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【特集】

組織構造変革

ビジネスモデル転換のために事業戦略を再構築したにもかかわらず、収益・生産性を上げられない企業は少なくない。共通点は、既存の組織に事業戦略推進の責任を課すだけであることだ。戦略に応じて組織と機能を見直し、生産性向上につなげる「組織構造の変革メソッド」を提言する。
2023.09.01

競争優位性を高めるカルチャーを醸成し、共創と変革の歩みを止めず、人生を前に:マネーフォワード

カルチャー浸透と人事を融合

 

経営陣が自分の言葉でMVVCを語り続け、カルチャー浸透に時間をかけて取り組んだ結果、社員一人一人が発信するメッセージや行動に一貫性が出るようになった。金井氏は確かな手応えを得ながらも、急速に社員が増え続ける中、自分一人がプロジェクトベースで推進していくことに限界を感じていたという。

 

2020年、新型コロナウイルスの感染拡大により外出自粛を余儀なくされたのは、その矢先だった。

 

「カルチャーの浸透は、何気ないオフラインでの活動に支えられてきたことを実感しました。このまま放置したら、せっかく浸透してきたカルチャーが薄れてしまうのではないか。そのような危機感から、組織体制の見直しが必要だと考えました」(金井氏)

 

国内外の先進事例を幅広くリサーチする中、金井氏は、カルチャー浸透と人事に一体的に取り組むことで確固たる企業文化を築いている海外のベンチャー企業の取り組みにヒントを得て、当時の人事本部長や辻氏に相談をした。そして、猛烈な勢いで社員が増え、目まぐるしく変化していく組織にも柔軟に対応しながらエンゲージメントを高めていけるような体制を、共に整えていきたいという思いで一致した。

 

コロナ禍収束の見通しが立っていなかった2020年夏、金井氏が辻氏に組織体制の見直しを提案し、同年冬に人事本部を「People Forward本部」へとアップデート。金井氏は同本部に属するVPoC(Vice President of Culture)、つまり「企業文化の浸透推進部長」として、カルチャー浸透のためのインナーブランディングに注力することになった。

 

People Forward本部の目的は、「カルチャーこそがマネーフォワードの競争優位性である」という信念を持ち、従業員数がどれだけ増えても絶対にカルチャーを希薄化させないことや、社員が働きがいを感じながら自立駆動できる組織をつくること。まずは入社から退社までの従業員体験がマネーフォワードらしいものになっているかどうかを再点検した。

 

「入社後の研修プログラムをはじめ、1つずつの人事施策に『みんなでつくり上げていく』『前提を問い直してアップデートする』意識付けをしてもらいました。半期ごとに開催している全社総会も、公募メンバーによるボトムアップの企画運営に切り替えています。

 

3カ月間かけて準備をするのですが、そのプロセスを通して全社視点を獲得し、カルチャーを積極的に体現していこうとする意識が養われています。中には半期MVPを受賞するメンバーもいて、それ自体がカルチャー浸透を担う人材の発掘・育成の場になりつつあります」(金井氏)

 

新しい支社や開発拠点ができる際は、文化浸透に関わるメンバーがそこで働く社員の思いを引き出しながら、オフィスのコンセプトを明文化する。会社は自分たち一人一人がつくっているのだという当事者意識を醸成することで愛着が深まり、結果的にプロダクトのクオリティー向上にもつながっているという。

 

 

社員が体現するカルチャーに顧客が共感

 

2016年にMVVCを策定してから約7年が経過した2023年7月、メンバーが当時の10倍以上に増え、世界情勢や経済状況も大きく変化していることを踏まえて、同社はカルチャーに対するメンバーの思いや解釈を掲載したウェブサイト「Culture Deck」を公開。同時にバリューとカルチャーのアップデートも行い、Valuesに「Tech&Design」、Cultureには「Professional」と「Evolution」を追加した。

 

アップデートに当たっては、グループ会社を含めた経営陣が何時間もかけてディスカッションしたという。アップデートの背景や経緯は全社員に向けて事前にライブ配信で共有。このプロセスも、やはり「Teamwork」というカルチャーに支えられている。

 

カルチャーの醸成は一朝一夕には成し得ない。熾烈なグローバル競争の中で、目には見えず定量化もできないカルチャーに、全社を挙げてこれほどの時間を割けるのはなぜなのか。金井氏は「大前提として、自社が好きだという思いがあっての話ですが」と断った上で、次のように語った。

 

「競争優位性とは、『ユーザーに選ばれ続ける』ということなのだと思います。私たちはValuesの1つとして『User Focus』、つまり、常にユーザーを見つめ続け、本質的な課題を理解し、ユーザーの期待や想像を超えた価値を提供するという行動指針を掲げています。『User Focus』が全社員に浸透していれば、ユーザーを大切にする人がマネーフォワードに定着していくでしょう。サービスをつくるのも売るのも『人』に他なりません。ユーザーは私たちが体現している企業文化に共感し、ファンになってくださるのだと思います」(金井氏)

 

組織が大きくなっても、こまめにアップデートし続けることで社員の主体性やエンゲージメントを高めていけることを、同社は証明している。


働く環境は社員一人一人がつくり上げていくものという「当事者意識」を醸成する取り組みの一環として、オフィスの増床時に行った、社員がオフィスの壁をペイントするイベントの様子(上)
マネーフォワード People Forward本部 VPoC(Vice President of Culture) 金井 恵子氏(下)

 

 

PROFILE

  • (株)マネーフォワード
  • 所在地 : 東京都港区芝浦3-1-21 msb Tamachi 田町ステーションタワーS 21F
  • 設立 : 2012年
  • 代表者 : 代表取締役社長CEO 辻 庸介
  • 売上高 : 214億7700万円(連結、2022年11月期)
  • 従業員数 : 1909名(連結、2022年11月現在)

 

 

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