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【特集】

ブランドビジョン

変容した社会の価値観に対し、自社の存在価値(パーパス)を再定義する企業が増えている。ブランドにおいても、そのビジョンを明確化し、戦略から実践まで落とし込んで成果を上げている事例から、非価格競争を実現し、ブランド力を研ぎ澄ます要諦を学ぶ。
2023.07.11

ブランディングに取り組む企業:スープストックトーキョー|シロ


2023年4月より「小さなお客さまにもお食事を楽しんでいただけるお店でありたい」という思いから離乳食およびキッズセットの提供を開始

 

たった一人の顧客に寄り添い課題解決の一歩を踏み出す

 

 

事業の枠を超え、スープを食べた後のようなぬくもりを社会に広げる活動を展開するスープストックトーキョー。「世の中の体温をあげる」を合言葉に、さまざまな取り組みを通じてブランドビジョンを体現している。

 

年齢・性別・国籍・宗教を超えて愛される身近な食べ物であるスープを「いつでも、どこでも、誰にでも安心安全な品質で届けたい」という思いから、食べるスープの専門店「Soup Stock Tokyo」は生まれた。工場らしからぬ広大なキッチンで、シェフの五感を頼りに何時間もかけて作った多種多彩なスープを、国内約60店舗ごとに異なる週替わりのメニューで提供している。

 

2016年の設立以来、変わることなく発信しているのは「Soup for all!」というブランドメッセージである。これは単に、同社のスープを多くの人に提供するという意味ではない。商品であるスープはあくまでもコミュニケーションツールに過ぎず、同社の本意は、商品やサービスを通じて社会の「小さくて大きな壁」を取り除いていくことにある。

 

近年は、小麦アレルギーなどを持つ人も安心して食べられるグルテンフリー対応メニューを全店で展開しているほか、動物性食材を摂取しない人のためのベジタリアンスープ、かむことが困難な人のための咀嚼配慮食など、食の多様性を広げる新しい取り組みを次々と開始している。

 

そのまなざしは、人に限らず身近な動物にも向けられる。2021年に発売した「猫のスープ」は、16年間一緒に暮らしてきた大切なネコの看病という体験をきっかけに社員が発案したものだ。

 

対象となる顧客層が社会全体から見ればマイノリティーであっても、同社は「たった一人に寄り添う」というブランドの価値観に基づいて商品やサービスの開発を行っている。

 

2023年4月に全店でスタートした離乳食(後期)の無料提供も、自由な食事がままならない人の助けになればというブランド共通の思いからスタートした。スペースの限られた店内に背景の違う多様な顧客を同時に迎え入れることは決して容易ではないが、それぞれに多少の不便をかけることになったとしても、ある特定の顧客だけを優遇するのではなく、同社のスープやサービスに価値を見いだしている全ての人の体温を上げていきたいとする同社の姿勢に、共感が広がっている。

 

食のバリアフリーは他社との間でも進められている。その象徴が、2022年11月に実現したベーカリーカフェ「CAFE BURDIGALA(カフェ ブルディガラ)」とのコラボレーション店舗だ。隣接地に同時オープンした両社の店舗には隔たりがなく、訪れた客はスープもベーカリーも同時に楽しむことができる。

 

商品・サービスが多岐にわたっても、「Soup for all!」というブランドメッセージにブレが生じない理由として、「ブランドをつくるのは人」という同社の考え方がある。この考え方は、ブランドメッセージを体現するための施策だけでなく、採用ブランディングにも生かされている。

 

同社は2016年に人材開発部を新設し、ブランドメッセージを体現できる人の評価・育成を本格化した。採用は「熱量をもって想いを伝え、共感を得る表現力」を選考基準とし、自分の好きなことをプレゼンしてもらう独自の面接を実施。社内では、「世の中の体温をあげる」という企業理念の実践エピソードを「SSTグランプリ」(成果発表イベント)や社内交流サイト「Smash」で定期的に報告し合うという。

 

アルバイトを含む全ての従業員が日々の中で模索し、自発的に取り組んだことをたたえ合う場が、人と食の多様性を尊重する意識の醸成につながっている。卒業した社員・アルバイトのうち、希望者は全店10%引きで食事ができるほか、社内イベントに参加できる「バーチャル社員証」を発行し、将来復職した場合には特典も付与。いずれも、「ブランドに共感してくれた仲間と、雇用関係を超えて価値観を共有し続けられるように」との思いからだ。

 

また、「LGBTQ Ally」として、東京レインボープライド(セクシュアル・マイノリティーの存在を社会に広める活動)への参加や、社内でのミートアップ開催も活発に行っている。そうした草の根活動は、職場におけるセクシュアル・マイノリティーに関する取り組みの評価指標「PRIDE指標」(一般社団法人work with Pride)でも高く評価され、2020年から3年連続で最高ランクのゴールドを獲得している。

 

一方、2023年にはブラインドサッカーによる研修プログラムを通じて、ダイバーシティーの理解促進を目指すサッカークラブ「クリアソン新宿」とパートナーシップ契約を締結。食のバリアフリーと同様に、多様な企業・団体との対話を重ねながらブランドビジョンの実現に取り組んでいる。

 

一人の顧客に寄り添ったさまざまな課題解決を通して、ブランドメッセージを体現しているスープストックトーキョー。ブランドに共感するファンの裾野は社内外で着実に広がっている。

 

※セクシュアル・マイノリティーの活動を支持・支援する人たち

PROFILE

  • (株)スープストックトーキョー
  • 所在地 : 東京都目黒区中目黒1-10-23 シティホームズ中目黒203
  • 設立 : 2016年(創業:1999年)
  • 代表者 : 代表取締役社長 松尾 真継
  • 売上高 : 91億9000万円(2022年3月期)
  • 従業員数 : 1470名(2022年3月現在)

 

 

 

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