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【特集】

組織構造変革

ビジネスモデル転換のために事業戦略を再構築したにもかかわらず、収益・生産性を上げられない企業は少なくない。共通点は、既存の組織に事業戦略推進の責任を課すだけであることだ。戦略に応じて組織と機能を見直し、生産性向上につなげる「組織構造の変革メソッド」を提言する。
2023.09.01

ホールディングス化でコアビジネスを創出:サノヤスホールディングス

ホールディングス化により事業会社は顧客創造に集中

 

2023年、ホールディングス化して12年が過ぎた。この間もM&Aや統合などの組織再編を続け、現在は10の事業会社とサノヤスホールディングス、さらにグループ全体の技術支援を行うサノヤステクノサポートの全12社という体制になっている。(【図表】)

 

 

【図表】グループ企業一覧


出所 : サノヤスホールディングス提供資料よりタナベコンサルティング作成

 

 


みづほ工業が化粧品・食品・医薬品・化学品などのメーカーに提供している乳化・撹拌装置(上)
サノヤス・ライドが製造および修理・メンテナンスを行う埼玉県・東武動物公園の「エマさんのチーズ風車」(下)

 

 

「あくまで当社の話ですが、経営効率は間違いなく上がりました。サノヤスホールディングスに管理と企画の両部門を置くことで、事業会社は事業運営に集中できます。これまでは各事業会社が採用や資金調達などの管理業務を行っていましたが、それを本社が担うことで顧客創造や技術開発に集中できる。役割分担することで効率は格段に上がりますし、M&Aを含めてグループの戦略的意思決定を迅速化できます」(上田氏)

 

その例が、化粧品向けの乳化・攪拌装置を製造するみづほ工業だ。同社がサノヤスグループに入ったのは1999年。2011年からの10年間で20数億円の設備投資を実施し、暗くて古い工場が明るくきれいな工場に様変わりしたほか、最新設備をそろえた第2工場も新設している。売上高約30億~40億円の会社が自力で資金調達するには難しいが、上場するホールディング会社だからこそ可能だった投資である。

 

「私が社長に就任してすぐ、ある大企業の方が工場視察にいらっしゃいましたが、契約には至りませんでした。大企業は製造環境を重視します。もちろんISO9001も大事ですが、工場の建物や設備は心証を大きく左右します」(上田氏)

 

M&Aに関していえば、ホールディングス化していると相手企業をスムーズにグループインできる。事業会社の事業部として迎える場合、最初に制度や給与などの処遇を変更しなければならないが、持ち株会社の下に置く形なら、給与などを変えずに迎え入れた後、時間を掛けて上場企業に見合った管理や企業文化を浸透させていけば良い。

 

さらに、上場会社であるホールディング会社が採用を行うことで、事業会社にも優秀な人材が集まりやすくなることや、ポートフォリオ経営によるリスク分散、事業会社の事業・個性が社内外に伝わりやすくなるなどのメリットもある。

 

ホールディング化を推進した2つのカエル

 

組織は変えて良い。これが上田氏の考え方だ。「変化が常態化している時代に生き続けるためのキーワードが、『還る』と『変える』。この2つのカエルを追い続けることが企業経営だ」と上田氏は言う。同社にとって還るべきものとは、基本と原点。安全第一や技術・現場重視、“人財”重視など普段は忘れがちだが、事業の土台となる部分だ。

 

「入社してすぐ、社員に『サノヤスの原点とは何か?』『基本は何か?』を問い掛けたところ、社員からさまざまな声が上がりました。安全や現場が大事だと思っていながら、事業環境や業務に忙殺されてないがしろになっていたもの。それらを立ち還るべき基本・原点とし、皆で再確認しました」(上田氏)

 

その上で、「基本・原点以外は変えるべき対象になる」と上田氏は発信。人の考え方や動き方、事業構造など変えるべきものは無限にあるが、組織もその例外ではない、とした。2011年に19社体制でホールディングス化してからも、M&Aや事業会社の統廃合を繰り返しながら組織の形を変え続けている。

 

「変える」ことを恐れない。この姿勢が明確に示されたのは、100年以上の歴史を持つ造船事業の売却だろう。2021年2月、サノヤスグループは祖業である造船事業を、同業の新来島どっくに100万円で譲渡した。しかし、祖業に流れていた理念(原点)は同社の中に今も生き続けている。

 

「100周年のタイミングで、グループの企業理念を『確かな技術にまごころこめて』に変えましたが、『まごころこめて』という言葉は創業者が掲げた『まごころこめて生きた船を造る』という社是の文言を残したものです。

 

お客さまを思う気持ちや仕事に対する情熱は、変えてはいけないサノヤスらしさ。造船事業はなくなりましたが、創業の精神は忘れてはいけない基本であり、原点だと考えています」(上田氏)

 

上田氏が目指しているのはお客さま、取引先、社会(未来)、従業員にとって良い『四方よし』の経営だ。真心を込めて四方に向き合った先に成長がある。次の100年に向け、サノヤスグループの進化は止まらない。


サノヤスホールディングス 代表取締役会長 上田 孝氏。「2つのカエル経営」を表すオリジナルのれんを掲げた会長室前にて

 

 

 

PROFILE

  • サノヤスホールディングス(株)
  • 所在地 : 大阪府大阪市北区中之島3-3-23 中之島ダイビル9F
  • 創業 : 1911年
  • 代表者 : 代表取締役社長 北逵(きたつじ) 伊佐雄
  • 売上高 : 201億4500万円(連結、2023年3月期)
  • 従業員数 : 1276名 (連結、パート・アルバイト含む、2023年3月現在)

 

 

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