その他 2021.07.01

事業会社の「自立自走経営」を支援:ボーダレス・ジャパン

バングラデシュの貧困層を作り手とするレザーブランド(ビジネスレザーファクトリー)

 

 

貧困や差別、偏見、環境汚染といったさまざまな社会課題をビジネスで解決する「社会起業家」を次々と輩出するボーダレス・ジャパン。独自のホールディング経営によりグループ全体で35のソーシャルビジネス(2021年2月末現在)を生み出し、飛躍的な成長を遂げている。

 

 

ソーシャルビジネスの起業家集団

 

社会課題を自社の事業で解決し、より良い社会を築いていくことを目指す「ソーシャルビジネス」。フェアトレード、就業機会・金融サービスの提供による公正な社会の実現、また地球温暖化や自然破壊といった環境問題の解決などを目的とする事業を指す。

 

ボランティアやNPO(非営利団体)と異なるのは、寄付金などの外部資金に頼らず、自社で継続的に収益を上げて社会的価値を生み出していること。「社会性」「事業性」「革新性」の3つを併せ持つことが、ソーシャルビジネスの要件だ。

 

利益利益の追求を目的とする一般的なビジネスより収益を生みにくく、資金繰りも難しいビジネスモデルであるため、「ソーシャルビジネスは儲からない」とのイメージを持つ人も多い。だが、「社会課題解決の起業家集団」であるボーダレス・ジャパンは2007年の設立から14年で売上高55億4000万円(2021年2月期)を達成。グループ全体で35事業(【図表1】)を展開し、従業員数は13カ国で1400名を超える規模にまで成長した。

 

 

【図表1】ボーダレス・ジャパンの事業一覧

出所:ボーダレス・ジャパン公式サイト(2021年2月現在)よりタナベ経営が作成

 

 

この同社の飛躍を支えている組織体制がホールディングスだ。不動産やサービス、小売、卸売、製造、流通、農林、リユース・リサイクルなど、多岐にわたる領域で事業を推進するグループ各社を、ボーダレス・ジャパンが【図表2】の仕組みで支える。

 

 

【図表2】起業家を支援する2つの仕組み

出所:ボーダレス・ジャパン公式サイト(2021年2月現在)よりタナベ経営が作成

 

 

代表取締役副社長の鈴木雅剛氏は、「事業持ち株会社の形を取っていますが、『ボーダレス・ホールディングス』と名乗ったことは一度もなく、各社のマネジメントをすることもありません。ボーダレスグループは、社会起業家の“共同体”であり、ボーダレス・ジャパンは、いわばグループ各社の相互扶助を促進する事務局なのです」と話す。子会社の経営や事業をコントロールするために株式を保有しているわけではない点で、一般的なホールディングスとは大きく異なる。

 

「当社には『管理する』という概念がありません。そもそも、親会社・子会社、本社・支社という上下の関係性を表すような言葉が社内に存在しないのです。業績の数値は確認するものの、たとえ収益が思わしくなくても各社に“親会社”として介入することはありません。もちろん、随時相談を受け、必要なサポートを提供していますが、あくまで各社の要請に基づくものです」(鈴木氏)

 

独自の考え方の背景には、ボーダレス・ジャパン代表取締役社長の田口一成氏と鈴木氏の経験がある。

 

 

事業を支えて口は出さない「恩送りのエコシステム」

 

2007年、田口氏と鈴木氏はボーダレス・ジャパンを創業し、2008年に外国人と日本人が一緒に暮らすシェアハウスを立ち上げた。2010年に、経営難に苦しむミャンマーの農家にハーブ栽培を指導し、授乳期の女性向けのオーガニックハーブティーとして販売するビジネスを展開。2013年には、バングラデシュの貧困労働者を救済する革製品を製造・販売するビジネスを立ち上げた。その後、さらに2つの事業を始め、それぞれが軌道に乗ってきたため、同社へ新たに加わったメンバーに事業をバトンタッチしようとしたところ、問題が起こった。

 

「田口と私が先生”、バトンを渡したメンバーが生徒”のようになってしまったのです。これには違和感がありました」と鈴木氏は振り返る。

 

「うまくいっているモデルを踏襲しよう」「先鞭をつけた先輩のアドバイスに耳を傾けよう」と考えるのは自然なことだ。しかし、一般のビジネスよりも厳しい条件下で利益を出さなくてはならないソーシャルビジネスには、変化し続けるスピード感や社会に与えるインパクト、事業を継続する強い意志が必要だ。それには自己決定できるリーダーシップ力が欠かせない。

 

「後輩が苦しんでいる姿を見ると、自分と同じ苦労をさせたくないと思ってしまう。しかし、そこですぐに助言したり、手を差し伸べたりするのは、果たして適切なのだろうか。挑戦し、成長する機会を奪っているのではないか」——。

 

そう考えた田口氏と鈴木氏は、事業部制だった組織体制を2014年にカンパニー制(独立採算制)へ移行。さらに、2017年からホールディングス化を始めた。設立から10年目のことだった。

 

こうした経緯を持つボーダレス・ジャパンのグループ運営は独特だ。一般的なホールディングスでは、持ち株会社は子会社からの配当で収益を上げるため、「来期は○百万円、還元すること」といったコミットを各社に求める。だが、同社は独立経営のソーシャルベンチャーが集い、資金やノウハウをグループでシェアする仕組み。余剰利益をいくら拠出するかは各事業会社の社長が決定する。

 

起業したい、社会に貢献したいという起業家は「年々増えている」(鈴木氏)が、ネックとなるのが資金。それを提供し、収益を上げたら余剰利益を全社でプールして、次に起業したい人へ託す。そのプール役、調整役が、ホールディング会社であるボーダレス・ジャパンの主な役割なのだ。

 

「この仕組みを『恩送りのエコシステム(生態系)』と呼んでいます(【図表3】)。援助してもらった恩を次の世代へ送る。借金とも投資とも違って、失敗したからといって起業家が1人で責任を取らされることはありません。事業モデルを練り直し、もう1回チャレンジします。失敗しても必ず再挑戦でき、それを仲間が全力でサポートするというセーフティーネットを用意し、起業家に事業へ集中してもらうための仕組みです」(鈴木氏)

 

 

【図表3】恩送りのエコシステム

出所:ボーダレス・ジャパン公式サイト