TCG REVIEW logo

100年先も一番に
選ばれる会社へ、「決断」を。
【特集】

シン・ローカライゼーション

人口減少や少子高齢化、過疎化、産業空洞化などさまざまな社会課題に直面する日本の地方。各地域に特有の課題に寄り添い、地域資源を組み合わせたバリューチェーンを構築することで新しい付加価値を提供する取り組みに迫る。
2023.03.01

存在意義と役割分担を明確化して拓くローカルビジネスのフロンティア:ファーマーズ・フォレスト

 

ファーマーズ・フォレスト 代表取締役 松本 謙氏

 

 

総合事業で利益を稼ぎ「出口戦略」を推進

 

始動した地域商社のビジネスモデルは、6次産業化の創造拠点として地域のあらゆる課題解決の仕組みをつくり、ものづくり(農業)、人づくり(食農体験・食育)、まちづくり(商流や観光の融合)の総合事業を展開するというものだ。その理由を松本氏は次のように説明する。

 

「狭い地域で農産物の流通に限定したモデルをつくろうと活性化ビジネスに挑む人もいます。ただ、季節性の影響を受けやすく、しかも薄利多売なので膨大な量をカバーしないと、組織が存立するだけの稼ぎを得ることは不可能です。

 

私たちは栃木県全域で、商流だけでなく体験交流や観光、プロデュースなど幅広い事業モデルを直営で手掛けています。また、大きく量を取る『額を稼ぐモデル』と、『率を高めるモデル』を混在させた総合事業化により利益を生み出し、経営を成立させているのが特徴です。地域ビジネスの成功には、スピード感と一定のスケール感が必要で、事業全体をどう構成するかを考えることが重要です」

 

生産者と消費者をつなぐラストワンマイルの物流を直営化したのは、遠方の農産物を届けにくい課題を解決するためだ。コストセンターとなっても、結果的に数多く売ることが可能になった。

 

ご当地ならではの魅力を体験する着地型観光ツーリズムも手間がかかる事業だが、一方で熱狂的なリピーターが次々と誕生。そして薄利多売で売上高を稼ぎつつ、コンサルティングなど生産性と利益率が高いサービスも併せ持つ「額と率の混在モデル」は、多様なノウハウが蓄積できるメリットも大きい。

 

総合事業化とともにもう1つ、重視することがある。生産振興と両輪を成す「出口戦略」だ。

 

「商材を右から左へ動かすだけでは、地域商社の役割は果たせません。生産者や事業者が望む商流を実現し、パッケージ変更やハイエンドを狙うターゲット設定など、ブラッシュアップもフィードバックしながら、出口起点でアドバイスする目利きやマーケティング機能が必要です。

 

あらゆる地域の課題や要望を引き受ける一元的な窓口、インターフェースとなって、大小さまざまな出口のアウトプットを導き出すのが、私たちのミッションです。『本当に売れる仕組みと、自ら選べる市場環境の選択肢をつくりましょう』といつも心掛け、また言い続けてきました。それなくしては、継がせたくなる農業になりませんからね。大胆なイノベーションを本当に望んでいるのは、実は地域の生産者や事業者なんです」(松本氏)

 

商品やサービスが展示物にならず、消費され、利用されるイメージをしっかり持ちながらプロデュースし、生産者や事業者も自らがプレーヤーになって考え、付加価値を高めていく。そんな出口戦略が、自走できる地域活性化へのアプローチになっている。

 

「地域の何でも屋さんになり、面倒くさいことを生業にする希有なモデルですが、それがノウハウとなり参入障壁にもなっています。中途半端にせず愚直に向き合い、なるべく短期で成果も残すようにしています。地域に認められ私たちの存在価値の実感を得た時に、新たな地平が拓けるでしょう」(松本氏)

 

創業10周年となる2017年に刷新した企業理念は「ローカルビジネスフロンティア」。地域ビジネスの新たな地平の開拓者となり、先例のない道をつくりフロンティアへと導く姿へ、同社は着実にアップデートを遂げている。

 

 

旗振り役から「地域の自分事化」の伴走者に

 

独自の地域商社モデルは、沖縄最大級の産直複合施設「うるマルシェ」(沖縄県うるま市)や、2022年4月に開業した「道の駅ふくしま」(福島県福島市)など、栃木発で全国へと波及し始めている。

 

「スタッフは100%地域雇用ですし、地域のリソースを活用したコンテンツがあって、結んだりつながったりと地域を巻き込み、場をつくることで私たちは存在できます」(松本氏)

 

地域間の商流や地域同士を結び付ける仕組みとロジック。人と人が共感し、同じ思いを胸に抱くつながり。大量生産型のサプライチェーンとは違い、生産者や事業者、自治体交流も含めた地域間のバリューチェーンがつながる「広域ローカル経済圏」を創り出そうという展望だ。トライ&エラーの挑戦だが、すでにうるま市で製造するEV(電気自動車)が、観光渋滞を解決し周遊性も高める宇都宮市のグリーンスローモビリティー事業に採用された。栃木のいちごを沖縄で、沖縄のマンゴーを栃木で販売する、名産品の双方向の商流も生まれている。

 

「全国でさまざまな地域ビジネスや人が動き出しているので、そのネットワークをつなぐプラットフォームをつくりたいという思いがあります。さらに、大手企業・商社ともうまくコラボすれば、全国からさらにグローバルへと、地域活性化のモデルが広がっていくと確信しています」(松本氏)

 

地域性や伝統的な食文化に違いはあっても、本質的な課題には共通点が多いと語る松本氏。地域のあらゆる課題を解決していく中で、あえて「何をしないか」の見極めについては次のように語る。

 

「地域が活性化する原動力、エンジンになると言い続けてきましたが、最近はあまり言わないようにしています。私たちが強力なエンジンになり過ぎると、地域にとって他人事になってしまい『任せておけばいいや』という依存心が生まれるからです。

 

私たちがつくりだすインフラを、地域の人が自分たちで考え、どんどん活用してくれる。そんな理想を思い描いています。先陣を切るイノベーションで私たちが道を示した後は、良い距離感とバランスを取りながら、地域の方々と伴走する立ち位置でいることを大事にしています」(松本氏)

 

自社が100年企業であり続けながら、地域も100年続いていく姿になる。旗振り役から、地域が自走する伴走者にもなる同社の物語は、新たな1ページをつづり続けていく。

 

 

高速道路IC隣接の「道の駅ふくしま」。屋内子ども遊び施設併設の日常と観光のハイブリッド拠点

 

 

2018年にオープンした沖縄県うるま市の「うるマルシェ」スタッフと松本氏(前列中央の左)

 

 

PROFILE

  • (株)ファーマーズ・フォレスト
  • 所在地:栃木県宇都宮市新里町丙254
  • 設立:2007年
  • 代表者:代表取締役 松本 謙
  • 売上高:30億円(2022年3月期)
  • 従業員数:318名(2023年1月現在)

 

 

 

1 2
シン・ローカライゼーション一覧へ特集一覧へ

関連記事Related article

TCG REVIEW logo