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【特集】

組織構造変革

ビジネスモデル転換のために事業戦略を再構築したにもかかわらず、収益・生産性を上げられない企業は少なくない。共通点は、既存の組織に事業戦略推進の責任を課すだけであることだ。戦略に応じて組織と機能を見直し、生産性向上につなげる「組織構造の変革メソッド」を提言する。
2023.09.01

組織変革の課題に対する3つのソリューション

 

経営のバックボーンシステム

 

ビジョン推進マネジメントを前提にした、いわゆる「組織経営」の推進は、中長期計画を成功させるマネジメント手法の1つである。しかしながら、経営戦略や事業戦略の推進・方針徹底について課題を抱える企業が多いのが現実だ。この場合、タナベコンサルティングでは「経営のバックボーンシステム」について見直すことをアドバイスしている。

 

経営のバックボーンシステムとは、「経営理念、パーパス、ミッション・ビジョン→経営目標→経営方針→組織体制→年度計画→アクションプラン→PDCA→成果→評価・分配」といった項目に軸が通っている状態をいう。これを縦に並べると背骨(バックボーン)にように見えるため、経営のバックボーンシステムと呼んでいる。

 

企業は、考え方や育った環境、年齢、性別の異なる他人が集まり構成されている。その企業が全体で1つの方向に向かって成果を上げていくには、企業が何を目指すかという目的や目標、そのためにどういう路線を進むかという方針の明示と浸透、それを達成するための役割分担(組織)、一般社員の日常業務レベルまでの方針の落とし込み(計画化)が重要となる。さらに、実行状況の管理と、その結果を人事処遇制度にリンクさせて「やった者に報いる」ことも不可欠である。

 

また、タナベコンサルティングが2022年12月に実施した企業アンケート調査によると、37.2%の企業が「計画・ビジョンを策定しているものの推進できていない」と回答している。「とりあえず中計を策定した」「策定後は現場任せ」「人材不足だからとりあえず兼務」「専門スキル・ノウハウの不足」などさまざまな事情・要因はあるだろうが、限られた条件の中で推進する必要があり、実行・推進するための仕組みを再構築する必要がある。本稿では、戦略実行のための組織戦略の考え方を解説する。

 

組織戦略構築のための4つのポイント

 

事業戦略を推進するためには、次の4点を意識して組織戦略を構築することが必須である。

 

❶ 戦略を実行するための組織をどのように組み立てるのか
❷ 組織を推進するための業務をどのように分担すれば省力化でき、生産性が高まるか
❸ 組織のマネジメントをどのように行っていくのか
❹ 組織に所属する人や他部門の待遇・評価をどうするのか

 

この4点を構築することで初めて戦略は意思を持って動き出す。戦略を推進するためのキーワードは「組織変革」。「組織は戦略に従う」(米国の経営学者、アルフレッド・D・チャンドラー)という言葉の通り、戦略に従う強い組織を構築しなければならない。

 

組織変革のソリューション

 

組織戦略を検討していくに当たって、大きく3つのポイントがある。

 

ポイント1 : 事業セグメントの再定義「多様なニーズに向き合う」

 

組織デザインのセグメントは、「機能」「事業」に大別される。一方、昨今の各企業のビジョンや事業戦略を踏まえると、クライアントが抱える多様な「課題」で組織をつくることが事業戦略に適合していると考えられる。

 

SDGsやESGなどの言葉が表す通り、企業は昨今、社会課題も含めて事業として解決していくことが求められており、マーケティングにおける「プロダクトアウト」から「マーケットイン」の考え方へ移行が進んでいる。そのため、自社の「事業」や「機能」ではなく、顧客や社会の「課題」に対する組織をつくるアプローチが重要である。

 

この場合、マトリクス型の組織体系をつくっていくことが最適解である(【図表】)。マネジメント方法は複雑化するが、事業と組織の適合性を考えていく上では現在、最適な考え方だ。他にはエリア制の企業の場合はエリアに課題解決の軸(事業)を置くなど、複数の形が考えられる。いずれにしても多様なニーズに応えるには必要な形態である。

 

【図表】エリア別×事業戦略 マトリクス型組織

エリア別×事業戦略 マトリクス型組織
出所 : タナベコンサルティング作成

 

ポイント2 : 「オールラウンダー」から「スペシャリスト」への移行

 

「全てを覚え、一連の流れが自分で全部できるようになることが一人前」という考え方から、「それぞれの持ち場でプロとして活躍する」という考え方に移行する。近年はジョブ型の人事制度の導入が進んでいるが、これはまさにスペシャリストを採用・評価・育成する仕組みそのものである。

 

移行に当たっては、業務フローの見直しや業務分担などの再考が必要となるが、結果として深く・狭く業務に関わっていくため、業務の習熟度は高まり、より強く戦略を推進することが可能である。

 

ポイント3:「直接と間接」から「フロント・ミドル・バックオフィス」への移行

 

ミドルオフィスとは、経営企画、広報、マーケティングといった、直接部門がより高い成果を生むためのサポートをする部署を指す。主な業務内容としては、営業施策の立案・実行、コールセンター業務、営業書類の作成やそれに関するデータ入力など、クライアントに関連した業務のことを言う。

 

この際の業務分掌や直接部門との連携の仕方、評価方法などを定義することが必要となる。間接部門の一部をミドルオフィスに転換し、クライアントに近い業務を行うことで、売り上げ・利益への意識が高まることも副次的な効果として生じる。

 

タナベコンサルティングでは組織戦略を構築する際には組織分析、組織風土分析、マネジメント分析、キーオペレーション分析、社会貢献分析の現状分析を実施し、組織の状態の把握をした上で、戦略との適合性を判定する。

 

その上で、現状を踏まえた改善の方向を打ち出し、組織デザイン、機能強化、生産性向上策をつくっていく。自社で戦略の推進がイマイチ進まない企業は、改善の切り口として参考にしてもらいたい。

 

また、組織戦略はあくまで目的(理念・ビジョン・戦略)を達成するための手段であり、そこがゴールではないことも併せて伝えておきたい。

 

※ タナベコンサルティング「長期ビジョン・中期経営計画に関する企業アンケート調査レポート 2022年」(2022年12月実施)

 

石丸 隆太

 

 

Profile
石丸 隆太Ryuta Ishimaru
タナベコンサルティング ストラテジー&ドメイン 執行役員。金融機関にて10年超の営業経験を経てタナベコンサルティングへ入社。クライアントの成長に向け、将来のマーケットシナリオ変化を踏まえたビジョン・中期経営計画・事業戦略の構築で、「今後の成長の道筋をつくる」ことを得意とする。また現場においては、決めたことをやり切る自立・自律した強い企業づくり、社員づくりを推進し、クライアントの成長を数多く支援している。
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