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CX×ブランディング

企業が競争優位性を高める上で欠かせない要素となったCX(カスタマーエクスペリエンス:顧客体験価値)。CX向上には、ユーザーのブランド体験を実現し、エンゲージメントを高める戦略の設計が必要となる。CXという視点を、商品やプロモーションといった「部分」に取り入れるのではなく、全体戦略の根幹に組み込み、CX向上を自社のブランディングにつなげるメソッドを紹介する。
2022.09.01

NPS調査によるCX向上でロイヤルカスタマーを創出:セブン&アイ・ホールディングス

セブン&アイグループの事業会社での買い物や食事で貯めたマイルを、さまざまな特典と交換できるセブンマイルプログラム。グループ共通の会員ID「7iD」でログイン・利用できる

 

 

近年、デジタルの顧客接点の強化に注力しているセブン&アイ・ホールディングス。NPS(ネット・プロモーター・スコア:正味推奨者比率)調査によるCX向上の取り組みがグループ全体に新しい企業文化を生み、ロイヤルカスタマーの増加につながっている。

 

 

デジタルの顧客接点を持つ戦略を展開

 

セブン-イレブンをはじめ、イトーヨーカ堂、そごう・西武、ロフトなどを展開する流通大手のセブン&アイ・ホールディングス。グループの店舗数は国内で2万2000店を超え(2022年2月現在)、1日当たりの総来店客数は約2240万人(2022年2月度)に上る。近年はECにも力を注ぎ、事業会社ごとにアプリ・ECサイトを運営している。

 

「セブン&アイ・ホールディングスは、以前から最新のサービスを提供することでCX(顧客体験価値)向上を図ってきた実績があります。例えば、小売業でいち早くPOSシステムを導入し、お客さまから支持される商品を欠品なく提供できる体制を構築したり、セブン-イレブンの店舗でセブン銀行の現金引き出しや振り込みを可能にしたりするなど、常に新しい体験価値を提供してきました。そして今、注力しているのが、デジタルにおける顧客接点の創出です」

 

同グループのDX戦略についてそう説明するのは、セブン&アイ・ホールディングスのデジタルマーケティング部CRM推進兼カスタマーサービスシニアオフィサーの伏見一茂氏である。

 

大きな転換点となったのが、2018年6月のグループ共通会員ID「7iD(セブンアイディ)」導入だ。一度7iD会員として登録した顧客は、セブン&アイグループ各社提供のアプリ・ECサイトに同じIDでログインできる。「アプリやサイトごとに個人情報を入力・登録しなければ利用できないわずらわしさをなくす」というCXを提供したのである。

 

加えて同時期に、グループ横断型のロイヤルティープログラム「セブンマイルプログラム」を開始。セブン&アイグループの対象店舗やECサイトでの購入履歴が7iDでひも付けされ、購入金額に応じて「セブンマイル」が貯まって、「nanacoポイント」やオリジナルグッズなどさまざまな特典と交換できる仕組みである。

 

同プログラムのコンセプトは、「いつものお買い物で私だけのHappyを」。普段の買い物でマイルが貯まり、貯めたマイルを特典に交換できるという体験の提供によって、リアル店舗とECサイトの相互送客、グループ内での相互送客、ロイヤルカスタマーの増加・離脱防止・定着化を目指す戦略を立てたのだ。

 

 

利用頻度が伸び悩みNPSで課題を可視化

 

ところが、セブンマイルプログラムの利用頻度は、当初の予想通りには増えなかった。利用頻度が伸びない要因を洗い出すため、伏見氏は購入の金額や回数といった定量データの分析に加え、NPS調査を取り入れた。顧客が買い物を楽しんでいるのか、サービスに満足しているのかといった定性データを可視化し、CX改善につなげたのである。

 

「まず、【図表】のようなカスタマージャーニーマップ分析により、どの顧客層のCXを優先的に改善すべきかを検討し、調査を実施しました。その結果、長年リアルの店舗に慣れ親しんできたお客さまにとって、セブンマイルプログラムの利用方法が分かりづらいということが判明しました。そこで、思い切ってシンプルな仕組みにリニューアルしたのです。プログラムの提供開始から約1年で仕組みを変えるのには、かなり勇気が必要でした」(伏見氏)

 

 

【図表】カスタマージャーニーマップ分析の例

出所:エモーションテック提供資料よりタナベ経営作成

 

 

開始当初は、一定期間に貯めたマイル数の総数に応じてランクが決まり、ランクに応じた特典の抽選に応募できる仕組みだった。しかし、それが分かりづらいという声が多かったため、貯めたマイルをいつでも特典に交換できる設計に変更したのである。結果、利用頻度は大きく伸びた。

 

きめ細かい施策も行った。「プログラムに対する顧客の理解度が低い」という課題に関しては、「200円ごとに1マイルが貯まる」といった説明をポップアップ機能で行い、サービス理解度の向上を図った。

 

また、「マイル履歴画面を確認するとボーナスマイルを付与」「欲しい特典のリスト登録でボーナスマイルを付与」など、買い物以外のセブンマイルプログラムサイト内でのアクションでもマイルが貯まるようにした。

 

特に、NPS調査で「推奨度を上げるための重要度が高いにもかかわらず顧客のエンゲージメントは低い」という結果が出ていたのが、ランダムに1~3マイルが当たるサイト内の「ガチャ(くじゲーム)」だった。

 

「せっかく当たっても獲得マイル数が少なく、満足いただけていないという分析結果だったので、大当たりすると30マイルを付与する特別企画も用意。同時に、ガチャの認知度を上げられるよう、開催中であることや開催期間の予告をトップ画面に出すなどの施策も行いました。この改善で満足度が高まり、推奨度を押し上げることができました」(伏見氏)

 

小さな改善を次々と実践した結果、セブンマイルプログラムのNPSは向上。それに伴って同プログラムの利用頻度が上がり、収益向上にもつながっていることが確認できたという。

 

「NPS調査に基づく制度変更で痛感したのは、対応スピードの重要性です。お客さまが分かりにくい、使いづらいと感じることを放置していると、サービスに対する悪印象が根付きかねません。迅速に対応したおかけで、不信感が募るのを防ぎ、好印象に転換することができました。

 

大切なのは、NPS調査を繰り返すこと。1つの課題が改善できたら、次の課題に対応していく。PDCAを回しながらCXを向上し続けることが何よりも重要です」(伏見氏)

 

 

※セブン&アイ・ホールディングスが国内で展開する非接触型決済方式の電子マネー

 

 

 

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