その他 2022.11.01

【マーケティングDX】戦略で体制を立て直し、リード獲得数4倍に:パイオニア

 

 

 

 

非上場化を機にカンパニー制を導入し、経営陣と組織体制を一新した車載機器メーカーのパイオニア。新たに始動した「モビリティサービス事業」で推進するマーケティングDXの変革とは。

 

 

商品の特性を踏まえたマーケティングが必要

 

カーナビやカーオーディオ、ドライブレコーダーなど、車載機器分野で信頼のブランドを築いてきたパイオニア。「未来の移動体験を創ります」を企業ビジョンに掲げ、カンパニー制で事業を展開。「モノ」のプロダクトと「コト」のサービスを掛け合わせたモビリティサービス事業を推進している。

 

同社のモビリティサービスカンパニーは、車載機器を介したテレマティクス※1で収集したプローブデータ※2を解析・活用するクラウド型SaaS※3サービス「ビークルアシスト」などを提供。走行データから、急な加減速やスピード超過など危険な挙動を検知し、事故多発場所も予報するなど事故リスクを低減するとともに、車両管理担当者の業務負荷も軽減する運行管理・支援サービスで、新たな市場を創り出している。

 

プロダクトデバイスの販売だけでなく、付加価値も提供するBtoB向けのSaaSサービスとして2015年に提供を開始したビークルアシストだが、カンパニー制を導入し、サービス事業に注力する段階で壁が立ちはだかった。従来の主力事業であるデバイス販売はBtoC向け代理店への卸売りが基本で、自動車用品販売店などへのルートセールスが中心。パートナー企業を介したビジネスは順調に推移したものの、直販型ソリューションセールスの経験・実績がなく、転換は思うように進まなかった。この課題を解決すべく、デジタルを活用するマーケティング変革がスタート。最前線で陣頭指揮を執るのが、同社マーケティング課の課長である大野耕平氏だ。

 

SaaSサービス企業でマーケティングに携わったキャリアを生かそうと2022年に同社へ入社した大野氏は、これまでのやり方に違和感があったと言う。

 

「“売ったら終わり”のハードウエアと、毎年契約を更新するソフトウエアやLTV(顧客生涯価値)が大前提のSaaSサービスでは、マーケティングの考え方が全く違います。それなのに専門部署がなく、セールスパーソンの試行錯誤によって何とかプロモーションをしているような状態でした」

 

実は、大野氏の入社前である2019年、同社にはすでにMA(マーケティングオートメーション)やCRM(カスタマー・リレーションシップ・マネジメント)のツールを導入していた。2021年には「マーケティング」「インサイドセールス」「セールス」「カスタマーサクセス」のフェーズごとに完全分業制を採用。パンフレット作成からイベント出展、顧客提案から受注後のフォローまで、一気通貫型だった業務のブラックボックスを見える化し、マーケティング変革の環境整備を進めていた。それでも、マーケティングの活動はうまく機能しなかったのである。

 

「フェーズごとのKPI(重要業績評価指数)は設定しているのですが、KPIを達成するためのCV数やCVR※4を日々確認する習慣がなかったのです。アポイントから何%が案件化し、そのうちの何%が成約するのか、マーケティングの本質を理解していなかったと言えるかもしれません。デジタルツールはあくまでも手段。導入しただけでは何も変わりませんし、使いこなす戦略や方針があってこそ生きてきます」(大野氏)

 

役割分担の分業制も、営業ノウハウやプロセスの透明化も、組織的なマーケティング戦略がなければ宝の持ち腐れになるということだろう。そして本当の意味での、組織と業務、考え方の変革を再始動させた。

 

 

※1…通信を使ってドライブに有益な情報を提供・活用するサービスの総称
※2…自動車から取得した位置や車速などの走行データ
※3…インターネットを経由してクラウド上のソフトウエア・機能を提供するサービス
※4…CVR(コンバージョン率)。接触を持った見込み顧客のうち、実際に顧客やサービス会員に転換した比率