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【特集】

地域プロデュース

高齢化や人口減少といった地域の課題を克服するには、地域産業に関わるさまざまなプレーヤーが連携し、ビジネスを創り、事業価値を高めて、地域経済を活性化させる必要がある。自律的で持続可能な地域社会の実現に向け、人と事業をつなぎ、育て、地域の未来を協創する取り組みを紹介する。
2024.02.01

佐賀発の「エシカル」ブランドが地域の環境と未来の産業を守る:SAGA COLLECTIVE

3ステップで目指すカーボンニュートラル

 

—— 使命とビジョン実現のために、何から取り組み始めたのですか。

 

樺島 近年は佐賀でも自然災害が多発し、2019年8月の九州北部豪雨で天山酒造の酒蔵が浸水。2021年8月の佐賀豪雨では土砂災害が発生して名尾手すき和紙が被災。佐賀海苔は2022年に記録的な不漁となりました。

 

その一因とされる地球温暖化対策は、世界共通の重要課題となっており、日本も2050年のカーボンニュートラル実現を目指しています。1社単独で効果を上げるには難しい課題ですが、地域企業11社が連携し、率先してカーボンニュートラルに取り組むことに意義があるのではないかと考え、実行に移しました。

 

山口 まず各社のCO₂(二酸化炭素)排出量の把握から始めました。集計年度を4月〜3月と定め、2021年度分より、各社のガス、重油、ガソリン、電気などのエネルギー使用量をエネルギー事業者からの請求書をベースに把握し、環境省が公開する排出係数を使って、CO₂排出量を算出しました。正直、苦労しました。私も含め全員が初めての経験で、請求書や領収書を1枚ずつ照合して集計するのは、とても根気のいる作業でした。

 

数値化したことで、各社の削減ポイントが明らかになりました。レグナテックでは、電気由来のCO₂が大半を占め、照明をLED化することで電力消費量の削減に成功しています。ほかにも、明確になったCO₂の削減ポイントと取り組み事例を各社が共有し、さらなる削減活動に取り組んでいます。

 

—— カーボンニュートラルへの3ステップの1は「把握」、2は「削減」、最後が「相殺」ですが、具体的にはどのように削減・相殺するのですか。

 

山口 ステップ2で削減できなかったCO₂排出量は、ほかの場所で実現したCO₂吸収増加分(クレジット)で相殺、つまりカーボンオフセットをします。この考えには、「自社が出したCO₂をお金で解決しているだけだ」という反対意見が出ました。

 

そこでまず、クレジットの保有者である佐賀県が保有する森林を、組合員と見学しに行きました。当組合が買ったクレジットがこの美しい森林を保護し、手入れするために使われていると実際に見て知ることにより、組合員の意識は大きく変わりました。

 

結果的に、2022年度は11社のうち6社がカーボンニュートラルを達成しました。その他5社は、組合を通じて販売する商品に限定してカーボンオフセットを実施しています。

 

消費者を巻き込んだ実証実験も行いました。通常のレトルトカレーと、カーボンオフセットした同商品を期間限定で販売したところ、後者の値段が100円高かったにもかかわらず、3人に2人がカーボンオフセット商品を買ったという結果が出ました。現在、エシカル消費は広まりつつありますが、人々の生活にはまだ浸透していません。エシカル消費市場の成長をただ待つのではなく、市場を創ることから取り組んでいます。


カーボンオフセットに使用している佐賀県の県有林を視察

エシカル活動の継続は次世代へのメッセージ

 

—— 今後、どのような活動を展開される予定ですか。

 

樺島 2023年4月には経済産業が主催する「GXリーグ※2」に参画し、CO₂排出量削減の目標計画の策定・公表、目標へのコミット、サプライチェーン全体への働きかけ、市民社会との対話、グリーン市場の創出などに取り組んでいます。また、活動の輪を広げるために、「カーボンニュートラルのワンストップサービス」としてノウハウを提供しています。

 

山口 2023年9月には、佐賀県鳥栖市をホームタウンとするプロサッカークラブ「サガン鳥栖」のホームゲームで、「SAGANゼロカーボンチャレンジマッチ」が開催され、観客の来場手段やゲーム終了後の廃棄物回収量からCO₂排出量を計算しました。事前調査では来場者の約6割が自動車で来場していましたが、ゲーム前に公共交通機関の利用を促すことで自動車の利用率が約1割下がりました。

 

また、カーボンニュートラルな商品を当協同組合で共同開発し、ECサイトやふるさと納税などで販売しています。そのほか、大手企業のノベルティーやイベントの記念品に提供するなど、エシカル消費市場を開拓しています。

 

樺島 異業種グループの特徴を生かした「体験サービス」にも力を入れています。2023年7月に東京・白金でポップアップイベントを開催し、みそ作り体験や、うれしの茶の飲み比べなどのイベントを通じて、私たちの取り組みをPRしました。また、国内外のバイヤー、シェフ、飲食小売り関係者、SDGs研究者、教育機関などの視察の受け入れも行っています。

 

今後の課題は、活動の財源の確保です。今まで国の補助金や組合員の会費、カーボンオフセット商品の売り上げによって活動を行ってきました。今後は、各社のエシカル消費市場の拡大やカーボンオフセット事業の拡大を通じて、組合員の全売上高の1割相当を売上目標として、自己財源を確保したいと思っています。

 

山口 現在、組合員11社のうち6社がカーボンニュートラルを達成しています。2048年までに全社がカーボンニュートラルを達成する計画です。

 

樺島 今後、11社中6社が親族内承継を予定しています。彼らに取り組みを次世代へとつなげてほしい。そして「オール佐賀」での上質な暮らしを、異業種連携で世界へ提案していってほしいのです。そうすれば、関わる人たち皆が楽しい人生を送れると信じています。

 


SAGA COLLECTIVE 理事長 レグナテック 代表取締役社長 樺島 雄大氏(左)
SAGA COLLECTIVE 事務局長 山口 真知氏(右)

※2 2050年のカーボンニュートラル実現に向け、産官学が自主的に排出量取引を実施するリーグ(連盟)のこと。「GX」はグリーン・トランスフォーメーションの略語で、温室効果ガスの発生源となる化石燃料をできるだけ使わず、再生可能エネルギーを用いて産業構造の変革と経済成長の両立を実現するという概念

 

PROFILE

  • SAGA COLLECTIVE協同組合
  • 所在地 : 佐賀県佐賀市諸富町山領266-1
  • 組合員(11社) : レグナテック(諸富家具)、三福海苔(佐賀海苔)、李荘窯業所(有田焼)、井上製麺(神埼そうめん)、小野原製茶問屋(うれしの茶)、川原食品(柚子こしょう)、天山酒造(日本酒)、名尾手すき和紙(和紙)、徳永製茶(うれしの茶)、吉島伸一鍋島緞通(鍋島緞通)、丸秀醤油(醤油・味噌)

 

 

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