる対策は、企業や工場を誘致して雇用を促進して昼夜間人口比率を上げる手法です。
しかし、紫波町の町長と一緒に決めたのは、県内一低い昼夜間人口比率を日本一低くするという真逆の目標でした。つまり、日本一住みやすい町にすることを目標に掲げたわけです」(岡崎氏)
近年、「15-Minute City」(15分の都市)が世界中で注目されている。自宅から徒歩や自転車などの移動で15分圏内に、生活に必要な全ての施設がある町のことだ。オガールは2009年からこの「15-Minute City」を目指したのである。
オガールプロジェクトの町づくりの大きな特徴は、従来の産業依存主義と決別し、機能を補完し合う施設を隣接させることで人が集まり、経済的なメリットが生まれるように工夫を凝らした点にある。
例えば、人が集まるものの維持コストがかかる図書館のような施設と、人が集まることで経済効果が生まれる商業施設を隣接させることで、多くの人が集まるようにして両者とも運営できる仕組みをつくった。
また、どんな地方にも複合体育館はあるが、オガールプロジェクトでは日本初のバレーボール専用体育館を建設。他地域と同じ体育館を建設しても利用頻度が少なく、コストがかさんで運営が難しくなる。そこでバレーボール専用体育館にすることで、地元のバレーボールクラブはもとより、海外のナショナルチームなどにも利用してもらうことで運営コストを捻出している。
「計画ではテナントを誘致しやすいようにさまざまな工夫を施していますが、それだけでは小さな町に企業や団体は来てくれません。計画を実行するため、とにかく頭を下げてお願いをする日々でした。つまり、いかに誘致するかという営業力がないと、実現は不可能です。そういう意味でも官だけでの町づくりを推進するのは難しく、民間の力が必須と言えるでしょう」(岡崎氏)