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100年先も一番に
選ばれる会社へ、「決断」を。
【対談】

100年経営対談

注目企業のトップや有識者と、タナベコンサルティンググループの社長・若松孝彦が「100年経営」をテーマに対談。未来へ向けた企業の在るべき姿を描きます。
対談2024.02.01

「会社はみんなのもの」。全員主役の「ひろば経営」でグローバルニッチトップ企業へ:関ケ原製作所 代表取締役 矢橋 英明×タナベコンサルティング 若松 孝彦

 

「会社はみんなのもの」の精神で人間主体の事業経営を目指す

 

若松 2018年に社長に就任されると、「原点回帰」を第三創業のキーワードとして掲げました。原点や創業の精神を伝えていくことは非常に重要だと私も考えています。そうした理念や哲学は、人づくり・基盤づくりを探求する「ひろば」とビジネスモデルを探求する「事業」を両立するバランス経営にも表れています。

 

矢橋 人間主体のバランス経営を目指すために、社長就任時に「ひろば経営51%、事業経営49%」と決めました。これは自分自身への戒めでもあります。社員の幸せが何よりも大事。社員が満足してこそ、良い製品・サービスが生まれ、顧客満足は競合他社を上回り、その結果、社会に貢献して価値創造につながっていきます。

 

ひろば経営のベースには理念があり、その上に人づくりがあります。さらにその上に、会社づくりと価値創造という事業経営がある。この4つが積み重なり、社会貢献につながっていくのが目指す姿です(【図表2】)。ひろばという基盤の上で人材を育成し、その人材が事業を育成する。今はようやく理念、人材、事業が三位一体になってきた段階です。

 

【図表2】関ケ原製作所が掲げる「ひろば経営」「事業経営」

出所 : 関ケ原製作所提供資料よりタナベコンサルティング作成

 

若松 私は、「組織は戦略に従い、戦略は経営理念に従う。そして、その経営理念は社員が実践してこそ成果になる」と言ってきました。ひろば経営と事業経営の位置付けや、矢橋社長の目指す姿はその原則通りです。また、タナベコンサルティンググループは、関ケ原製作所の「社長塾」も支援させていただいていますが、確実に次世代人材が育ってきているのを感じます。

 

矢橋 2019年から「社長塾」をスタートし、現在は3期目です。おかげさまで、思いや志を承継する人材が育ってきています。

 

若松 それはうれしい限りです。皆さん本当に熱心に取り組んでいらっしゃいますし、ひろば経営が浸透して、1つの文化、社風になっている印象を受けます。

 

矢橋 ありがとうございます。実は以前タナベコンサルティングに協力いただいて社員満足度調査(エンゲージメントサーベイ)を実施したところ、2割は高い評価、6割が中ぐらい、2割が低い評価でした。厳しい結果を目の当たりにした私は全社員と面談を実施し、そこで出された180項目を超える意見や要望に応えてきました。

 

最近、再び社員満足度調査を実施しましたが、高い評価が3割、中ぐらいの評価が6割、低い評価は1割まで改善しています。ですが、私はまだ満足していません。社員にとって会社とは、「明るく楽しい生活空間」。社員にとって仕事とは、「生きがい、やりがい、自己実現の場」。これがひろば経営の目指す姿であり、その実現に向けて今後も取り組んでいきます。

 

若松 社員満足度は具体的施策を実装したり、具体的な教育を通じて社員の皆さんの価値を高めたりすることで必ず改善していきます。180項目の改善へ取り組んできた経営者リーダーシップの結果が調査結果に反映されています。経営は「愛」ですからね。

 

矢橋 経営は「愛」ですね、私もそう思います。

 

 

シナジーで新たなサービスモデルを創造し、人と技術が輝く100年企業へ

 

若松 昨今よく耳にする人的資本経営の実装が「ひろば経営」と言えます。一方、営利企業である以上、利益を人材に投資できる事業も大事です。さきほどの「事業経営49%」というバランスが絶妙です。事業経営で注力されているテーマや課題はありますか。

 

矢橋 おっしゃる通り、企業は利益を出して人材・開発・設備投資をしながら未来を創造していかねばなりません。両輪を回すことが大事です。

 

また、事業間のシナジー(相乗効果)の発揮に取り組んでいます。7つの事業で培った技術・技能に横串を刺していこうと、まずは営業担当者や技術者を集めたマーケティング研究会を立ち上げ、各事業の強みや弱み、保有する技術・技能を整理しました。今では営業担当者が新規の顧客開拓に挑戦したり、設計担当者も同行したりと、マーケティング研究会を通じて新たな展開が広がっています。7つの事業を混ぜたら面白いことが起こったので、最近はグループ会社も含めてシナジーを出していこうと同様の活動を始めたところです。

