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【特集】

組織構造変革

ビジネスモデル転換のために事業戦略を再構築したにもかかわらず、収益・生産性を上げられない企業は少なくない。共通点は、既存の組織に事業戦略推進の責任を課すだけであることだ。戦略に応じて組織と機能を見直し、生産性向上につなげる「組織構造の変革メソッド」を提言する。
2023.09.01

競争優位性を高めるカルチャーを醸成し、共創と変革の歩みを止めず、人生を前に:マネーフォワード

マネーフォワード本社オフィス。急拡大する同社において、カルチャーの浸透をかなえる一端を担う

会社を構成する全ての人が日々醸成し、互いの内面や行動に確かな影響をもたらしている企業カルチャー。その重要性を認識し、経営の土壌として大切に耕し続けているマネーフォワードは、2020年12月にカルチャー醸成と人事担当を融合した組織「People Forward本部」を立ち上げた。

 

会社をデザインする経営人材の重要性

 

「お金を前へ。人生をもっと前へ。」というミッションを掲げ、「すべての人の、『お金のプラットフォーム』になる」というビジョンに向かって、法人や個人、金融機関が抱くさまざまなお金の課題を解決するサービスを提供しているマネーフォワード。2012年の創業から10年間で従業員数を約1900名にまで増やしてきた成長企業だ。

 

2017年11月期から2022年11月期の売上高のCAGR(年平均成長率)は49%。ミッション・ビジョンの実現に向けて、これまでに6社をM&Aでグループ会社に迎えたほか、エンジニアの約4割はNon-Japaneseメンバーで構成されるなど、圧倒的なスピードで多様なバックグラウンドを持つ社員を包摂しながら、55ものプロダクトを生み出してきた。

 

近年は「マネーフォワードクラウド」で提供するバックオフィスSaaS(クラウド経由でソフトウエアを提供するサービス)領域に加え、ファイナンスサービスやSaaSマーケティング領域の事業も拡大している。

 

組織の急拡大に合わせて日々新しいメンバーをグループに迎えている同社では、どのようにして会社全体で呼吸を合わせ、組織としての一体感を保っているのだろうか。一人一人のハートをつないでいるのは、2016年に策定したMVVC(Mission、Vision、Values、Culture)である。(【図表】)

【図表】マネーフォワードのMission・Vision・Values・Culture

出所 : マネーフォワードコーポレートサイトよりタナベコンサルティング作成

2015年、創業3年の節目を前に、従業員数が100名に迫ろうとしていたころ、MVVCを明文化する必要性にいち早く気付いたのは、当時デザイナーとして働いていた入社2年目の金井恵子氏だった。

 

「MVVC策定のきっかけは、当社の代表取締役社長CEOである辻庸介から『行動指針』を記載したカードの制作依頼を受けたことでした。組織の規模が年々拡大する中、全社員に『行動指針』を配布して浸透を図ろうとしていたのです。私はその『行動指針』をあらためて読んだときに、これは創業初期のフェーズに必要だった言葉であり、現時点の組織にはフィットしていないのではないかと感じました」(金井氏)

 

そのころのデザインチームは、次々とリリースされるプロダクトのグラフィックやUI(ユーザーインターフェース)の制作に追われ、目の前の業務をこなすだけで精一杯の毎日だった。その中でも「デザイナーとして経営にどのように貢献できるか」を日々模索していた金井氏は、今こそデザイナーの本領を発揮するチャンスだと感じ、MVVCの策定プロジェクトを辻氏に提案。すぐ実行に移すことになった。

 

「デザイナーの仕事は、曖昧なことを明確にして、分かりやすく伝えることです。一般的には目に見えるものを制作するというイメージが強いかもしれませんが、それ以外にも活躍できる可能性があるはずだと常々感じていたのです」と、金井氏は語る。

 

ただ、一人一人の内面にある価値観を引き出して「共通言語」をつくり上げていくプロセスは、困難の連続だった。

 

「私たちは、なぜこの会社で働いているのか。何を大切にして、どのような企業になりたいと考えているのか。アウトプットされた社員の言葉を、全て盛り込むことは不可能です。最終的には責任者が取捨選択しなければなりません。全社員が腹落ちするMVVCとなるよう経営陣にインタビューを重ね、一人一人が熱を持って語る瞬間を捉えながら『マネーフォワードらしさ』を抽出していきました」(金井氏)

 

金井氏は、このMVVCを策定するプロセスを通して「これが会社をデザインするということなのではないか」と実感したという。以来、カルチャー浸透を中心とした社長室直轄のコーポレートデザイン担当者として、人事や広報の責任者と連携しながら、全社で浸透活動を推進していった。

 

経営陣がMVVCに対する自分なりの解釈を語り合うセッションや、カルチャーの体現者を「Culture Hero」として表彰する制度など、人事を中心にさまざまなプロジェクトを企画して実行。入社時に配布するオンボーディングツールからオフィス環境に至るまで、日常的にMVVCに触れられる仕組みを構築していった。

 

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