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【特集】

組織構造変革

ビジネスモデル転換のために事業戦略を再構築したにもかかわらず、収益・生産性を上げられない企業は少なくない。共通点は、既存の組織に事業戦略推進の責任を課すだけであることだ。戦略に応じて組織と機能を見直し、生産性向上につなげる「組織構造の変革メソッド」を提言する。
2023.09.01

ホールディングス化でコアビジネスを創出:サノヤスホールディングス

ホールディングス化でコアビジネスを創出するサノヤスホールディングス
サノヤス・エンジニアリングが製造する、高層ビル建設に欠かせない工事用エレベーター。大型の工事用エレベーターでは業界トップシェアを誇る。高い安全性で多くの顧客の信頼を獲得し、建設現場の効率化に貢献している

 

2011年にホールディングス化したサノヤスグループは、M&Aで事業多角化を進める一方、2021年には100年以上続いた祖業の造船事業の売却に踏み切った。大胆な組織再編の裏側には「変化常態化」の時代を生き抜く戦略がある。

 

創業100年目にホールディングス化

 

大阪に本社を置くサノヤスグループは、産業機械設備や金属部品などの製造・販売を行う「製造業向け事業」、建設機械の製造・販売・レンタルなどを行う「建設業向け事業」、遊園地の乗り物などの製造・販売・メンテナンスを行う「レジャー事業」の3事業を手掛ける。売上高は201億4500万円、経常利益は3億9500万円(連結、2023年3月期)に上る、東証スタンダード上場のグループ企業である。

 

創業は1911年。創業者・佐野川谷安太郎氏が立ち上げた造船事業は国内経済とともに拡大し、1974年には大阪証券所(現・大阪取引所)第1部に上場を果たした。しかし、オイルショックによる景気後退や円高進行によって債務超過に陥ると、1980年以降はM&Aによって非造船分野の事業へも積極的に参入。多角化経営へと大きくかじを切っていった。

 

1991年には、工事用エレベーターを主力とする菱野金属工業(1990年にグループイン)と、遊戯器械を手掛ける明昌特殊産業(1991年にグループイン)を祖業の造船事業に統合し、サノヤス・ヒシノ明昌(以降、SHM)を設立。さらに、創業100周年を迎えた2011年10月にサノヤスホールディングスを立ち上げた同社は、持ち株会社と18の事業会社からなる「ホールディングス経営」への移行に踏み切った。陣頭指揮を執ったサノヤスホールディングス代表取締役会長の上田孝氏は、そこに至った経緯を次のように説明する。

 

「当時は、SHMを中心に連結子会社8社と非連結関連会社6社で構成される15社体制のグループ経営を行っていましたが、組織的な課題を抱えていました。2009年に代表取締役社長に就任した私は、経営環境の変化や組織の課題、さらに将来の在り方を熟考する中、純粋持ち株会社の下に事業会社を並べる『ホールディングス経営』が最善だと判断しました」

 

組織は戦略に従う
未来を見据えて組織をつくる

 

三井住友銀行出身の上田氏が、SHMに副社長として招かれたのは2008年のこと。2009年からは代表取締役社長として経営に当たってきたが、事業会社を回る中で会社間の格差や課題を痛感していた。

 

「ホールディングス化した最大の理由は、組織内のゆがみの解消です。当時、リーマン・ショックの影響で非造船事業の業績が低迷し、ある子会社は給与カットやリストラを行わざるを得ない状況に陥っていました。

 

その一方で、SHMのレジャー部門は赤字になっていましたが、好調の造船部門に支えられてSHM全体は高収益を計上し、相応の賞与が出たわけです。(赤字でも)多額の賞与をもらう人とリストラされる人が同じサノヤスグループ内にいる状況は不平等だと感じました」(上田氏)

 

加えて、上田氏が気に掛けていたのは造船事業の行く末だった。

 

「2000年ごろから中国経済の拡大によって世界的な造船バブルが起こりました。当時に受注した船の完成が2010年代前半に集中したため、私が社長に就任した時期は造船事業が非常に好調でしたが、長く続かないことは簡単に予想できました」(上田氏)

 

国土交通省「世界の新造船建造量の推移」によると、2000年ごろの新造船建造量は、日本と韓国がそれぞれシェア約40%を占める二大巨頭だったが、同じ時期に中国国内に造船所が次々と立ち上がっていった。その結果、2010年には中国がトップ(38%)になり、僅差で韓国が2位(33%)、そこから大きく水を空けられて日本が3位(21%)と、勢力図は大きく変わった。中国の台頭によって船舶の供給量が飛躍的に増える中、将来の競争激化や価格競争は避けられない状況にあった。

 

さらに、燃料についても、環境負荷の高いC重油から液化天然ガス(LNG)へ、さらに脱炭素へと、環境負荷の少ないエネルギーへの転換を迫られる中、最先端技術の開発競争が激化することは明らか。自社の将来を見据えたとき、造船事業以外の第2の柱となるビジネスの確立が急務だった。

 

こうした課題に向き合える組織はどのような形か。導き出されたのが各事業の自立を目指す『ホールディングス経営』だった。

 

「造船事業と非造船事業の両方をコアビジネスと位置付けましたが、それを実現するには各社が事業に集中できる環境が必要です。組織を考える際、『組織は戦略に従う』(アルフレッド・D・チャンドラー Jr.)のか、『戦略は組織に従う』(イゴール・アンゾフ)のかという問題がありますが、当社の場合は前者に近い。組織にある不平等や経営環境の変化にいかに対応していくかが先にあり、それを実行できる組織をつくるというのが私の考え方です」(上田氏)

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