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100年先も一番に
選ばれる会社へ、「決断」を。
【対談】

100年経営対談

注目企業のトップや有識者と、タナベコンサルティンググループの社長・若松孝彦が「100年経営」をテーマに対談。未来へ向けた企業の在るべき姿を描きます。
対談2022.11.01

「いま、必要とされるもの」を追求し、家庭総合サービス企業へ進化する:テノ.ホールディングス 代表取締役 池内比呂子×タナベコンサルティング 若松 孝彦

 

 

1999年創業のテノ.グループは、「女性のライフステージを応援します」という経営理念を掲げ、保育や介護の分野で成長を遂げてきた東証プライム上場企業である。さまざまな女性が活躍できる組織を強みに、家庭総合サービスグループとしてさらなる高みを目指していく。

 

 

380円の弁当販売を通してビジネスの本質を学ぶ

 

若松 テノ.グループはベビーシッター派遣や認可保育所の運営、事業所内保育所の受託、介護サービスの提供など、家庭総合サービス領域で事業を展開されています。しかも、池内社長は専業主婦からの転身です。まずは創業の経緯をお聞かせください。

 

池内 当グループの創業は1999年ですが、ビジネスに興味を持ったきっかけは創業前に友人と始めた弁当屋でした。

 

私は10年ほど会社員を経験した後、専業主婦になりました。そのころ友人によく料理を振る舞っていましたが、特に喜ばれたのが私の故郷である長崎県大村市の郷土料理「大村寿司」です。「売ってみたら?」という友人の勧めで弁当事業をスタートし、前職の縁もあって福岡空港内で販売することになりました。

 

弁当のパッケージやネーミング、メニューの考案から製造、販売まで全て自分たちで手掛けた弁当を、初めてお客さまが手に取った時の感動は今でも鮮明に覚えています。たった380円の弁当ですが、一生懸命つくった商品でお客さまから対価をいただき、「ありがとう」と言っていただける。ビジネスの楽しさを知った瞬間であり、ビジネスを続けたいと思う原体験になりました。

 

若松 なるほど。弁当づくりは値段からネーミング、販売方法まで全てオリジナルですからね。この時に、商売の純粋なところを体験されたのですね。まさにビジネスの原点です。その後、ベビーシッター事業で創業されたのはなぜですか。

 

池内 友人に「おいしい」と乗せられて弁当事業を始めたため、事業計画などはないまま弁当を売っていましたが、続けるうちに「本気でビジネスに挑戦したい」という気持ちが強くなりました。

 

3年ほどして起業し、調査する中で出合ったのが「子育て支援」でした。ちょうど女性の社会進出が本格化し、「介護保険制度」がスタートした時期。最初は介護ビジネスを検討しましたが、市場規模は4兆円あるものの大手企業が複数存在していました。その一方で、ベビーシッター業界はトップ企業でも売上高は約1億円と、まだマーケットが小さかった。「ここならトップになれるのではないか」と考え、参入を決めました。

 

若松 「弁当販売からスタートしたので飲食ビジネスを手掛ける」となるところを、子育て支援という市場に目を向けたところ、成長途上である小さな課題解決市場にチャンスがあると思われたところに卓越した事業センスを感じます。

 

池内 緻密な市場分析などはしていなかったので、子育て支援の領域を選んだ理由は勘と言った方が良いかもしれません。ただ、世の中の動向に目を向けると女性の社会進出が進んでおり、同分野は成長するだろうと感じていました。

 

 

創業から一貫して女性のライフステージをサポート

 

若松 「世の中に何が必要か」という視点から社会課題解決の事業化を検討されたのですね。企業理念にある「女性のライフステージを応援します」というキーワードにもマッチしています。今の経営理念はいつごろつくられたのでしょうか。

 

池内 「女性のライフステージを応援します」は、創業してすぐに掲げました。ベビーシッター事業をする中で女性がとても頑張っている姿に触れ、応援するのが私たちの仕事だと思ったからです。

 

ただ、ベビーシッターは利用料が高いため、利用者は富裕層に限られます。「もっと幅広い層をサポートするにはどうしたら良いか」。そこから国や企業を巻き込んだ子育て支援へと事業領域を広げていきました。

 

若松 顧客価値のあくなき追求の結果として、ベビーシッター事業が保育所の運営事業につながったわけです。

 

池内 ベビーシッター事業の次に立ち上げたのは、保育所などに向けた人材派遣事業でした。その後、2001年に保育所事業をスタートし、2003年に第一交通産業さまの事業所内受託保育事業を開始。2006年、西鉄事業所内保育所「ピコラン」の運営受託をきっかけに、受託保育事業を拡大していきました。

 

一方、公的保育事業についても2010年から東京都や九州でスタートしており、現在は公的保育事業が売上全体の6割、受託保育事業が3割、残りの1割がベビーシッターや人材派遣、介護事業という事業構成になっています。

 

若松 全ての事業の底流にある顧客価値「女性のライフステージ」を軸とする課題解決型のビジネス領域の拡大です。私たちが提唱する「顧客が顧客を呼ぶ善循環のビジネスモデル」として、ビジネスの拡大を実現されています。

 

池内 当グループのビジネスやイノベーション、働き方の原点にあるのは「女性目線」。これが最も重要なキーワードと言えます。ただ、当グループには保育所の運営会社という意識はありません。あくまで女性のライフステージを応援する企業であり、家庭総合サービス会社。その意味では、お客さまと同様に社員のライフステージも大事に考えています。

 

当グループ初の求人広告のキャッチコピーが「好きな時間に好きな場所で」だったように、当時から個々に合わせた働き方を尊重しており、昇進なども性別は関係ありません。正社員や非常勤社員、派遣社員、ベビーシッターなど多様な職種、雇用形態が混ざり合ったダイバーシティー&インクルージョン(以降、D&I)こそ、当グループの強みと言えます。

 

若松 それは全てのビジネス戦略に言えることだと思います。私はD&Iの話をするとき、「『女性を中心にマーケットが動いている』という現実を直視するべきだ」と言っています。特にBtoC領域は顕著ですし、BtoB領域も同様に変化しています。サービスや商品開発に女性の意見やアイデアが入っていないと、顧客ニーズが理解できない時代です。

 

 

 

九州地方で初めて株式会社が運営を始めた認可保育園「あいあい保育園」(2010年4月1日開園)。博多の森競技場や東平尾公園が近くにあり、自然あふれる環境の中、養護と教育が一体となった保育を提供している

 

 

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