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【特集】

シン・ローカライゼーション

人口減少や少子高齢化、過疎化、産業空洞化などさまざまな社会課題に直面する日本の地方。各地域に特有の課題に寄り添い、地域資源を組み合わせたバリューチェーンを構築することで新しい付加価値を提供する取り組みに迫る。
2023.03.01

存在意義と役割分担を明確化して拓くローカルビジネスのフロンティア:ファーマーズ・フォレスト

46万m2という広大な土地で展開する「ろまんちっく村」

 

 

未利用な地域資源に新たな価値を創造し地域を再活性化する取り組み事例。大谷石の採石場跡地を活用した「OHYA UNDERGROUND」ツアーは半年待ちになることも

 

 

年間140万人超、延べ2500万人が訪れる「道の駅」を拠点に、地域ブランドの創造や着地型観光体験プログラム、クラフトビールの自社開発など、総合的な「農と食」の支援事業を、地域商社として展開。地域創生のお手本といわれる先駆者が語る「地域を活性化するビジネスに、本当に大事なこと」とは。

 

 

東北復興を目指してワイナリーづくりに奔走

 

東京ドーム10個分、46万m2の広大な敷地の「道の駅うつのみや ろまんちっく村」(栃木県宇都宮市)。農産物直売所、新鮮な食材を味わう飲食店、体験農場、森林回遊、温泉や宿泊施設も併設するこの「農と食の滞在体験型ファームパーク」は、ファーマーズ・フォレストが運営する地域経営・交流の拠点だ。創業者で代表取締役の松本謙氏は、地方創生の旗手として注目を集めるが、始まりは意外にも「ロマン」にあった。

 

自動車メーカーの新車開発部門から、施設の維持管理運営や不採算施設を運営面で再生させるビジネスへと転身を遂げた松本氏。宇都宮市農林公園の経営難に苦しむ第三セクターを解体し民間運営への移行を進めるために現地へ足を運んだとき、目の前に広がる46万m2の里山の光景に心を奪われた。

 

「これだけのスケール感ある施設を生かすビジネスモデルを、自分の思いでつくるチャンスはなかなかないと思いました。再生だけで終わらず、長い間しっかりと運営できる100年企業になる仕組みをつくり、付加価値を高めて地域に貢献したい。そんな思いから、無謀を承知で自らエントリーし、独立して事業会社を立ち上げました」(松本氏)

 

再生ビジョンでこだわったのは、都市と農村の交流施設という世界観への原点回帰だ。「農村の日常=都会の非日常」である不便さを体験する喜びや、旬の味や買い物を楽しむ時空間の価値をコンテンツ化。「おいしい楽園」をテーマに掲げ、魅力あるサービスに統一し提供する仕組みづくりを推進。入場料は無料にした。

 

また、テナント制から原則直営化へかじを切り、コストを抑える原価統制にも注力。再生へのテイクオフは1年後の2009年には安定飛行を始めた。しかし、松本氏は強い危機感を抱いていたと言う。

 

「農産物直売に関わる地域の生産者や事業者をまとめていこうと、『私たちに任せてもらえれば、皆さんの生活は守っていきます』と話したところ、当初は総スカン状態でした。

 

私は栃木県外から来たよそ者で、言わば黒船。『農家や地域ビジネスとも無縁だったお前に何ができるんだ』という地域の排他性からくるものです。採算を取るだけでは、いずれ私たちが不要になる日がやってくる。このままでは100年企業になれないと思いました」(松本氏)

 

悩み抜いた末にたどり着いたのが「自分たちの存在意義と役割分担の明確化」だ。地元の人が課題と感じていないこと、良いものを良いと知らないまま付加価値を生み出せていないこと。よそ者だからできる、地域課題解決型の事業をビジネスにすることで、地域のインフラとして本当に必要とされる存在になっていけば良いと気付いた。

 

「何を言っても否定され、理解してくれない。地域って本当に面倒くさいなあと思うようなことも時々ありましたが、私たちは率先する旗振り役であって、無理にまとめ役にならずファシリテーターのような役割を担おうとしました。

 

できることから地道に小さな成功体験を積み上げ、自治体や地域と役割分担したのです。すると、次第に相乗効果が生まれ、事業がサステナブルな環境に変わり、地域の賛同者も増えるようになりました。『地域商社』モデルの構想を描き出したのはそれからです。明確な役割を持ち、自分のスタイルを貫きながら、一気に加速していきました」(松本氏)

 

 

 

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