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地域プロデュース

高齢化や人口減少といった地域の課題を克服するには、地域産業に関わるさまざまなプレーヤーが連携し、ビジネスを創り、事業価値を高めて、地域経済を活性化させる必要がある。自律的で持続可能な地域社会の実現に向け、人と事業をつなぎ、育て、地域の未来を協創する取り組みを紹介する。
2024.02.01

地域づくりを担い持続発展させていく若手職員を育成:北海道岩内郡岩内町


岩内町産の酒米『彗星』と岩内岳の伏流水を使った『純米大吟醸 山』(左)、海洋深層水を使った『純米大吟醸 海』(右)

「地域連携ビジョン」の実現を目指して

 

—— 北海道の北西部、積丹半島の岩宇地域に位置する岩内町は、ニシン漁で栄えた漁業の町として知られ、現在は「健やかなまちづくり」を基本理念に、前向きな発想と行動力でチャレンジするまちづくりを推進しています。その原動力となる若手職員の育成に向け、同じ岩宇地域の自治体(共和町・泊村・神恵内村)と合同で「若手職員研修会」(観光DMO研修)を実施し、タナベコンサルティングは企画提案からカリキュラム作成、講師派遣までトータルに支援しました。

 

木村 ポストコロナ社会と町の将来を見据えて「岩内町総合振興計画」を策定し、地域を支える町政の柱に5つの大綱を掲げています。

 

1つ目は、まちの未来を形にする人づくり。2つ目は、医療・介護・福祉の包括ケアマネジメントの推進。3つ目が経済力、つまり稼ぐ力の養成です。4つ目は、災害に強い安全・安心な暮らしづくり。そして5つ目がセールスプランの推進で、全国や世界へ「わが町」の魅力を発信していくことです。

 

—— 地域創生のアプローチとして、岩内町の魅力を再発見し、広く発信する取り組みが始動しています。

 

木村 岩内町は日本のビールのルーツで、1871年に国内で初めて野生ホップが町内で発見され、開拓使によるサッポロビールの前身企業の設立につながりました。150年の歳月を経て、地元の農園で栽培したホップで、ホテル事業者がクラフトビールづくりに成功しました。

 

また、明治期は町内に日本酒の蔵元が6軒ありましたが、それはコメや水がおいしい土地の証しです。そこで、北海道の酒造好適米『彗星』を栽培し、標高1086mの岩内岳の伏流水と日本海沖合の水深300mから汲み上げた海洋深層水を仕込み水に使い、独自の日本酒を試験醸造しています。さらに、全国で初めてホワイトアスパラガスの栽培に成功した、国産発祥の地でもあります。そうした岩内町にゆかりの深い、歴史的なストーリーがある地元ブランド産品の開発から挑戦を始めています。

 


ホップとアスパラガス発祥の地である岩内町。歴史を大切にしながらクラフトビールやホワイトアスパラガスなど、ゆかりの深い特産物を新たに開発している

 

—— 隣接4町村による「岩宇まちづくり地域連携ビジョン」の実現も目指していますね。

 

木村 「岩内郡」の岩内町と共和町、「古宇郡」の泊村と神恵内村で、岩宇まちづくり連携協議会を組織し、1つの生活・経済圏としてゴミ処理場や消防体制などを共同運用しています。観光地域づくりもその取り組みの1つで、4町村の広域連携で新たに DMOの設立準備を進めています。

 

ただ、行政が連携するだけでは限界があります。本当に大事なのは、町や村で仕事をし、日々を暮らす住民の皆さんが観光地域づくりに「その気」になること。そのためには、他地域より優位性がある魅力を職員が知り、先頭に立って発信して住民を巻き込んでいく必要があります。そこで、特に次代を担う若手職員の意識と行動を変えていこうと、今回、岩内町が事務局となって共同で研修会を実施しました。

 

 

住んで良し、訪れて良しのまちや地域をつくる

 

—— 2023年2月に開催した「若手職員研修会」には、岩宇地域4町村から20名が参加しました。

 

木村 近年、行政サービスはますます複合的になり、チームワークで提供する視点が重要になっています。1人当たりの業務量が増え、コロナ禍もあって独りで仕事を抱え込んで悩み、離職する若手職員が岩宇地域で増えていました。ですから、同世代の職員が町村の垣根を越えて交流し、互いに相談し合える関係性を築く機会にすることが、本当の目的でした。研修テーマをDMOに決めたのは、「わがまち」だけではなく「隣町」の魅力にも気付き、岩宇地域が「みんなのふるさと」になって地域間連携の機運を高める狙いもありました。

 

私もそうでしたが、「わがまち」の魅力は、ずっと住んでいると気付かないものです。でも隣町の職員とつながりを深めると、外から見た新たな視点を知るチャンスが生まれます。まちや地域の将来を考えるマインドや視座を持つこと。問題発見から解決へと自分なりに考え、行動を起こす力を身に付けること。こういった研修目的である「目指す姿」をタナベコンサルティングに相談し、ワールドカフェ方式やグループワークによるディスカッションなどを、うまくプログラムに盛り込んでもらいました。「地域づくりにどのようなマインドで行動を起こしていくか」へと議論を導いていただき、充実した研修カリキュラムになりました。

 


岩内町 町長 木村 清彦氏(左)。研修のブレーンストーミングで地域の魅力について意見を出し合った(右)

 

—— 地域を支える担い手として、職員にはどんな力を育んでほしいとお考えですか。

 

木村 地方自治体の職員は「前例主義」といわれてきましたが、地域創生の時代を迎えて、民間にできないことで「先例をつくる」こと、住民を「巻き込みながら挑戦する」ことが強く求められています。また、予算に税金を投入する上で、公平性や妥当性があるか、法的に問題がないか、といったバランス感覚も必要になります。

 

その時に、「1人で全てを分かっていないと何もできない」と考えてしまうと、先例をつくることも挑戦もできません。自分が分からないことを知る仲間を増やし、チームとして連携することが大事ですし、それが正確でスピード感ある発信力を高めていきます。そんな「わがまち」や「みんなのふるさと」に一人でも多くの職員が影響を与える存在に育っていくことを願っています。

 

—— 参加した職員の皆さんがとても積極的で、一人一人のポテンシャルの高さを感じました。

 

木村 各部署からバランスよくメンバーを選定し、岩内町からは10名が参加しました。「ジョブクラフティング」「チームビルディング」「リーダーシップ」「巻き込む力」が、終わりのない地域経営を在るべき姿へと発展させ持続可能にすること。また、立場や考え方が異なる多様なステークホルダーを動かすには、互いに顔が見える関係の仲間をつくり、いつでも連絡・相談できるつながりを持つ大切さにも、気付いてもらえたようです。

 

どうすればもっと「住んで良し」「訪れて良し」のまちや地域を目指していけるか。参加者は自分に足りないもの、向上すべきことを理解し、それぞれに行動を起こし始めています。また、研修後も参加者は互いに連絡を取り合い、食事会などを楽しんで交流を深めていると聞いています。結果として、町長の私や各部署の管理職などが、一人一人の得意なことやポテンシャルに気付く機会にもなりました。

 

3町村からも「参加して刺激になった」「気軽に相談できる仲間ができた」と評価する声が届いています。

 

※ 観光地域としての魅力を高めることを目的とした組織

 

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