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【特集】

パーパスから描く未来戦略

企業活動の持続可能性が重視され、企業に「パーパス」を求める機運が高まる中、自社の存在意義やMVV(ミッション・ビジョン・バリュー)を再定義する企業が増えている。パーパスの実現に向けた中長期ビジョンを構築し、事業計画に落とし込んで、自社の成長を加速させるメソッドを提言する。
2023.08.08

パーパスを起点に収益力向上を実現:ソニーグループ

 

パーパスを起点に収益力向上を実現

 

ソニーグループの2023年3月期連結決算は、売上高11兆5398億3700万円(前年度比16.3%増)と、初めて10兆円を超えた。本業の利益を示す営業利益は1兆2082億600万円(同0.5%増)と、いずれも過去最高を更新している。

 

好調の要因は、エンタメ・コンテンツ系事業の「ゲーム&ネットワークサービス(G&NS)分野」および「音楽分野」「映画分野」だ。セグメント別に売上高を見ると、供給不足だった「PlayStaiton 5」の生産が安定したG&NS分野は同33%増の3兆6446億円、配信サービスが好調な音楽事業は同23.6%増の1兆3806億円、映画事業は同10.5%増の1兆3694億円と大きく伸びた。

 

この起点となったのが、同社が2019年1 月に発表した「Sony’s Purpose & Values」(存在意義と価値観)である。同社は「クリエイティビティとテクノロジーの力で、世界を感動で満たす」というパーパス(存在意義)を定義した。

 

自社を「テクノロジーに裏打ちされたクリエイティブエンタテインメントカンパニー」と位置付け、祖業であるエレクトロニクス事業の枠を超え、エンタメ・コンテンツ系事業を主力分野とするグループ経営にシフトしたのである。パーパス制定後の初年度(2019年度)業績は新型コロナウイルス感染拡大の影響もあり減収減益となったが、翌期以降は増収増益に転じた。以降3年間の好決算はパーパスが起点となっていることは疑いない。

 

同社をけん引するのは、G&NSや音楽、映画などエンタメ・コンテンツ系事業だ。これら事業の全売上高に占める構成比は2021年度に51.4%と半数を超え、22年度は55.4%に達した。

 

同社のテクノロジーは、これまではエレクトロニクス事業の製品開発のためだけに活用されたが、現在は同社が展開する6つの多様な事業を結び付け、シナジーを発揮させる役割を果たしている。例えば、アニメ制作において人間がボディースーツを着て動き、モーションキャプチャー技術によって3 次元で測定してアニメ化するといったことだ。この半導体技術の「イメージセンシング」は同社の得意分野である。つまり、技術部門とコンテンツ部門が連携し、人や社会に新しい感動を生み出していくことが、同社の目指す「テクノロジーに裏打ちされたクリエイティブエンタテインメントカンパニー」である。

 

同社は2021年4 月、現社名への商号変更とともに大幅な経営機構改革を実施した。改革の目的は、パーパスの実現に適した経営体制の構築である。

 

具体的には、本社が有していたエレクトロニクス事業の間接機能を子会社(ソニーエレクトロニクス)に移管し、祖業を本社から完全に分離した。グループ本社は全社統括機能に特化し、グループ内の連携強化に向けて全ての事業と等距離で関わる役割を果たしていくことになる。

 

また、従来からの「ソニー」の名は、ソニーエレクトロニクスに引き継がれた(【図表】)。つまり、電機メーカーから、ゲーム・アニメ・音楽などクリエイティブなエンターテインメントを中心とした事業ポートフォリオへ、再編を図ったことが分かる。

 

出所:ソニーグループ「統合報告書」よりタナベコンサルティング作成

 

同社共同創業者の井深大氏は、東京通信工業(ソニーグループの前身)の設立趣意書で、「会社創立の目的」の一つとして「自由闊達にして愉快なる理想工場の建設」を掲げている。同社が策定したパーパスは、その延長にあるといえよう。

 

 

 

 

PROFILE

  • ソニーグループ (株)
  • 所在地 : 東京都港区港南1-7-1
  • 設立 : 1946年
  • 代表者 : 代表執行役 会長CEO 吉田 憲一郎
  • 代表執行役 : 社長COO兼CFO 十時 裕樹
  • 売上高 : 11兆5398億3700万円(連結、2023年3月期)
  • 従業員数 : 11万3000名(連結、2023年3月現在)

 

 

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