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100年先も一番に
選ばれる会社へ、「決断」を。
【対談】

100年経営対談

注目企業のトップや有識者と、タナベコンサルティンググループの社長・若松孝彦が「100年経営」をテーマに対談。未来へ向けた企業の在るべき姿を描きます。
対談2023.08.08

独創的な開発力で世界への道を開く:ニシオホールディングス 代表取締役社長 西尾 公志×タナベコンサルティング 若松 孝彦

 

 

仮設のチカラを社会課題解決につなげる

 

若松 通信機能の取り付けだけでなく、実際には現場のディレクションや全体の最適化も必要です。ある種のコンサルティングのようなサービスであり、付加価値が高いですね。

 

西尾 特に建設現場は過酷な環境ですから、高い技術や対応力が必要です。そうした技術や経験を街づくりにも提案できるのではないかと考えたのが2020年。大阪市北区の梅田スカイビルの前にある「うめきた外庭SQUARE」で、BCP(事業継続計画)対策とにぎわいの創出を両立させる「MIDORIオフィス」の実証実験を行いました。西尾レントオールの本社を屋外に置く実験です。地震などでオフィスが使えなくなった際、公園などの屋外で通常業務が行えるかを確かめました。

 

若松 面白い試みです。ただ、会社の業務を行うとなると、インターネットの通信速度や情報のセキュリティー面が心配です。

 

西尾 そこが課題といえますが、建設現場で鍛えた技術を使って通信環境を整備しました。約1カ月間、UR都市機構やスタートアップ企業数社なども参加して、働く人への影響などを調査しました。

 

また、同様の技術を使って新型コロナウイルスのワクチン集団接種会場のデモンストレーションを実施したこともあります。森ノ宮医療大学(大阪府大阪市)に監修をお願いし、大型テントを会場にする試みを提案させていただきました。

 

若松 東日本大震災の折、被災地のクライアントを訪問しました。社屋が全壊したある企業は、屋外にテントを建てて業務を続けていたことが思い出されます。不確実性が高まる時代において、迅速に設営できる仮設が必要とされる場面は増えていくのではないでしょうか。

 

西尾 おっしゃる通りです。これまでは建設機械のレンタルが中心でしたが、今後はノウハウを組み合わせることで、街づくりや社会課題解決に取り組んでいきたいと考えています。また、こうした実験や試みを通して、当社に関心を持ってくださる層も確実に広がっています。

 

若松 仮設に関する高い開発力を持っておられます。高い技術力や対応力があるので、リース・レンタル事業を中心としたトータルサービスの展開も期待されます。

 

西尾 リース・レンタル事業という切り口から、産業特有の課題を解決できます。例えば、秋田県は木材産業が盛んですが、特に二次加工業者は中小企業が多く設備投資が遅れがちです。当社はCLT材(直交集成板)の加工工場に対し、サブスクリプションサービスとリースを使って新しい設備を提供しています。

 

また、高知県・仁淀川町と連携する「協働の森づくり事業」では、植林や林道の敷設、製材所の運営を支援するなど、これまでの事業にとどまらない新たな取り組みが増えています。木材産業だけでなく、設備投資で遅れている部分はリースやレンタルが貢献できる部分だと考えています。

 

若松 このような活動をもっとみなさんに知っていただきたいです。とにかく実装力が素晴らしい。実装させるソリューションの価値、ニシオホールディングスだからこそできる社会課題解決の可能性は大いにありますし、事業のセグメンテーションも変わっていくと思います。

 

西尾 建設現場であっても、イベント会場であっても、対応力が不可欠です。そこは当社の強みといえます。その意味では、2023年4月にホールディングスになったので、新たな展開ができると思います。

 

 

交流を通して視野を広げ新たな価値を創る

 

若松 どのような戦略を推進するにしても人材が要になります。「人的資本」が注目を集めていますが、ニシオホールディングスの人材・組織づくりについて、どのような地図を描いていらっしゃいますか。

 

西尾 レンタル事業において、ご提供に至る各プロセスは、作業する社員個人の対応力に大きく依存しています。その意味で人材は一番の財産であり、課題といえます。

 

当社は、「プロフィット制」を取り入れています。小さい単位で利益を管理する仕組みで、利益の管理や分配まで任せています。現場が経営感覚を持つことが成長につながるという考えです。

 

若松 日本企業における組織論は、エンゲージメント以上にエンパワーメント(権限委譲)のデザインが大切です。小さな組織に分けて権限と責任を持たせることで業績意識も高まりますし、経営センスも磨かれます。

 

西尾 この仕組みは外部環境が変わらない状況で利益を管理することに長けています。ただ、今の時代はもっと大きな視点で業界の変化を捉える力を養う必要があります。

 

若松 加えて、これからの事業経営においては、経営センス以上に事業センス、新しいアイデアでイノベーションや成長を創出するクリエイティブなリーダーシップも必要になります。

 

