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【特集】

DXビジョンを策定・推進しよう

企業が価値を提供し続けるため必須となったDX。デジタル領域で価値発揮するビジネスモデルの再構築だけでなく、外部環境変化に対応できるシステムや組織への全社変革が求められる。「自社が何を目指すのか」というビジョンからDX戦略を策定し、実現に向けた改革テーマへ落とし込むメソッドを提言する。
2022.11.01

現場発想のDXで社会課題を解決。輸送事業をアップデートする取り組み:日立物流

 

IT化の遅れやドライバー不足など課題が山積する物流業界。業界特有の構造的な問題を、DXで解決しようと立ち上がった日立物流の挑戦を追う。

 

 

「運べない時代」迫る中、業界全体での対応が急務

 

2022年に創業72年を迎えた日立物流は、3PL※1を中心に海外物流に関するフォワーディング※2や重量機工・移転、自動車部品物流の領域で成長を遂げてきた。海外29の国と地域に95社、763拠点を置くなど独自のグローバルネットワークで事業を拡大する一方、近年は経済産業省が選定する「DX銘柄」選定企業に名を連ねるなどDX推進企業としても存在感を高めている。

 

同社が本格的にDXに着手したのは2016年のこと。その背景について、同社営業統括本部 DX戦略本部スマート&セーフティソリューションビジネス部長の南雲秀明氏は次のように説明する。

 

「周知の通り、物流業界にはドライバー不足の深刻化や脱炭素への対応など課題が山積しています。2027年にはトラックドライバーが24万人不足すると言われていますし、2030年までに温室効果ガス排出量を2013年比で46%削減することが国の目標として掲げられています。

 

さらに、時間外割増賃金率が引き上げられる2023年問題や、トラックドライバーの時間外労働の上限規制が適用される2024年問題などへの対応は待ったなしの状況です。当社のコアビジネスは3PLですが、一方で国内だけで約1300台の自社車両を持つ輸送事業者でもあります。数々の課題を解決し、変化に対応していくにはDXが不可欠でした」

 

もともと中小輸送事業者が全体の9割以上を占める物流業界は、IT化が遅れている業界の1つであり、それがトラックドライバーの長時間労働や賃金が伸び悩む要因にもなっている。「このまま何も手を打たないと物が運べない時代になる」。業界全体を視野に入れた同社のDX戦略の根幹には、そうした強い懸念がある。

 

 

中計でDXを掲げ、投資も実施

 

「トラック輸送業の構成比を見ると、大企業と言われる事業者は0.1%以下、中堅企業を含めても10%に満たない状況です。つまり、大企業や中堅企業だけDXに取り組んでも根本的な課題解決にはつながりません。中小輸送事業者も含めて業界全体でDXに取り組むことが重要なのです」と南雲氏は強調する。

 

加えて、「当社においても自社物流で対応できるのは全体の10%程度に過ぎません。残る90%は中小の物流事業者に支えていただいています」と南雲氏。だからこそ、同社はそうした中小物流事業者も含めた全体でDXを推進してきた。

 

こうした姿勢は、同社の前期の中期経営計画「LOGISTEED 2021」に盛り込まれた方針からも見て取れる。その内容は、「当社グループおよび協創パートナーも含めたデジタライゼーションにより形成されたプラットフォームを、同業他社も含めたシェアリングエコノミーの拠点とし、さらなるオープンな協創を加速することで、物流領域を基点/起点としたサプライチェーンを実現する」というものだ。

 

企業のDX戦略と聞くと、社内の業務効率向上が真っ先に思い浮かぶ。しかし、同社が目指すのは顧客価値や社会価値につながる新たなビジネスモデルをDXによって創出することだ。

 

それらを実現するために、①協創によりデータを価値に変える社外向けDX、②業務を効率化しデータを集約する社内向けDX、③DXを実現する組織づくり・人財、④ITガバナンスの強化、⑤DX関連の投資を継続、⑥KPI(重要業績評価指標)の設定・管理によるDX分野でのPDCAサイクルの確立、という6つの重点施策を中心に据えており、2019年から2021年までの3年間にDX関連投資205億円を投じるなど、DX戦略を力強く進めてきた。

 

 

※1…Third(3rd)Party Logisticsの略。荷主に対して物流改革を提案し、包括して物流業務を受託し遂行すること
※2…荷主と輸送業者の間に立ち、貿易事務や輸送手配に付随し発生する専門業務を助ける仕事

 

 

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