 

それらの活動を通して、新しい強みとなるのは「サービスモデル」であると感じています。これを8つ目の事業の柱にしようと取り組んでいるところです。当社の製品に対してサービスを提供するだけでなく、他社製品のサービスまで手掛けられるような体制強化を図ります。この事業が成長した暁には、本当の意味での事業シナジーが生まれると期待しています。

 

若松 この先、国内のものづくりは、どんどんサービス業化していきます。私は「ものづくりサービス業」と言っています。製造業もアフターサービスを磨くことで、次の取引のビフォアーサービスになる時代なのです。

 

矢橋 同感です。アフターサービスをビフォアーサービスにすることが、ますます重要になります。

 

若松 事業のセグメントは、国内ナンバーワンやグローバルニッチトップに向かっていますね。成長する技術を見極めるコツはありますか。

 

矢橋 当社の場合、取引先の課題やニーズから新たな技術に取り組むケースが多いです。ただ私が大事だと思うのは、「やめること」です。既存製品についても、競合先が多く出てきたら勇気を出して「やめよう」と言います。やめると人間は貪欲になり、新しいこと、次の展開を考えるようになります。考えないと食べていけませんからね。

 

若松 トレードオフ戦略ですね。やめる決断は、経営者の重要な仕事です。企業変革は「捨てる、改める、新しくする」のステップで取り組むことが大切です。新たに挑戦できる環境を意識的につくり出されているのですね。

 

矢橋 顧客創造についても、今は商社との連携を強化しています。商社は豊富な人脈と情報をお持ちですから、当社が気付かなかったお客さまとの接点が生まれています。プロダクトアウトの会社でしたが、マーケットインからマーケットアウトに変えていこうとチャレンジしています。100年企業に向けて「つながり、変化、深化、進化」をキャッチフレーズに掲げて取り組んでいますが、文化を深化させて事業を進化させていくのが私のミッションだと考えています。

 

若松 私は「長所連結主義」と言っていますが、会社や人材の強みを見つけ、磨き、つなぐことが経営であり、戦略です。「人間塾」や「匠道場」では、まさに強みを磨いておられます。

 

もう1つ重要なのが、事業と人とのつながりです。そこを人間ひろばや「会社はみんなのもの」という創業の精神でつなぐことで、人材や組織からイノベーションが生まれる会社を探求していく。100年経営とは変化を経営する会社です。関ケ原製作所にとって、「つながり、変化、深化、進化」が100年企業への道なのだと感じました。貴重なお話をありがとうございました。

 

 

関ケ原製作所 代表取締役 矢橋 英明(やばし ひであき)氏

1966年岐阜県関ケ原町生まれ。1990年東海大学工学部卒業後、椿本興業入社。1997年関ケ原製作所入社後、2009年から2015年まで中国工場に赴任。2015年帰国後、常務取締役、2016年代表取締役副社長を経て2018年より現職。

 

 

タナベコンサルティンググループ タナベコンサルティング 代表取締役社長 若松 孝彦(わかまつ たかひこ)

タナベコンサルティンググループのトップとしてその使命を追求しながら、経営コンサルタントとして指導してきた会社は、業種・地域を問わず大企業から中堅企業まで約1000社に及ぶ。独自の経営理論で全国のファーストコールカンパニーから多くの支持を得ている。1989年にタナベ経営(現タナベコンサルティング)に入社。2009年より専務取締役コンサルティング統轄本部長、副社長を経て2014年より現職。2016年9月に東証1部(現プライム)上場を実現。関西学院大学大学院(経営学修士)修了。『100年経営』『戦略をつくる力』『甦る経営』(共にダイヤモンド社)ほか著書多数。

 

 

タナベコンサルティンググループ(TCG)

大企業から中堅企業のビジョン・戦略策定から現場における経営システム・DX実装までを一気通貫で支援する経営コンサルティング・バリューチェーンを提供。全国600名のプロフェッショナル人材を有し、1957年の創業以来15,000社の支援実績を持つ日本の経営コンサルティングのパイオニア。

 

 

PROFILE

  • (株)関ケ原製作所
  • 所在地 : 岐阜県不破郡関ケ原町2067
  • 創業 : 1946年
  • 代表者 : 代表取締役 矢橋 英明
  • 売上高 : 248億円(2023年5月期)
  • 従業員数 : 393名(2023年5月現在)

 

 

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