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DXビジョンを策定・推進しよう

企業が価値を提供し続けるため必須となったDX。デジタル領域で価値発揮するビジネスモデルの再構築だけでなく、外部環境変化に対応できるシステムや組織への全社変革が求められる。「自社が何を目指すのか」というビジョンからDX戦略を策定し、実現に向けた改革テーマへ落とし込むメソッドを提言する。
2022.11.01

【マーケティングDX】戦略で体制を立て直し、リード獲得数4倍に:パイオニア

 

「パイオニア=モビリティサービス」と世間に認知されるように
ブランドイメージも変えていきたいですね

 

 

戦略を立て、目標と達成プロセスを具体化

 

入社早々、大野氏が真っ先に着手したのは戦略を立てることだ。「集客がうまくいかない」「展示会をしてもリード獲得につながらない」「ウェブサイトへのアクセス数が芳しくない」など、社内からさまざまな質問や相談を受けながら、マーケティング戦略に不可欠な、3つの要素が明確になっていないことに気付いた。

 

「マーケティング戦略には、ペルソナとカスタマージャーニー、バリュープロポジションという3つの要素を明確にする必要があります。そうしないと、設計図がないまま家を建てるようなものです。私が入社するまでは組織の再編やインフラの整備など土台を造る基礎工事の段階でした。それから先に必要なのは、どのような家を建てるかを具体化する設計図です。

 

『とにかくDXだ』といったように、戦術を起点として動き出すのではなく、まずは顧客に向けてどのようなアプローチをするのかという戦略を立て、その後に適切なツールを使った戦術に落とし込むべきです」(大野氏)

 

設計図のない家づくりがどのような結末を招くかは、想像に難くない。マーケティング戦略を策定し、変革の第一歩を踏み出した後、大野氏は、各フェーズの目標を過去のCVRに基づいてKPI化した。

 

「従来もKPIを設定していましたが、粒度が粗く、今期のアポイント件数の目標が何件で、結果として何件達成したという報告で終わっていました。何が要因となって達成できたのかを、明確につかんでいなかったのです。各フェーズのCV数やCVRを基にした考え方をマーケティングメンバーに啓蒙し、セールスの目標達成にはインサイドセールスのアポイントが何件必要か、さらに架電件数は……と上流にさかのぼって逆算して、ブレイクダウンすることで、全て数値化しました。こうすることで、達成してもしなくても原因が分かりますし、KPIも手探りではなく最適に設定できます。『目標未達だけど仕方がないね』で終わらせないということです」(大野氏)

 

ホームページへのアクセス数や問い合わせの件数、インサイドセールスの誰が1日に何件架電したか、マーケティング施策の費用対効果はどうかなど、全てを見える化し、それらを誰もがいつでも確認できるように整備した。すると、戦略策定と、それに沿った戦略実行により、2022年度第1四半期のリード獲得数は一気に前期比4倍超に増加。アポイント件数も2021年比で各月180~200%の右肩上がりとなり、CV数が向上した。

 

「デジタルツールの導入が浸透しない理由として、何にどのように使うか目的があいまいだったり、セールスパーソンをはじめ各フェーズの一人一人にどのようなメリットがあるかが伝わっていなかったりすることが挙げられます。そうすると、ツールはあるけど使わない、使えない、と、ツールの屍が積み上がることになります。

 

細かい指標と実績を見える化して実務に当たる社員に意識してもらうこと。そして、管理者が毎日チェックし、繰り返し入力を促すことが重要です。数字が上がってくるように地道な努力を続けることができて初めてDXへとつながります」(大野氏)

 

もう1つ、大野氏が心掛けていることがある。それは、トータルで目標を達成すれば、必要以上に細かくマネジメントしないこと。インサイドセールスで架電しないのは問題外だが、CVRの高低やどこまでできるかには、個人の能力差もあるからだ。

 

「その人がどうかというよりも、なぜそうなったのか、達成できなかった環境を調べることを大事にしています」(大野氏)

 

 

トップと距離の近い体制が変革の力に

 

マーケティングDXの推進に、大野氏という専門的なスキルを持つ人材を登用したのは、パイオニアが変革の重要性を認識し、人材投資を惜しまなかった証しだ。また、カンパニーCEOからCMO(Chief Marketing Officer)、大野氏へと、経営トップの決断まで3階層と距離が近く、マーケティングへの予算や施策をダイレクトに提案できる体制も、変革を後押ししている要因だろう。

 

「私の場合、社外にマーケティングコミュニティーの知り合いが多くいて、困ったことがあればそのつながりから知見や知恵を得られるのが大きいですね。何かあればいつもチャットやウェブ会議などで相談しています。

 

また、社内では予算や施策についても大きな信頼をいただいていますし、自由度が高い環境も重要だと思います。実際に、私よりもはるかに優れた知名度の高いマーケターが、新たに当社へ入社しています」(大野氏)

 

マーケティング専門の部署がなく、営業部が兼務する企業も少なくないだろう。しかし、プロパー社員が専門性の高い人的ネットワークをゼロから構築するのは難しく、時間も手間もかかる。組織と業務、マインド、その全ての変革を推進するキーパーソンを立てるには、外部人材を招聘するのが有力な選択肢の1つと言える。

 

「戦略が重要なことや、数字で見える化しデイリーで追いかける文化など、この半年間でかなり理解してもらえるようになったと感じています。今はビークルアシストをメインにマーケティングの強化に当たっていますが、別のモビリティサービスのビジネスにも広げていくことが、私の当面の任務だと考えています。

 

さらに言えば、パイオニアと言えばオーディオの会社というブランドイメージも変えていきたいですね。マーケティングの力でモビリティサービスの認知度を高め、プロダクトも含めて『パイオニア=モビリティサービス』と世間に認知されるように」(大野氏)

 

 

 

パイオニア モビリティサービスカンパニー カスタマーサクセス&マーケティング部 マーケティング課 課長
大野 耕平氏

 

 

PROFILE

  • パイオニア(株)
  • 所在地:東京都文京区本駒込2-28-8 文京グリーンコート
  • 創業:1938年
  • 代表者:代表取締役 兼 社長執行役員 矢原 史朗
  • 売上高:2698億5100万円(連結、2022年3月期)
  • 従業員数:9153名(連結、2022年3月現在)

 

 

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