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【特集】

地域プロデュース

高齢化や人口減少といった地域の課題を克服するには、地域産業に関わるさまざまなプレーヤーが連携し、ビジネスを創り、事業価値を高めて、地域経済を活性化させる必要がある。自律的で持続可能な地域社会の実現に向け、人と事業をつなぎ、育て、地域の未来を協創する取り組みを紹介する。
メソッド2024.01.29

新たな価値を創造するデジタル人材のリスキリング:大渕 元晴

世界で進む「リスキリング」

 

「リスキリング」は英語で「Reskilling」と表記され、直訳すると「学び直し」を意味する。経済産業省ではリスキリングを、「新しい職業に就くために、あるいは、今の職業で必要とされるスキルの大幅な変化に適応するために、必要なスキルを獲得する/させること」と定義している。

 

リスキリングが提唱されたきっかけは、2018年の「世界経済フォーラム(ダボス会議)」といわれる2020年のダボス会議では、「第4次産業革命に伴う技術変化に対応した新たなスキルを獲得するために、2030年までに世界中の10億人により良い教育、スキル、仕事を提供する」と宣言された。

 

日本国内でも、「第二百十回国会における岸田内閣総理大臣所信表明演説」(2022年10月)において、「個人のリスキリングに対する公的支援については、人への投資を、『5年間で1兆円』のパッケージに拡充する」と表明している。

 

また、内閣官房デジタル田園都市国家構想実現会議事務局の「デジタル田園都市国家構想基本方針について」(2022年6月)においても、「デジタル実装による地域の課題解決を牽引する人材を『デジタル推進人材』として、2026年度末までに230万人育成を目指す」と掲げている。このように、世界においてリスキリングの加速が始まっている。

 

 

産業革命と必要なスキルの変化

 

【図表】に、第1次産業革命から第4次産業革命までの要点をまとめている。これまでの産業の歴史だけでなく、産業・環境の変化に伴い必要とされるスキルが変化している点も押さえていただきたい。近年は特に、DXに対応するためのデジタル技術・データの活用を通じて、新たな価値を創造できるデジタル人材の育成が注目されているからだ。

 

【図表】第1次~第4次産業革命で起きた変化と必要とされる技術・スキルの変遷

出所 : タナベコンサルティング作成

 

労働人口の減少やデジタル技術の急速な発展などを背景に、今後地域や企業が成長していくためには、新しい価値の創造が重要となる。そのためには、地域資源の活用、生産性の向上、その原動力となる「人」の成長が欠かせない。

 

ポイントとなるのが、「ビジョンや戦略に基づいた必要スキルの学習」だ。リスキリングはその手段の1つであり、達成したい目的に合わせてリスキリングを行うことが重要である。

 

次に、地域におけるリスキリングの取り組み事例を紹介する。

 

事例1:和歌山県とタナベコンサルティングの連携「和歌山県 令和5年度DXオンライン入門講習」の実施
デジタル技術の活用よる既存事業の成長や新規事業の展開が進む中、各企業は競争力維持・強化のためにDXの推進が必須となっている。

 

和歌山県は、県内企業の競争力維持・強化や、デジタル活用による生産性向上と新規ビジネス創出を支援するため、ITリテラシーやデータ活用方法、新たなIT技術などの基礎的な内容の習得を目的としたDXオンライン入門講習を開催。タナベコンサルティングは、e-ラーニング形式によるDX基礎講座(全30講座)の制作を手掛け、111名の参加申し込みがあった。デジタル分野におけるリスキリング支援事例である。

 

事例2:岩手県とタナベコンサルティングの連携「岩手県 令和5年度デジタルリスキリングセミナー」の実施
岩手県は、人口減少や少子高齢化、労働力不足などさまざまな課題の解決に向けたDXの推進に向け、デジタル技術・データを駆使し、アイデアを具現化し、新たな価値を創造するデジタル人材の育成を進める必要があった。

 

そこで、タナベコンサルティングと連携し、地域課題の解決を通して県民の豊かな暮らしを実現することを目的としたデジタルリスキリングセミナーを企画。デジタル化・DXの潮流を理解し、業務効率化や生産性向上に活用できるデジタル知識を習得するセミナーを、県内2会場およびオンライン(各会場初級コース全2回、中級コース全4回)で実施し、33名が参加した。

 

 

誰もが自分らしく活躍できる社会に向けて

 

人間が行ってきた単純作業は、ビッグデータやAI、ロボットに代替されつつある。非付加価値業務が減り、以前より多様な働き方ができるようにもなったことでQOL(クオリティー・オブ・ライフ)を高めることも可能になった。

 

これは、一人一人の人間が中心となる社会であり、決してAIやロボットに支配される未来は来ない。人間が中心となる社会を実現するために、地域として、企業として、次の3つに取り組んでいただきたい。

 

❶ 人間の強みを生かす
デジタル技術による単純作業が減る中、人間が担うのは、創造性や問題解決能力を必要とする仕事に変化していく。削減された時間を生かして、高付加価値の業務に取り組むこと、地域に新たな価値を創造することが大切である。

 

❷「分かる」から「使える」スキルへ
新しいことを学び、身に付けるだけでは不十分である。価値発揮するためには、実践すること、実践の機会を用意することが重要だ。スキルを生かせなければ、生み出せる価値は限定的になり、マイナスな影響を与えかねない。

 

❸ 官民学の連携
地域・企業における人手不足は、ある1つの組織だけでは解決できない大きな「地域課題」とも言える。今後、「現在できる人がいない(少ない)から」「現在ない業務だから」という理由でリスキリングを始める人材は多いと思われるが、教える人材がいないため組織内での対応は難しい。

 

つまり、従来のOJT(オン・ザ・ジョブ・トレーニング)を超えた取り組みとして、専門性の高い外部アドバイザーと連携しながらスキルを習得していく必要がある。地域・企業全体で個々のスキルアップを支援し、新たな価値を創造できる人材を育成することが何よりも肝要だ。

 

世界中のさまざまな課題を解決するために、最も重要な資産は「人」である。地域も、人も、共に成長する手段として、リスキリングに取り組んでいただきたい。

 

 

 

Profile
大渕 元晴Gensei Oobuchi
タナベコンサルティング デジタル チーフマネジャー
金融機関にて法人営業、融資審査業務に従事後、海外にて就業。その後、市役所に入庁し、市の総合計画の進捗管理・調整、ふるさと納税の推進・ECサイト管理担当を経てタナベコンサルティング入社。東北エリアのDX推進を担当しながら、新規事業開発、業務標準化支援、会計・販売管理システムの再構築など幅広い分野で活躍し、クライアントの事業発展に貢献している。
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