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【特集】

CX×ブランディング

企業が競争優位性を高める上で欠かせない要素となったCX(カスタマーエクスペリエンス:顧客体験価値)。CX向上には、ユーザーのブランド体験を実現し、エンゲージメントを高める戦略の設計が必要となる。CXという視点を、商品やプロモーションといった「部分」に取り入れるのではなく、全体戦略の根幹に組み込み、CX向上を自社のブランディングにつなげるメソッドを紹介する。
2022.09.01

顧客と向き合う仕組みを整え「声のする方に、進化する。」:ワークマン

ママキャンパー・サリーさんと開発協力したパーカー。アンバサダーとの開発協力商品は、偽りのないユーザーのニーズをしっかりと捉えており、「どれも売れ行きが好調」という

 

 

徹底した顧客目線で商品を開発する

 

ワークマンのアンバサダー制度は、商品の情報発信にとどまらず、さらに進化を遂げることになる。それがアンバサダーとの商品の開発協力である。前述したCX向上のキーワードの1つ、「顧客との共創」だ。

 

「当社には、プロユースのウエアづくりで培ってきた技術は蓄積されています。しかし、ウエアを着用する状況や、そこで何が優先されるべきかは、お客さまの方がよくご存じです。そこで長年のユーザーでもあるアンバサダーの意見を聞きながら商品開発を進めています」(伊藤氏)

 

ワークマンの顧客との共創は、アンバサダーの意見を徹底的に取り入れるのが特徴だ。例えば、ママキャンパーブロガーのサリーさんとの開発協力の1つに「綿かぶりヤッケ」がある。

 

従来の綿かぶりヤッケは、胸の位置までファスナーのあるハーフジップだったが、これをフルジップに変えた。ハーフジップだと脱着時に化粧や髪型が乱れて困るという、女性キャンパーならではの意見を採用したのだ。

 

このようにアンバサダーの意見を積極的に取り入れることで、顧客目線の商品開発を実践する。しかもその姿勢は徹底されていて、次のようなエピソードもある。

 

「アウトドアブランドであるフィールドコアには、ブランドロゴが分かりにくい商品があります。これは『ワークマンだと知られたくない』というアンバサダーの意見を取り入れた結果です」(伊藤氏)

 

企業にとって大事なブランドロゴを隠してほしいという意見は、普通ならすぐに却下されてしまいそうだが、ワークマンは採用するのだ。

 

この例からも、顧客の意見を徹底して反映しようとする姿勢が分かる。さらに面白いのは、こうしたアンバサダーの活動は全て無報酬という点だ。報酬制にするとアンバサダーが率直な意見を言いづらくなるからだという。

 

その代わり、アンバサダーは開発に関わった商品について、いち早く情報を発信できる権利を得る。開発会議の直後に最新情報をアップするアンバサダーも多く、同社のニュースリリースよりも早いタイミングで発信されることも多いため、注目を集める。そんな喜びを味わいたくてアンバサダーは協力を惜しまないのである。

 

 

顧客が購入しやすい店舗業態に改善

 

「声のする方に、進化する。」という経営理念にのっとって、アンバサダーの意見を取り入れ、顧客に支持される商品づくりを実践するワークマン。その姿勢は、直接接点のない顧客の「声を聞く」ことにも表れている。その1つがSNSのエゴサーチである。

 

「商品開発担当者をはじめ、当社の社員はみんな自発的にエゴサーチをしています。SNS上のワークマンの商品に対する意見をリサーチして社員間で共有し、的確と思われる意見や指摘については、改善に役立てています」(伊藤氏)

 

また、CX向上のためには、魅力的な商品開発だけでなく、購入のしやすさなども重要な要素だ。そこでワークマンは、拡大する顧客層に対応し、ラインナップの強化や店舗数の増加などを図っている。

 

これまでワークマンの店舗は郊外の路面店が圧倒的に多かったが、「#ワークマン女子」をきっかけに、都心やショッピングモールにも出店。今後はこうしたショッピングモール、都心の駅チカの店舗を増やすことで、新しい顧客層が購入しやすいように整備していくという。

 

同時に2022年春からは、ジュニア対象の商品も拡大。これは子育て世代の顧客が増える中、子どもたちの商品を数多く提供することで、ファミリーのニーズに応えていく戦略だ。

 

その一方で、新しい業態の店舗も2021年12月に開設した。それが「WORKMAN Pro(ワークマンプロ)」である。プロユースの店舗として作業着のウエアに加えて安全靴、工具などの商品も豊富に取りそろえている。

 

「現在のワークマンの店舗では、一般の方向けの商品も販売していますから、プロの方とママさんたちが同じ店舗で買い物することになります。しかし、それぞれの購入スタイルはまったく違います。一般の消費者はゆっくりと商品を吟味して購入しますが、プロの方は目的の商品があるので滞在時間がすごく短いわけです。元々プロユース専用の店舗として設計しているため駐車場も広くないので混み合います。しかも、プロの方々は仕事帰りに購入することも多く、自分の作業着が汚れていることを気にする方も多い。そこで、それぞれの顧客層が自分のスタイルで購入できるよう、対象別に店舗の業態を変えていく予定です」(伊藤氏)

 

これもワークマンが実践するCX向上施策である。新機軸を打ち出しつつも、顧客目線を大切にして顧客の声をしっかりと聞く。「ワークマンらしさ」を貫く独自経営に学ぶことは多い。

 

 

一般消費者とプロの方々がそれぞれのスタイルで
購入できるよう、店舗業態を変えていく予定です

ワークマン 広報部 伊藤 磨耶氏

 

 

PROFILE

  • (株)ワークマン
  • 所在地:東京都台東区東上野4-8-1 TIXTOWER UENO 11F(東京本部)
  • 設立:1979年
  • 代表者:代表取締役社長 小濱 英之
  • 売上高:1565億9700万円(チェーン全店、2022年3月期)
  • 従業員数:349名(2022年3月現在)
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