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【特集】

プラットフォーム型ホールディングス

事業会社に必要な経営資源を持ち株会社が提供するプラットフォーム型ホールディング経営が増えている。事業を創出し経営者を育む、逆三角形型組織モデルの強さに迫る。
2021.07.01

事業会社の「自立自走経営」を支援:ボーダレス・ジャパン

「自立自走経営」を促す組織体制で急成長

 

恩送りのエコシステムにより、既存事業会社のリーダーの意識が変わったことはもちろん、新たなビジネスの起業も加速。2007~2016年の9年間で立ち上げた事業は8事業だったが、2017年は6事業、2018年に10事業、2019年には16事業が誕生。グループの規模も事業領域も急速に拡大した。

 

「社会課題を解決することが当社の目的ですから、事業数は多いほど良い。5年後にはグループ内で年間100社を生み出すことを目標にするとともに、さらなる社会実装を推し進めるために、グループ外の社会起業家を目指す人々に向けて、ソーシャルビジネスプランをつくる『ボーダレスアカデミー』も実施しています」と鈴木氏は語る。

 

どのような事業に「恩を送る」かを決めるのもボーダレス・ジャパンではない。起業家がビジネスプランを持ち込むと、グループ各社の全社長が集まる「社長会」でプレゼンテーションを行う。そこで全員一致の賛同を得た事業のみがグループの「仲間」として迎え入れられ、前述したようなサポートを受ける。主役はあくまで事業会社なのだ。

 

「プレゼンテーションに対し、グループ各社の社長からさまざまな指摘があります。1度目で承認を受けられなかったとしても、起業希望者はそれを受けて事業計画をブラッシュアップし、再度プレゼンに挑む。このあたりも融資や投資とは違うかもしれません。

 

新しい事業が失敗するリスクはもちろんあります。でも、リスクはいくらでもコントロールできる。14年間ソーシャルビジネスを継続したことで、ボーダレス・ジャパンにもグループ各社にも『どうすれば成功できるのか』のノウハウが蓄積されており、互いにそのノウハウを無償でシェアしています。グループ各社の資産は全て、グループ全員の共有資産なのです。その結果、難しいビジネスでも成功率を高めることができています」(鈴木氏)

 

ソーシャルビジネスの起業家にとって頼もしい仕組みだが、一方で厳しい面もあると鈴木氏は言う。

 

「恩送りで資金を預かった社長のプレッシャーは相当なものです。受けた恩を棒に振ってしまうかもしれないという重圧よりも、金融機関で個人的に借りた方が、気分的にはよほど楽かもしれません。しかし、個人でやるよりも仲間とともに歩む方が、良い社会を早く実現できるとみんな分かっているのです。実際に失敗してしまうこともあります。でも、その失敗が人間的な成長を促し、経営者としても一皮むけることにつながっていくのです」

 

同社は、グループ全体の憲法とも言うべき「定款」を定めている。その1つに、「経営者の報酬は、一番給与の低い社員の7倍以内とします。」というものがある。

 

「社長になっても多額の報酬や配当はありません。膨大な個人資産は絶対に手に入らないのです。それを望む人にとって、当社は何のメリットもない。従来の資本主義の常識を覆すようなルールですので、ある意味で当社は“反社会集団”と言えるかもしれません」と鈴木氏は笑う。

 

大儲けはできないが、良い社会を実現できる。失敗しても「自己責任だから」と孤立することは決してない。社会課題を解決したいという挑戦者が次々と現れるエコシステムは、“誰一人取り残さない”社会をスピーディーに実現する効果的な仕掛けなのだ。

 

 

ボーダレス・ジャパン 代表取締役副社長 鈴木 雅剛氏

 

 

PROFILE

  • (株)ボーダレス・ジャパン
  • 所在地:東京都新宿区市谷田町2-17 八重洲市谷ビル6F(東京オフィス)
  • 設立:2007年
  • 代表者:代表取締役社長 田口 一成
  • 売上高:55億4000万円(グループ計、2021年2月期)
  • 従業員数:1483名(グループ計、役員含む、2021年3月現在)

 

 

 

 

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