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【特集】

組織構造変革

ビジネスモデル転換のために事業戦略を再構築したにもかかわらず、収益・生産性を上げられない企業は少なくない。共通点は、既存の組織に事業戦略推進の責任を課すだけであることだ。戦略に応じて組織と機能を見直し、生産性向上につなげる「組織構造の変革メソッド」を提言する。
2023.08.28

自律分散型組織で飛躍。高いエンゲージメントが生産性を上げる:アトラエ

創業以来、一人一人が意欲的に、熱量をもって取り組める組織で生産性を高め、成長を続けている

 

アトラエは、2003年の創業から「全ての社員が誇りを持てる組織と事業の創造」を掲げ、急成長を遂げてきた。躍進の要となっているのは自律分散型組織だ。エンゲージメントを高めて生産性を上げる組織の在り方を探る。

 

上下関係のないフラットな自律分散型組織

 

あらゆる産業が構造転換を求められる昨今、ティール組織やホラクラシー組織など、社員が自律的に動く組織への関心が高まっている。そうした中、独自の組織づくりで注目を集めているのが“People Tech Company”を標榜するアトラエだ。

 

People Techとは、テクノロジーを用いて人の可能性を拡げるような事業のこと。似た言葉にHR Techがあるが、HR Techが人事分野における人の管理やマネジメントをサポートする視点が強いのに対し、アトラエの掲げるPeople Techは人を起点に事業を考える。

 

「創業当初から、『活き活きとした人を増やしたい』『格好良い大人を増やしたい』という思いを起点に、テクノロジーを使って人が元気になる仕組みをつくってきました。今のところHR領域の事業が多いですが、仕事だけでなく、家族や友人、恋愛、お金、スポーツなど、人が元気になるものは全てPeople Techの対象になると考えています」

 

こう語るのはアトラエ取締役CTOの岡利幸氏だ。新卒1期生として入社後、IT人材に強みを持つ成功報酬型求人メディア「Green(グリーン)」や、ビジネスパーソン同士をつなぐビジネス版マッチングアプリ「Yenta(イェンタ)」に携わってきた。

 

GreenやYentaのほかにも、同社はエンゲージメントを可視化する組織力向上プラットフォーム「Wevox(ウィボックス)」や、25年以上のキャリアを重ねた専門性の高い人材と企業をつなぐシニア向けジョブ型マッチングアプリ「Inow(イノウ)」を展開。さらに、2021年からは完全子会社として創設したプロバスケットボールクラブ「アルティーリ千葉」の運営も手掛けるなど活躍の場を広げている。

 

同社は、2016年に東証マザーズ上場、2018年には東証1部に上場し(2022年よりプライム上場)、社員数約100名ながら売上高65億8800万円、経常利益10億5900万円(2022年9月期)と急成長を遂げている。

 

強さの秘密として語られるのが同社独自の自律分散型組織だ。コーポレートサイトには、ワークスタイルについて「意欲あるメンバーが無駄なストレスなく活き活きと働ける組織」とある。

 

特徴を挙げると、上司・部下といった階層がなく、全社員が事業に関わる数字を全て共有。また、性善説を前提に必要最小限のルールだけで運営されており、例えば、出社するかしないか、何時に出勤するかも社員に委ねられるなど自由度の高い組織だ。

 

「当社はCEOの新居佳英が、『理想の会社を自ら創ろう』と立ち上げた会社です。例えば、サッカーチームは強くないとつまらない。ただ勝つだけではなく、その勝ち方にまでこだわるのが当社のやり方です。

 

創業当時からフィロソフィーとして『大切な人に誇れる会社であり続ける』を掲げており、利益を出すだけでなく、プロセスにおいてもメンバーが誇りを持って働ける組織であることを大事にしています。大切な人に誇れる世界的な会社を創りたいという思いが先にあり、それを実現する組織や事業をつくってきたのです」(岡氏)

 

例えば、勝ちにこだわるプロのサッカーチームでは、実力や経験などの差はあれど無駄な上下関係はない。常に変化する状況に対応しながら一人一人が勝利に向かって最善を尽くすスポーツチームの在り方をビジネスの世界に取り入れた。

 

実際に、同社は上場に必要な取締役3名以外の役職は置いていない。事業であるGreenやWevox、Yenta、Inowはプロジェクトとして運営され、最もチームをリードできるメンバーがプロジェクトリーダーを務める。「サッカーのフォーメーションに近いと思いますが、そのときチームが最も強くなる布陣を考えて有機的に動いています」(岡氏)

 

プロジェクトリーダーだけでなくメンバーの異動も流動的だ。本人が希望し、互いのプロジェクトのためになると判断すれば数カ月間、別のプロジェクトに加わるといったことも日常的に行われている。

 

「異動した方が強いチームになることが分かっていて、本人やプロジェクトリーダーが同意しているのであれば、動いてはいけない理由はありません」(岡氏)

 

シンプルに最善手を打つことで、成長を続けているのだ。さらに、強さの秘訣として挙げられるのが、一人一人が経営者の視点を持っていること。最高の環境は与えられるのではなく、自ら創る。これがアトラエのカルチャーであり、実際、制度や仕組みのほとんどは有志が集まるワーキンググループがつくり、運営しているという。

 

「例えば、出産や育児と仕事の両立に必要な制度や仕組みをワーキンググループでつくることもありますし、評価制度や採用、オンボーディングの仕組みづくりも各ワーキンググループが動かしています。自然と問題意識や興味のあるテーマについて考えるグループができて、そこで議論が重ねられる。その中から全社的に取り組むべき段階になったものがワーキンググループとして本格的に動き出す形です。特に採用や育成、評価は、みんなでつくる方が納得感は高まります」(岡氏)

 

例えば、360度評価もワーキンググループが運営している。同社の360度評価は、簡単に言えば一緒に仕事をするメンバー5名が貢献度を相対的に評価する仕組み。その結果を基に、社員の貢献度をスコア化して報酬を配分していく。ポイントは、プロジェクトリーダー以外の4名を自分で選ぶことができる点である。

 

「評価で大事なのは納得感だと思います。規模が小さいときは社長やプロジェクトリーダーの評価に納得感がありましたが、この先もっと規模が大きくなるとそれが難しくなる。そこで2020年から360度評価を実験的に導入し、改良を加えてきました。半年に1回のペースで実施していますが、『信頼できる』と思って自分で選んだ人に評価されるわけですから、事実として受け入れて自身の成長につなげていけるようになっています」(岡氏)

 


家族や親友など大切にしている人に対し、いかなる時も胸を張って誇りを持てる会社であることを大切にしている同社。全てのメンバーが誇りを持てる組織と事業の創造にこだわり、テクノロジーを用いて人の可能性を拡げる 「People Tech」を展開している

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