西尾 変化の激しい時代においては、良いところは残しつつも、変化に対応できるビジネスを創造しなければなりません。ですから、幹部クラスには担当するエリアの業績管理に加えて違うテーマや役割を担ってもらっています。例えば、「モビシステム」という無人のモビリティーシステム(はたらく車のカーシェアリング)というテーマに関しては、ある地域の営業部長に全国を統括してもらうなどです。

 

今後は、全社員が本来の業務に加えて、プラスアルファの何かに挑戦してほしいと思います。他社や地域との交流を通して視野を広げ、5年後、10年後を考えられる人材をつくっていかなければなりません。2025年開催の日本国際博覧会(大阪・関西万博)に向けて大阪市住之江区咲洲で建設中の「R&D国際交流センター」や、同センター内で2022年12月に竣工した移設可能な木造のアリーナ「咲洲モリーナ」を利用し、社外の人々とも交流してもらいたいと考えています。

 

若松 R&D国際交流センターは、新たなレンタルビジネスの発信基地としてシンボリックであり、新しい価値を創造する大事な位置付けになりますね。

 

西尾 最初は日本万国博覧会やIR工事の拠点に加えて、社内だけでなく地域や企業、大学なども呼び込んで活発に交流する場所として提案しました。コロナ禍の影響でオフィスの在り方は確実に変わっています。研究開発や商業的な要素を入れながら、今までとは異なる拠点にしたいと考えています。

 

若松 西尾レントオールの創業時のように、新しいことに挑戦することでパイオニア精神が養われますから、交流を増やして新たな視点やビジネスに結び付けてほしいですね。本対談を実施した咲洲モリーナはデザインが美しく開放感があります。木材がふんだんに使われており、大阪・関西万博のコンセプトにも合っています。

 

西尾 独自技術の「ATAハイブリッド工法」を使った木造建築で、柱がなく、内部が広々としているのが特長です。長崎県・五島列島の風力発電所の宿舎や事務所にも採用されるなど活用の幅が広がっていますが、この工法はもともと工事現場用テントやテント倉庫、イベント会場のテントを手掛けていた延長線上で開発しました。ずっとそこにある建物ではなく、期限付きの仮設の建物です。人口が減少する現代において、場所や用途を変えて何度も使用できる建物を目指しています。

 

若松 対談を通してリース・レンタル事業の可能性は無限であると、あらためて感じました。ニシオホールディングスに蓄積された技術と現場対応力、実装に導く強い推進力を武器に、社会課題の解決に向けて新たな価値を創造されることを祈念しております。本日はありがとうございました。

 

2025年開催の日本国際博覧会(大阪・関西万博)に向けて建設中の「R&D国際交流センター」。上の写真の中央下部が転用・移設できる大規模な木造の建造物。下の写真は2022年12月に竣工した「咲洲モリーナ」。独自技術の「ATAハイブリッド工法」を使った木造建築で38mの大空間を実現した。スポーツイベントの開催や地域の企業・団体との共同利活用を予定している

 

 

ニシオホールディングス 代表取締役社長 西尾 公志(にしお まさし)氏

1960年大阪府生まれ。東京大学卒業後、1985年小松製作所入社。1987年西尾レントオール入社後、1988年取締役・経営計画室長、1991年東京支店長、1992年常務取締役を経て、1994年より現職。
タナベコンサルティンググループ タナベコンサルティング 代表取締役社長 若松 孝彦(わかまつ たかひこ)

タナベコンサルティンググループのトップとしてその使命を追求しながら、経営コンサルタントとして指導してきた会社は、業種・地域を問わず大企業から中堅企業まで約1000社に及ぶ。独自の経営理論で全国のファーストコールカンパニーから多くの支持を得ている。1989年にタナベ経営(現タナベコンサルティング)に入社。2009年より専務取締役コンサルティング統轄本部長、副社長を経て2014年より現職。2016年9月に東証1部(現プライム)上場を実現。関西学院大学大学院(経営学修士)修了。『100年経営』『戦略をつくる力』『甦る経営』(共にダイヤモンド社)ほか著書多数。

 

 

タナベコンサルティンググループ(TCG)

大企業から中堅企業のビジョン・戦略策定から現場における経営システム・DX実装までを一気通貫で支援する経営コンサルティング・バリューチェーンを提供。全国600名のプロフェッショナル人材を有し、1957年の創業以来15,000社の支援実績を持つ日本の経営コンサルティングのパイオニア。

 

 

PROFILE

  • ニシオホールディングス(株)
  • 所在地 : 大阪府大阪市中央区東心斎橋1-11-17
  • 設立 : 2023年(西尾レントオール設立:1959年)
  • 代表者 : 代表取締役社長 西尾 公志
  • 売上高 : 1706億3400万円(西尾レントオール連結、2022年9月期)
  • 従業員数 : 4551名(西尾レントオール連結、2022年9月現在)

 

 

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