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高齢化や人口減少といった地域の課題を克服するには、地域産業に関わるさまざまなプレーヤーが連携し、ビジネスを創り、事業価値を高めて、地域経済を活性化させる必要がある。自律的で持続可能な地域社会の実現に向け、人と事業をつなぎ、育て、地域の未来を協創する取り組みを紹介する。
2024.02.01

産官学民のBCP物流ネットワークで新たな需要を発掘:AZ-COM丸和ホールディングス


災害対策室訓練の様子。訓練開始から数分ごとに状況を付与し、「策定したBCPを本当に実行できるのか」を検証

BCPを絵に描いた餅にしてはいけない

 

—— 1970年の創業以来、多岐にわたる物流ニーズに応えてきたAZ-COM丸和ホールディングス。2019年6月に大規模災害発生時の物流支援を全面的にバックアップする専門チーム「BCP(事業継続計画)物流支援企画部」を新設しました。大小さまざまな物流の課題をラストワンマイルまで寄り添って解決してきた地域密着型3PL※1の知見を生かして、BCP物流のヒューマンネットワークを全国に展開しています。

 

1995年の阪神・淡路大震災、2011年の東日本大震災、2016年の熊本地震など、大規模災害が発生するたびにAZ-COM丸和ホールディングスは顧客のもとへ飛んでいき、全て無償で物流を支援する活動を続けてこられました。この活動は現在も続いているのですか。

 

小倉 はい、続けています。その中で、実効性のあるBCPを策定し、日頃から訓練を重ねておくことが重要だと考えるようになりました。そこで、BCP物流支援企画部を新設し、全国のトラック運送事業者のネットワークである一般社団法人「AZ-COM丸和・支援ネットワーク」(以降、AZ-COMネット)の会員1853社(2023年12月1日現在)と連携を行い、地域の人と事業を守り抜く物流支援を実行できるよう、本格的な体制づくりをスタートしました。

 

—— AZ-COMネットは、2015年にAZ-COM丸和ホールディングスが設立したトラック運送事業者を中心とする会員制の経営支援組織ですね。

 

小倉 はい。当社の大切なパートナーであるトラック運送事業者の多くは、人材不足や燃料価格の高騰、それに輪をかける過当競争で、深刻な経営難に直面しています。そのためAZ-COMネットでは、配車担当者やドライバー向けの研修、トラック・燃料・輸送資材などの共同購入、ETC(電子料金収受システム)の大口割引など、さまざまなサポートをきめ細かく行っています。

 

—— 大規模災害時に数十台、数百台の車両を手配するのは簡単なことではありません。通常時から協働関係にある運送のネットワークを、いざという時にも生かす仕組みですね。

 

小倉 BCPを「絵に描いた餅」にしてはいけません。いくら立派な計画を立てたとしても、実際に人が動かなければ意味がない。当社グループも含めたAZ-COMネット会員の皆さんは、災害時にも協力できる大切なパートナーです。

 

—— BCP物流支援企画部は何名で構成されていますか。

 

小倉 発足当初は4名でしたが、現在は12名で動いています。全員が現場を熟知していて、マネジメント経験も豊富な人材です。私を含む全員が、何から手をつければ良いかまったく分からないところからのスタートでしたから、まずは当社グループ全167拠点のBCP策定に着手しました。2023年度は、東京大学の生産技術研究所に3名、東北大学の災害科学国際研究所に2名を送り出し、どのように事業を成長させていけるか研究を重ねています。

 

—— 豪雨や台風などの被害は、年々激しくなっています。

 

小倉 とにかく緊張の毎日です。日頃から天気予報を入念にチェックし、少しでも災害の予見があれば、お客さまからの連絡を待たず、こちらから「何かありましたら、すぐにご連絡ください」と電話を入れています。数センチメートルの津波でも「本当に大丈夫かな」と常に続報を意識していますね。

 

自治体の想像を上回るソリューションを提供

 

—— BCP物流支援企画部を立ち上げた3カ月後には、千葉県房総半島で超大型の台風15号が発生し、甚大な被害を及ぼしました。

 

