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【特集】

建設業の「働き方改革」

人材不足の中、 時間外労働の上限規制の適用開始が 2024年4月1日に迫る建設業。 労働環境の改善や生産性の向上など、 抜本的な「働き方改革」が待ったなしの状況だ。 業界全体の喫緊の課題に向き合う 実践経営のヒントを提言する。
メソッド2023.12.01

人材不足を打開する建設業の人材採用:盛田 恵介

建設業を取り巻く採用環境

 

建設業各社は、「働き方改革関連法」の適用に伴う2024年問題を見据え、デジタル化や人材力強化などの取り組みを着々と進めている。しかし、依然として共通する課題は「人材不足」である。この要因は次の4つに集約される。

 

❶ マーケット拡大に反して就業者数が減少
日本建設業連合会「建設業デジタルハンドブック」によると、名目建設投資(民間+政府)は2010年度に41兆9000億円まで縮小したものの、2015年度以降は増加傾向(建築補修投資額を含む)にあり、2022年度は67兆円まで拡大している。

 

だが、それに反して、建設業就業者数は1997年の685万人をピークに減少傾向が続き、2022年は479万人(ピーク時比69.9%)まで減少している。労働集約型のビジネスモデルで、マーケットが成長しているにもかかわらず働き手が減少していることは、現場で大きな痛手である。

 

❷ 建設業就業者の高齢化
同ハンドブックでは、建設業就業者の高齢化について、全産業の55歳以上の比率が約32%であるのに対し、建設業の同比率は約36%としている。また、全産業の29歳以下の比率が約16%であるのに対し、建設業の同比率は約12%である。55歳以上の比率が高まり、29歳以下の比率が横ばい傾向にあることから、年々高齢化が進んでいることが分かる。

 

同時に、ベテラン人材が持つ技能伝承も業界特有の課題である。つまり、若手人材の確保が重要であり、かつ、採用競争激化の要因であると考えられる。

 

❸ 有効求人倍率の高さ
厚生労働省「一般職業紹介状況(令和5年7月分)」の各業界の有効求人倍率を見ると、建設従事者(建設躯体工事従事者を除く)は5.29倍、土木作業従事者は6.94倍である。建設業を一括りにまとめると5.89倍であり、全業種平均の1.29倍と比べると極めて採用が難しい。

 

❹ 学生から見る建設業界のイメージ
依然として建設業のイメージ向上が課題である。野原ホールディングスが全国の大学1年~3年生1000名に実施したインターネット調査「建設業界イメージ調査」(2023年2月)によると、「建設業界のマイナスイメージ」は、1位「残業、休日出勤が多い」、2位「給料が低い」、3位「清潔感がない」、4位「昔ながらの文化や慣習が多い」、5位「安定感がない(先行きが不透明)」となった。

 

待遇面の改善が遅れている、古い慣習に縛られがち、といったイメージを払拭していくことが人材採用の鍵と言える。

 

人材採用の競争優位性を高める3つのポイント

 

前述の建設業を取り巻く環境を踏まえると、いかに建設業における人材採用が難しいか理解いただけると思う。では、このような環境において、どのように人材採用を進め、競争優位性を獲得すべきか。ここでは、人材採用によって持続的な成長を続ける建設業の実例を踏まえつつ、そのポイントを「量」と「質」の切り口で整理する。

 

❶ 採用の「量(母集団形成)」を高める3つのポイント
筆者のコンサルティング現場では、「人材を採用する以前に応募がない」と相談をいただくことが多い。人材採用を進める上で、まずは「なぜ自社に人が集まらないのか」を考えていただきたい。自社を認知させるための活動を行い、「量」を押さえることが重要である。主なポイントは次の3つだ。

 

・ テレビ・新聞・雑誌などのマスメディア活用
メディアを活用する上での留意点は、採用を主眼に置いた露出ではなく、自社の取り組みや事業・商品紹介などを通じて自社を知ってもらうことだ。特に、社会貢献活動はメディアも取り上げやすいテーマであるため、露出のチャンスである。

 

・ 学生が集まる場所での広告出稿

自社の求める人材が集まる場所で露出を高め、認知させるには、広告が効果的である。学生がターゲットであれば学校周辺に看板を出したり、学生がよく通う美容室やショッピングモールに広告を出稿したりする企業も多い。

 

・ SNSの活用

学生がよく使用するSNSは認知拡大において不可欠なツールである。発信内容については、自社のPRや先輩社員の声だけではなく、「見ていて楽しい」コンテンツを制作できるかが重要だ。建設業ではないが、社内ユーチューバーを抜てきするほど力を入れている企業もある。

 

❷ 採用の「質(内諾、入社後のギャップ是正)」を高める3つのポイント
採用の量を追うだけでは、自社が欲しいと思える人材の獲得につながらない。本当に欲しい人材を追い求めるためには、「質」を高めることも重要である。

 

・ 自社が求める人物像の具体化
タナベコンサルティングでは、「経営理念・ビジョン・方針の具体化を図ることができる人材」を求める人材像と定義している。求める人材像に従い、人柄や価値観、経験、行動特性などを掘り下げて明文化することで、より自社に合った人材を獲得できる。

 

・ 事業や実績を伝えるのではなく、魅力や「らしさ」を発信
前述した通り、自社の事業内容や実績を伝えるだけでは求職者の建設業に対するイメージは払拭できない。ポイントは、自社の魅力や「らしさ」を正しく伝えることである。例えば、重機にペイントを施してロボット操作を演出したり、自社で働く人材の密着コンテンツを作成して「カッコよさ」を演出したりするなどの創意工夫が必要だ。

 

・ 求職者に合わせた環境整備
これは建設業のみならず、どの業種・業態においても喫緊の課題である。特にエンゲージメント向上は重点課題であり、各社とも社員の満足度・貢献度を高めるためにさまざまな福利厚生を含めた制度・仕組みの導入を行っている。

 

優秀企業に共通するポイントは、人材育成の徹底である。社員は理想のキャリアステップを示し、企業はそれを実現するための仕組み(主に企業内大学)を導入、運用している。「導入した取り組みをいかに求職者に知ってもらうか」も、今後の採用活動における鍵となる。

 

人材採用成功の原則は「人が集まる会社」を目指すこと

 

前項では“採用優秀企業”に共通するポイントを解説した。

 

忘れてはいけないのは、人材採用の原則は「人を“集める”のではなく、人が“集まる”会社を目指すこと」である。

 

そのためには、経営者の人材採用に対する本気度が起点となる。小手先の採用活動のみならず、入社した人材が成長・活躍・定着するまで、また社員からは制度・仕組みに対しても、共感を得ることが重要である。

 

直近のトレンドでいうと、退職後も継続して関係を持ち続け、組織を形成し、そこから再雇用する「アルムナイ」という考え方がある。

 

退職後の企業姿勢も社員には見られている。つまり、採用・育成・活躍・定着に加え、退職というキーワードも入れつつ、社員から「この会社にいたい」と思わせるような良い会社を目指し、人が集まる会社づくりを目指していただきたい。

 

※2019年4月に施行された「改正労働基準法」において、建設業や運送業を対象に猶予がとられていた時間外労働の上限規制が、2024年4月1日より適用される

 

Profile
盛田 恵介Keisuke Morita
タナベコンサルティング HR エグゼクティブパートナー。人づくりをデザインする総合プロデューサーとして、企業の人事・教育制度構築から運用に至るまでトータルでサポート。特に、さまざまな業種・業態の企業内大学(社内アカデミー)設立に多くの実績を有し、社員の成長を促すプログラム開発にクライアントから高い評価を受けている。
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