小倉 2019年の初めに、セブン‐イレブン・ジャパンと「大規模災害時における支援活動に関する協定」を締結したばかりでした。暴風雨の中、約150台のトラックを手配し、房総半島にある約400店舗の配送をサポートしました。

 

出動に当たっては、まず自社便を出します。しかし、大規模災害ともなると、自社のリソースだけでは車両も人手も到底足りません。だからこそ、各地域のパートナー企業と日頃から連携し、いつでも一緒にお手伝いできる体制を整えておくことが大切なのです。

 

—— 企業のみならず、自治体からの相談も急速に増えているそうですね。

 

小倉 これまでに24都道府県・35市区町村の計59自治体と災害時支援協定を締結しています(2023年12月1日現在)。AZ-COMネットは平時に災害に関する情報共有や教育、防災訓練などを行い、緊急時には応急措置や情報収集などを実施。緊急時に実働が発生した場合のみ、国と合意した基準に基づいて、自治体に実費を請求する協定です。

 

また、AZ-COMネットは2023年6月、内閣府から、「災害対策基本法」に基づいて防災行政上の重要な役割を担う「指定公共機関」に指定されました。

 

予算も人手も足りない自治体では、備蓄品や救援物資の輸送を職員の方々だけで実行することは不可能です。備蓄品の在庫管理も、手が回らずお困りになっているケースが多いことでしょう。しかし、当社の物流ノウハウを活用いただければ、備蓄倉庫の立地やレイアウト、配送システムなど改善の余地が山ほどあります。

 

当社は、お客さまが企業であっても自治体であっても区別することなく、「何かお困り事はないですか?」と普段から足を運び、自分たちにできるお手伝いを考え続けています。

 

—— 自治体の場合は職員の異動も頻繁ですし、コミュニケーションを深めていくにも独特の難しさがあるのではないでしょうか。

 

小倉 はい。それでも、私たちは「みんなで力を合わせれば必ずできる」と信じています。その心で挑戦を続けることが、創業以来、当社が最も大切にしている「桃太郎文化」※2だからです。

 

2020年に新型コロナウイルスの感染が急激に拡大した時には、地方自治体がワクチン輸送で混乱を極めました。低温食品や医薬医療品の物流に強みを持つ当社は、すぐに取引先である飲食業のお客さまに協力を仰ぎ、当社の低温物流センターに納めていたお客さまの在庫を別の場所に移動させてもらいました。マイナス75度のフリーザーを一元管理できる体制を構築するためです。

 

また、配送の専門部隊を組成し、日々変動する必要ワクチン数の動態管理を行いながら、数年間にわたってチルド車で接種会場を往復し続けました。

 

—— ワクチン輸送のみならず、注射針や薬のパッケージング、市民のワクチン接種予約・相談を受け付けるコールセンターまで手配されたことが驚きです。

 

小倉 当社のリソースをフル活用することはもちろん、日頃からお世話になっている取引先の皆さまの力をお借りして、1つずつ解決してきました。自治体職員の方々は、「こんなことまでお願いできるなんて思いもよらなかった」と感動してくださいました。

 

—— ほかの自治体からも相談が相次いでいるのではないでしょうか。

 

小倉 実績を重ねるにつれて、「もしかして、こんなこともできる?」という相談をいただけるようになってきました。入札のため予算が折り合わず成立しないケースもありますが、複数の自治体で共同備蓄をするなど、3PLならではの柔軟な発想で、さまざまなご提案をしています。

 


AZ-COM丸和ホールディングス
取締役 常務執行役員 事業推進グループ長 小倉 友紀氏

 

※1 サードパーティー・ロジスティクスの略で、荷主の物流部門全体を物流業者に委託する業務形態。1PL(ファーストパーティー・ロジスティクス)は、物流業務を全て自社で行い、2PL(セカンドパーティー・ロジスティクス)は、自社の物流業務の一部を外部に委託する業務形態
※2 AZ-COM丸和ホールディングスグループの価値観や考働規範の総称であり、独自の企業文化。桃太郎とは経営の先見3要素である「犬:考働力」「猿:知識力」「雉子:情報力」という3つを束ねる経営の基盤と捉えている

 

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